【第231回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第231回】柚月裕子『誓いの証言』
曽根が不思議そうに首を捻る。自分に言われてもわからない、そう言いたそうだ。
佐方は曽根の目をまっすぐに見た。
「誰でも手に入れることができるのであれば、原告がその薬を持っていたということも考えられますね」
「異議あり!」
こんどの岩谷の声は、まさに怒声だった。恐ろしい顔で佐方を睨みながら、乙部に訴える。
「弁護人は証人を使って、原告が事件を偽っているとの印象を与えようとしています」
傍聴席がざわめいた。至る所から、佐方を非難する声が聞こえてくる。ひどい、とか、女性がかわいそう、といった会話だ。
「静かにしてください」
乙部が傍聴席に向かって言う。続いて佐方に訊ねた。
「まだ、証人に訊きたいことはありますか」
佐方を見る乙部の表情は厳しかった。
「いいえ、終わります」
乙部は法廷を見渡し、二度目の休憩を告げた。
「ここで休憩を入れます。再開は十分後です」
法廷から何人かの傍聴人が外へ出ていく。息抜きか手洗いだろう。
佐方が席に戻ると、小坂が顔を寄せて小声で言う。
「先生も、なかなか芝居が上手ですね」
佐方は重い息を吐いた。
「役者としてはあっちが上だ。こっちも必死だ」
佐方は自分の責務をまっとうに果たそうとしているだけだ。だが、晶の心情を思うと、気は重かった。
(つづく)
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