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連載

杉江松恋の新鋭作家ハンティング vol.40

2021年デビューの新人作家ベスト4!——杉江松恋の新鋭作家ハンティング特別編

杉江松恋の新鋭作家ハンティング

2021年デビューの新人作家を振り返る

書評家・杉江松恋が新鋭作家の注目作をピックアップ。
今回は、新春特別編として2021年の新人作家ベスト4を発表します。

 二〇二一年にデビューした中で最も読むべき新人は誰か。
 新春の特別編として、昨年の回顧をお届けしたいと思う。
 デビューから三冊目までの新鋭作家を取り上げるというのが本欄の決まりである。可能な限り目を通すように努力はしているものの、それでも見落としはある。昨年第一作が出た中で掬いきれなかった作品として、井戸川射子『ここはとても速い川』(講談社)と川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(河出書房新社)を挙げておく。
 二〇二一年度の主だった新人賞受賞作は以下の通りである。*は本欄で取り上げた作品だ。

【純文学系】

  • 群像新人文学賞(講談社):石沢麻依『貝に続く場所にて』(芥川賞)・島口大樹『鳥がぼくらは祈り、』
  • 新潮新人賞(新潮社):久栖博季「彫刻の感想」※未刊行。
  • すばる文学賞(集英社):永井みみ「ミシンと金魚」※未刊行。
  • 太宰治賞(筑摩書房):山家望『birth』
  • 文學界新人賞(文藝春秋):青野暦「穀雨のころ」・九段理江「悪い音楽」※共に未刊行。
  • 文藝賞(河出書房新社):澤大知「眼球達磨式」※未刊行。(参考)二〇二〇年度は藤原無雨『水と礫』・新胡桃『星に帰れよ』

【エンターテインメント系】

  • アガサ・クリスティー賞(早川書房):逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
  • 鮎川哲也賞(東京創元社):受賞作なし。(参考)二〇二〇年度は千田理緒『五色の殺人者』・弥生小夜子『風よ僕らの前髪を』(優秀賞)
  • 江戸川乱歩賞(講談社):桃野雑派『老虎残夢』・伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』
  • 角川春樹小説賞(角川春樹事務所):稲田幸久『駆ける 少年騎馬遊撃隊』
  • 『このミステリーがすごい!』大賞(宝島社):南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』
  • 小説現代新人賞(講談社):珠川こおり『檸檬先生』
  • 小説推理新人賞(双葉社):くぼりこ「爆弾犯と殺人犯の物語」※未刊行。
  • 小説すばる新人賞(集英社):永原皓「コーリング・ユー」※未刊行。(参考)二〇二〇年度は鈴村ふみ『櫓太鼓がきこえる』
  • 新潮ミステリー大賞(新潮社):京橋史織「プリマヴェーラの企み」※未刊行。(参考)二〇二〇年度は荻堂顕『擬傷の鳥はつかまらない』
  • 創元SF短編賞(東京創元社):松樹凛「射手座の香る夏」※未刊行。
  • 日経小説大賞(日本経済新聞出版):未発表。(参考)二〇二〇年度は天津佳之『利生の人 尊氏と正成』
  • 日本ファンタジーノベル大賞2021(新潮社):藍銅ツバメ「鯉姫婚姻譚」※未刊行
  • 日本ミステリー文学大賞新人賞(光文社):麻加朋「青い雪」・大谷睦「クラウドの城」※共に未刊行。(参考)二〇二〇年度は茜灯里『馬疫』
  • 松本清張賞(文藝春秋):波木銅『万事快調 オール・グリーンズ』
  • ミステリーズ!新人賞(東京創元社):柳川一「三人書房」※未刊行。(参考)二〇二〇年度は大島清昭『影踏亭の怪談』
  • メフィスト賞(講談社):潮谷験『スイッチ 悪意の実験』
  • 小説 野性時代 新人賞:君嶋彼方『君の顔では泣けない(参考)二〇二〇年度は蝉谷めぐ実『化け者心中
  • 横溝正史ミステリ&ホラー大賞(KADOKAWA):新名智『虚魚・秋津朗『デジタルリセット(読者賞) (参考)二〇二〇年度は原浩『火喰鳥を、喰う

