細田守監督待望の最新作『果てしなきスカーレット』が2025年11月21日(金)に公開となりました!
復讐に燃えるヒロイン・スカーレットが現代の日本からやってきた看護師・聖との出会いを通して心動かされ、生きる希望を見つけていく様子を、これまでにない映像表現で描いている本作。
監督自身が書き下ろした原作小説(角川文庫刊)では、その変化の過程で「スカーレットたちが何を思っていたか」などが繊細な表現で書かれており、映画をすでに観た方もこれから観る方も必見の内容となっています。
本記事では映画公開を記念し、劇中の印象的なシーンをご紹介!
美麗なビジュアル・場面カットと共に原作小説の本文を引用し、キャラクターの内面に迫ります。
映画『果てしなきスカーレット』劇中シーン紹介
光が降り注ぐ水の庭に、スカーレットは佇んでいた。
薄桃色の髪は優雅に結い上げられ、耳には王家伝来のルビーのピアスが輝いている。ドレスは無数の白い花々で彩られていた。19歳になったばかりだった。
「ここは、天国……?」
遠くを見渡すと、空と水の庭との境界があいまいに見える。くるぶしほどまで張られた水の、ひんやりとした感触が素足を通して伝わってくる。遠浅の海岸に取り残されたような心細さが、胸を震わせた。
そのとき、遠くにぼんやりとした人影が見えた。息を潜め、その人物がゆっくりと近づいてくるのを見つめた。朧げな輪郭からは何も読み取れない。にもかかわらず胸の中で、
あれはきっと、私の運命の人――。
と、呟いていた。なぜそう思うのかわからない。だが胸の奥で高鳴る鼓動が、予感を裏付けていた。あの人はこれから、私の人生と深く関わるだろう。自然と目に涙が浮かんできた。曇る視界の中で、彼の姿が揺らめいた。
間違いない。私の、運命の……。
こんなにも胸が苦しくなるような感情の高まりは初めてだった。
この正体は、なんなのだろう。
喜びなのか愛しさなのか、それとも絶望なのか。
荒い息遣いの中で、スカーレットの瞳から涙が溢れ出す。恐怖でなく、悔しさの涙だった。震える唇を血が滲むほど嚙みしめた。
どうしてこんなことになったのか?
復讐の念に駆られ、命を賭けた戦いの果てに待っていたのはこの地獄の世界だった。意識が遠のいていく中、脳裏に過去の記憶が蘇る。王国の栄光。父との幸せな日々。そして全てを奪った仇の顔。それらの記憶が、この残酷な現実に重なる。
涙が頰を伝い、泥と血に混ざり合う。
彼女は、この死者の国で、なす術もなく消えてしまうのか?
荒涼とした大地を強烈な風が吹き荒れ、砂塵が舞い上がる。
スカーレットは決然とした足取りで進んでいた。白いドレスは血と泥で汚れ、破れたままだったが、試練を乗り越えた唇は固く結ばれ、瞳には鋼のような意志が刻まれている。
(中略)
散乱する無数の鎧や防具をいくつも手に取り、重さや質感を確かめた。重たく鈍重な鎧ではなく、軽くて動きやすい革の防具を選んだ。汚れた白いドレスを脱ぎ捨てて裸になると、冷たい風が彼女の肌を撫でた。手入れした防具をひとつひとつ身につけた。最後に、乱れた長い髪をまとめ、三つ編みに編んだ。
夕陽が地平線を赤く染め上げる頃、スカーレットは決意を新たにした。
「絶対に……、絶対に捜し出して、仇を討つ」
スカーレットはマントをはためかせ、大股で夜の荒野を進んだ。喪服のような黒の防具を選んだのは、復讐を誓った証を決して忘れないためだった。
騎士たちの馬が、神殿から丘の下に次々と降りてきて、聖の周りを取り囲んだ。白毛が不安げに耳を動かし、怯えて蹄を鳴らしている。
「憐れな腰抜けめ」「捕まえて耳と鼻を削いでやる」
騎士たちは、嘲笑を浮かべながら口々に威嚇した。
左右を囲まれた聖に緊張が走る。逃げ場はない。騎士たちが、さらに彼をじりじりと追い詰める。
その時、
「やめろ!」
黒鹿毛の馬が、凄まじい勢いで突進して来る。
スカーレットだ。
「おおおおお」
髪を激しくなびかせ、鋭い眼光で睨みつける形相は、まるで鬼神だ。
あまりの圧力にぎょっとした騎士たちが、射貫かれたようにたじろぐ。
王女は片手で鞘を摑み、顔の前で剣を僅かに引き抜いた。刃にギラリと反射した光が、殺気漲る瞳を照らしだす。が、脳裏に聖の声が蘇る。
――どこかで断ち切らないと、争いから永遠に抜け出せない――。
ええい、とスカーレットは首を振ると、剣を鞘に納めた。
「あれは王女」
ヴォルティマンドが丘の下に降りながら、驚きの声を上げた。
「おおあああああ」
王女は驚くような速度で騎士たちの中に突進し、馬上で剣を鞘のまま構え、瞬く間に数人を叩き倒した。
その目から大粒の涙が、次々と溢れ出した。
「もし別の時代に生まれていたら、今とは違う自分がいたのかな……?」
彼女は唇を震わせながら問いかけた。長年封印してきた感情が、堰を切ったように溢れ出す。「そしたら、今までのいろんな辛いことも、悔しいことも、諦めずに済んだのかな……?」
復讐に捧げてきた人生の中で、自分が失っていたものが、今、はっきりとわかる。人生の意味、父への思い、そして自分自身はどう生きるべきか。全てが問い直されていくように感じる。
唇を震わせ、子供のような無防備さで、聖の院外医療用の制服の裾を、ぎゅっと摑んだ。
そんな彼女の切実さが、聖の胸を打った。
「スカーレット。泣くな。俺がそばにいる。だから、もう泣くな」
そう聖が言ってくれて、スカーレットは心の底から救われた気がした。彼女は、求めるままに聖の頭に両手を回した。その温もりが、自分の存在を繫ぎとめる錨のように感じられた。聖も、彼女に応えるように抱き寄せた。湿った肌と肌が、初めて触れ合った。聖に抱かれて、スカーレットはいままでにはなかった新たな経験を得た。
その夜、彼女の運命は大きく変わった。人生というものの意味を受け止め、愛というものの謎を解く鍵を発見したような高揚を味わった。
「俺は……!」
鍛えてきた技をここで試さなければ、今まで自分は何をやってきたというのか?
