KADOKAWA Group
menu
menu

連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.71

【第231回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第231回】柚月裕子『誓いの証言』

 曽根が不思議そうに首を捻る。自分に言われてもわからない、そう言いたそうだ。
 佐方は曽根の目をまっすぐに見た。
「誰でも手に入れることができるのであれば、原告がその薬を持っていたということも考えられますね」
「異議あり!」
 こんどの岩谷の声は、まさに怒声だった。恐ろしい顔で佐方を睨みながら、乙部に訴える。
「弁護人は証人を使って、原告が事件を偽っているとの印象を与えようとしています」
 傍聴席がざわめいた。至る所から、佐方を非難する声が聞こえてくる。ひどい、とか、女性がかわいそう、といった会話だ。
「静かにしてください」
 乙部が傍聴席に向かって言う。続いて佐方に訊ねた。
「まだ、証人に訊きたいことはありますか」
 佐方を見る乙部の表情は厳しかった。
「いいえ、終わります」
 乙部は法廷を見渡し、二度目の休憩を告げた。
「ここで休憩を入れます。再開は十分後です」
 法廷から何人かの傍聴人が外へ出ていく。息抜きか手洗いだろう。
 佐方が席に戻ると、小坂が顔を寄せて小声で言う。
「先生も、なかなか芝居が上手ですね」
 佐方は重い息を吐いた。
「役者としてはあっちが上だ。こっちも必死だ」
 佐方は自分の責務をまっとうに果たそうとしているだけだ。だが、晶の心情を思うと、気は重かった。

(つづく)

連載一覧ページはこちら

連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

関連書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年7月号

6月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年8月号

7月4日 発売

怪と幽

最新号
Vol.019

4月28日 発売

ランキング

アクセスランキング

新着コンテンツ

TOP