【地方系】

  • 京都文学賞:グレゴリー・ケズナジャット『鴨川ランナー』(講談社)
  • ばらのまち福山ミステリー文学新人賞:白木健嗣「ヘパイストスの侍女」※未刊行。(参考)二〇二〇年度は文縞絵斗『依存』(講談社)・平野俊彦『報復の密室』(講談社)

  
 ずいぶんいろいろな新人がデビューしたものである。中には逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』のように第一作でいきなり直木賞候補作となった例もある。これらのデビュ―作中でもっとも端整であったのが、鈴村ふみ『櫓太鼓がきこえる』だった。高校を中退して大相撲の呼出になった少年の一年間を描いた小説で、弱小部屋で幕下以下に位置している力士たちの群像を各章に配しながら、主人公を成長させていく。特に感心したのは構成で、第二話に九州場所がくるのである。ここで主人公は初めて先輩に発声法を教えてもらう。声を出すといえば遠くの山か海、とにかく広い場所がいいだろう。九州場所はその点、会場のすぐ前が玄界灘なのだ。なるほど、だから第二話が福岡なのか。こんな風に、すべての要素が理詰めでぴたぴたっと配置されており、無駄な部分が一切ない。新人離れした構成力だと感じた。
 それと対照的なのが波木銅『万事快調 オール・グリーンズ』で、地方で生きていくことに絶望した高校生たちが、資金稼ぎのため学校の屋上で大麻栽培を始める。そんな無茶な、と思うが、無理無体を納得させてしまうキャラクターの強さがあった。勢いは大事だ。
 エンタメ系の作品で、文章で最も納得させられたのが君嶋彼方『君の顔では泣けない』で、冒頭の数ページが一人称を排した文章であることに意味がある。それに留まらず、抑制が効いていながら読者の共感を引きだすのがうまい書き手で、語らずに感じさせる技巧に長けていると感じた。着想でとにかく感心させられたのが潮谷験『スイッチ 悪意の実験』だ。主人公の設定から人物配置まで謎解きに向けての流れがとにかくうまいのだが、中途でツイストが入って物語が変貌してからの先の読めなさが凄い。この人は二作目の『時空犯』でとんでもないことをやらかして、ミステリー界の最前線に躍り出た。
 純文学系では昨年度の作品だが藤原無雨『水と礫』がとにかくおもしろい作品で、読んでいると目の前で風景が巻き取られていくような感覚に陥る。マジック・リアリズムなどの影響も感じさせる作風で、今後どんな作品を書いてくれるのか非常に楽しみである。上のリストに載せていない、つまり一昨年と昨年の受賞者ではない作家では佐藤厚志『象の皮膚』を推したい。アトピー性皮膚炎のために剥き出しの悪意にさらされつづけた女性が主人公なのだが、書き手が登場人物と距離を取るやり方が抜群に上手く、ユーモアのセンスもいい。東日本大震災を背景にした小説なのに大いに笑える箇所もあって、コンパクトながら実に密度の高い小説なのだった。
 非受賞者組のデビュー作では日高トモキチ『レオノーラの卵』と空木春宵『感応グラン=ギニョル』も挙げなければいけない。前者は漫画家でもある作者による奇想短篇集で、デフォルメの効いたキャラクターたちの味わいもある。後者は創元SF短編賞出身作家による、少女対世界の闘いを描いた連作集だ。おもしろいことに江戸川乱歩オマージュにもなっている。一話ずつの完成度が高くて昨年最も感じ入った短篇集だった。
 こんな風に収穫が多かった二〇二一年デビュー組である。この中から三冊を挙げるならば、短篇集ながら世界の広がりを描いたことを評価して空木春宵『感応グラン=ギニョル』、ミステリー系から昨年を代表する新人として潮谷験『スイッチ 悪意の実験』、青春小説から君嶋彼方『君の顔では泣けない』である。いや、もう一冊。個人と社会の関係を端的な形で描いた佐藤厚志『象の皮膚』も入れさせてもらいたい。この四冊を二〇二一年の四天王として推す。小説界の未来はあなたたちに任せた。


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