ギルデンスターンが剣を突き出して迫ってくる。
「オオオオオオオオオ」
その姿が、ナイフを持つ男と重なる。
躊躇が消え、ただ救う、という一心だけが残る。弦はいっぱいに引き絞られていた。俺は、自分自身の使命を果たすためにここにいるのだ。
瞬時に聖は、矢を射った。
カンッ、と弦が音を立てた。
スカーレットの中で、自分を縛り付けていたものがついに崩壊した。そしてそれまで抑え込まれていたほんとうの想いが、口をついて出てきた。
「生きたい……! 生きたい……、生きたい!」
スカーレットは、まるで新たに生まれ変わるように、全ての力を振り絞って叫んだ。
それを聞いた聖は、満足げな笑みを浮かべ、喜びを共有するように頷いた。
彼女は、涙をポロポロと流し、息を荒らげながら言った。
「生きて、そのかわり未来で聖が生まれる時代に、少しでも争いがなくなるようにがんばる!
(中略)
それは、聖に向かって誓いを立てるような言葉だった。彼女は幾粒もの涙を流し、聖への思いを素直に、素朴に、子供のように伝えた。
その想いが聖の胸に迫った。彼は笑みを浮かべ、無言で何度も頷いた。
彼女は想いが高まり、聖を抱きしめた。
聖も、彼女を抱き寄せた。
今回ご紹介できたのはほんの一部。
ぜひ映画・小説の両方で、物語をより深く楽しんでください!
原作小説情報
角川文庫版
書名:『果てしなきスカーレット』
著者:細田 守
発売日:2025年10月24日
生きる意味を問う、感動の最新作――細田守監督書き下ろしの原作小説!
叔父に愛する父を殺された王女・スカーレットは、復讐に失敗し、《死者の国》で目を覚ます。略奪と暴力が荒れ狂う世界で再び復讐を決意した彼女の前に、現代の日本からやってきた看護師・聖が現れる。敵味方関係なく手を差し伸べる聖の優しさに反発しながらも、理想の地「見果てぬ場所」を目指してともに旅をする中で、スカーレットの心は大きく揺らいでいき……。時を超えた出会いと長い旅路の果てに、彼女が辿り着いたある“決断”とは。
▼作品詳細(KADOKAWAオフィシャルサイト)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322408000676/
角川つばさ文庫版
書名:『果てしなきスカーレット』
作:細田 守
挿絵:YUME
発売日:2025年10月24日
生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ。細田守監督書き下ろし原作小説!
叔父のクローディアスに父を殺された王女・スカーレット。
復讐に失敗し、目が覚めると、そこは《死者の国》だった!
人々が互いの物を奪い合う、争いばかりの世界。
そんな中で出会ったのは、現代の日本から
やってきた看護師の青年・聖。
二人はクローディアスを追って、みんなが夢見る
理想の地、“見果てぬ場所” を目指すことに。
敵・味方関係なく、誰にでも優しい聖と旅をするうちに、
スカーレットの固く閉ざされた心は変わっていき――。
「生きること」について問いかける、感動の物語!
▼作品詳細(KADOKAWAオフィシャルサイト)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322505000194/
原作特設サイトはこちら!
https://kadobun.jp/special/scarlet/
映画『果てしなきスカーレット』情報
キャスト:
芦田愛菜
岡田将生
山路和弘 柄本時生 青木崇高 染谷将太 白山乃愛 / 白石加代子
吉田鋼太郎 / 斉藤由貴 / 松重豊
市村正親
役所広司
監督・脚本・原作:細田守
企画・制作:スタジオ地図
公開日:2025年11月21日(金)
©2025 スタジオ地図
映画の最新情報はこちらから!
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