松岡圭祐『JK IV』(角川文庫)の巻末に収録された「解説」を特別公開!
松岡圭祐『JK IV』文庫巻末解説
解説 第四弾にして新鮮な《JK》を
本書は、
シリーズ第一弾の序盤には、JKとは女子高生ではなく、ジョアキム・カランブーのことであるという会話が記されている。この人物は、人食い熊ばかりの山中でたった一人で遭難し、そして生還したそうだ。生還後は、ありとあらゆることを独力で実行可能になり、身体が鍛えられ、頭の回転が加速し、生きる知恵も備わっていたという。本シリーズは、そんなJKの心得を体得した人物を軸とする連続物語なのだ。
なお、本書の冒頭には、「『JK Ⅲ』より続く」との断り書きが置かれている。これは、『JK Ⅱ』でも『JK Ⅲ』でも同様で、つまり、それだけ連続性が強いシリーズであることを意味する。とはいえ、後述するように本書単体でも
さて、第四弾は、こんな具合に幕を開ける。
工場に勤める二十一歳の
物語は、状況証拠だけでは絵夢の自殺を信じ切れない直也が、呉市に飛び、彼女の生存を信じてその行方を探るというかたちで進んでいく──と聞くと、本シリーズの愛読者のなかには、違和感を覚える方も少なくないだろう。なにしろ、過去三作で高校の制服に身を包んで大暴れした
一方で、李沢直也の物語として、本書は抜群に魅力的だ。
まず、直也の行動が読者を魅了する。彼は二十一歳の若者で、人捜しの経験などない一般人だ。しかも土地勘もない。そんな直也が、ひたすらに絵夢を想う気持ちのみで道を切り
道を切り拓く姿だけではなく、道筋そのものでも愉しませてくれる。思わぬかたちで証言を得られたり、そこで得た情報が意外だったりと、退屈させない展開になっているのだ。
さらに、奇妙な謎もある。呉で絵夢の失踪を知った直後、直也は自分の実家に連絡するのだが、その際の両親の反応が極めて不可解だったのだ。ミステリ読者は、非常に興味をそそられるだろう。また、中盤では、あるはずのない指紋が発見されるという謎も登場する。こちらもミステリ的な関心を
つまり、李沢直也の物語は、それ単体で素晴らしいエンターテインメントなのである。『JK Ⅳ』から読み始めても愉しめると述べた
そのうえで、終盤には《JK》シリーズらしさがしっかりと顔を出す。第一弾から第三弾までが、それぞれに伏線とサプライズを備えているだけに詳述は避けるが、本書でも圧倒的迫力の死闘が描かれるのだ。多勢に無勢という状況のなか、鍛錬に鍛練を重ねて作り上げた己の肉体と、そして知力に観察力に胆力、さらに“そこにあるもの”を駆使して、銃やナイフを備えたヤクザたちを相手に闘うのである。
この『JK Ⅳ』は、そんな第四弾だ。シリーズ読者も、必ずや熱狂し満足するに違いない。
■才能、あるいは本能
松岡圭祐が《JK》シリーズを開始したのは、前述のように二〇二二年のこと。五月に第一弾である『JK』が発表されたのだ。この作品は、ひとつの物語としての決着をきちんと備えた長篇だった。それ故に、松岡圭祐が多くのシリーズ作を手掛ける作家という知識はあったが、続篇が書かれるかどうかは半信半疑であった(同書の解説にそう記した)。その後、『JK Ⅱ』が同年九月に発表され、そこで続篇の存在を知ることになるのだが、
つまり、一作毎に完結篇と呼びうる作品を、《JK》シリーズとして松岡圭祐は放ち続けてきたのだ。第二弾や第三弾での“完結感”は、換言するならば、それまでの作品に記した情報を伏線として活用する才能を著者が備えていることの
その第二弾、あるいは第三弾における完結感と比較すると、この第四弾は、少し毛色が異なっている。四部作の完結篇というより、新たな出発点に感じられるのだ。違和感として前述した、視点の置き方や舞台の選び方などがその理由である。現時点では第五弾の有無に関する情報は持ち合わせていないのだが、本書の続篇が発表されることがあれば、“新たな一歩”だったのかどうかを確認してみたい。
ちなみに、『JK Ⅲ』は、松岡圭祐が昨年発表した最後の作品だったが、この『JK Ⅳ』が刊行される二〇二四年一〇月までの間の彼の執筆ペースは、本人にとっては通常運転かもしれないが、とんでもない。改訂版や加筆しての文庫化を含めると、なんと月に一作以上のペースなのだ。
まず、一月に《
注目すべきは、これらの作品において、前述の伏線活用能力が発揮されている点である。シリーズ作品である《高校事変》では言わずもがな。《シャーロック・ホームズ対伊藤博文》の二作においては、その才能を自分の小説のみならず他者(コナン・ドイル)の小説及び当時の史実にも拡げ、それらの情報を活用している。《écriture》の第一一弾でもコナン・ドイルに関する史実を巧みに活かした。そう考えると、この才能は、むしろ作家松岡圭祐の本能と呼ぶべきものなのかもしれない。読者にとっては
そして、その才能/本能が、今後の《JK》シリーズで、さらに発揮されるのではないかと期待している。続篇の有無が定かではない状態での期待なのだが、『JK Ⅲ』で著者は、“
作品紹介
書 名: JK IV
著 者: 松岡圭祐
発売日:2024年10月25日
TBS「THE TIME,」で話題の、青春バイオレンス文学!
プロポーズに成功した李沢直也は幸せの絶頂にいた。しかし婚約者・渡邊絵夢が失踪したと報を受け全てが一変する。最後に絵夢が目撃された地、広島・呉に残されていたのは「さよなら 直也君は悪くないよ」という手紙と、崖から身を投げた痕跡だった。公安、極左、ヤクザ…絵夢の行方を追えば追うほど現れる不穏な輩に紛れ「江崎瑛里華」という少女の名前が浮かび上がり…。血と暴力が吹きすさぶ中、少女たちの復讐劇が開幕する!
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