柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中！（日曜・祝日除く）
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第233回】柚月裕子『誓いの証言』

　岩谷がポインターを動かし、スクリーン上のふたりの顔をなぞった。
「いまの防犯カメラは、かなり鮮明に録画できるようになっています。この映像から、ここに映っている男性は被告人、女性は原告であるとおわかりいただけると思いますが、さらに被告人がここにいる本人であると決定づけるものが、ここです」
　岩谷は男性の上半身だけをさらにアップにする。着ている上着の胸元に、小さな丸いものがついていた。それは佐方も見慣れているものだった。ひまわりの花をモチーフにしたもので、中心に天秤のマークがある。日本弁護士連合会に登録している弁護士が貸与される、弁護士記章と呼ばれているバッジだ。
　岩谷はバッジをポインターで指し、これがなにかを説明する。
「つまり、防犯カメラに残されていた映像で、ホテルに原告を連れ込んだ男性が弁護士の被告人であると断定できます。加えてこの映像をご覧になればおわかりのように、意識が朦朧として歩けなくなった原告を、被告人は抱えながらホテルへ入っています。このことから、薬で意識を失いかけている原告を、被告人が連れ込んだことがわかります。この防犯カメラの映像を、証拠物として提出します」
　岩谷が自分の席に着くと、乙部は佐方を見た。
「弁護人、どうぞ」

（つづく）

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