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連載

新オープン&リニューアルの書店に聞く! 今年読んでほしい本 vol.8

【インタビュー】美容室と書店が合体! 新オープン&リニューアルの書店に聞く! 今年読んでほしい本 Vol.8 かむかふBOOKS(山口県)

新オープン&リニューアルの書店に聞く! 今年読んでほしい本

本と読者を繫ぎ、新たな出会いをもたらす大切な「場」である書店。実は全国各地で、毎月のように新しい書店やリニューアルオープンの店舗が誕生しているのをご存知ですか?
本連載ではそんな新しい書店で働く書店員さんに、「今年読んでほしい本」をご紹介いただきます!
連載8回目は、山口県に昨年オープンしたかむかふBOOKSさん。書店と美容室の新しい空間である「本と美容室 萩店」の書店部門です。
店舗のご紹介とともに、おすすめの本をご紹介いただきました。

今回のゲスト
かむかふBOOKS(本と美容室 萩店内)
株式会社アタシ社取締役 瀬木広哉さん



――昨年オープンしたお店の魅力を教えてください!

当社では本屋さんと美容室を組み合わせた複合施設「本と美容室」を現在、神奈川県真鶴町と山口県萩市で運営しています。目指しているのは、選書の効いた「小さな総合書店」。絵本、児童書から文芸書、人文書まで、幅広いジャンルを扱っています。
選書する上で重視しているのは「知的好奇心や文化的関心の扉を開いてくれる本」であること。もう一つ、同じぐらい重視しているのが「何かを主張するために何かを否定する」スタンスの本ではないこと。また、装丁・デザインが良いかどうかも大事にしているポイントです。紙の本である必然性が薄まったこの時代、マテリアルとしての魅力がより重要になってきたと考えています。
当店のような小さな独立系書店は、目当ての本を探しにくる場所ではなく、知らなかった本と出会える場所。瓶に入れた手紙を海に流すような気持ちで選書しています。


――「瓶に入れた手紙を海に流すような気持ち」、とても素敵な考え方ですね。髪も心も美しく、楽しく過ごせる空間づくりを感じました。お店で人気の本についても教えてください。

当店では必ずしも世間的なベストセラーがよく売れるわけではありません。手に取ってもらいやすいのは、柔らかめの人文書、心や身体に関する本、生き方を問い直す本、あたりでしょうか。例えば、鯨庭さんの漫画『言葉の獣』(リイド社)は何度も再入荷しています。哲学者・近内悠太の『世界は贈与でできている』(NewsPicksパブリッシング)も、お店でプッシュしてきたこともあり、よく売れています。当店のような書店では、売れる本の傾向においても、運営者の属人的な要素が強いですね。


哲学に関する新書から日本文化に触れられる本まで、書店員さんたちが選んだおすすめの本が並んでいる


――書店部門を担当する皆さんの人柄が感じられるようなセレクトですね。また、かむかふBOOKSさんは「美容室と書店」というなかなか珍しい組み合わせで神奈川に続いて出店されましたが、その相乗効果は感じていらっしゃいますか? お店を訪れるお客様についても教えてください。


美容室と書店とは全く異なる業種だと思われがちです。実際、「どうして美容室と書店を組み合わせたんですか」とよく聞かれます。しかし、実は両者には通底する要素があるんです。美容室では、その人がより自分らしくなるように美容師が力を尽くします。また読書とは、著者との時空を超えた対話を通して自分を発見していく行為です。いわば外側、内側の両面からより自分らしくなっていくことを後押しする業態が、私たちの運営する「本と美容室」。この二つが組み合わさることでしか生まれない魔法があることを、日々の実践を通して感じています。

市外のお客様の多くは、長門市、山口市といった、車で30分から1時間程度のエリアからいらっしゃいます。また1時間半ほどかかる島根県益田市からも多くの方が来てくださいます。大きな引きになっているのは、書店というよりも美容室です。腕の良い美容師がいて、心地よい空間があって、一度来て施術を気に入れば、お客様は1時間程度なら平気で移動にかけてくださいます。また、稀に遠方から書店目当てでいらして「ずっと来たくて、ようやく来ることができました」と言ってくださる方がいます。そういう時は、自分のお店がどうこうではなく、そこまでの情熱を書店に傾けられるその方が特別だなあと感じます。書店はもしかしたら多くの人にとってもう、あってもなくてもいいものかもしれません。だけど、心底必要とする人も一部にいらっしゃいます。そういう方がいる間は、やはり残したいなあと思いますね。


――車で1時間の距離でも来店してくださるんですね! 髪を通じて「自分らしさ」を表現できるのは、日々の喜びにも繋がりますよね。そして書店目当てで遠方からいらしてくださるお客様がいるというのも嬉しいお話ですね。
そんなかむかふBOOKSを運営する瀬木さんの「今年読んでほしい小説」を教えてください!

今村夏子『とんこつQ&A』(講談社文庫)



ある日、町の中華料理屋さん「とんこつ」に張り出されたアルバイト募集の紙が主人公「わたし」の目に留まります。いきいきと働く自分の姿をイメージした「わたし」は、優しい「大将」と息子の「ぼっちゃん」が営む同店で働くことに。しかし、「わたし」は「いらっしゃいませ」と言うことすらできないほど接客業が不得手で……という、表題作はそんなお話。
そこからも良い意味で想像を裏切る(なおかつ、笑える)展開の連続なのですが、人間の弱さとしぶとさ、その両面を含めた滑稽さと妙な愛おしさを切り取る著者の目がとにかく冴えています。冴えていながら、作為的なわざとらしさを全く感じさせないのが今村作品のすごいところ。小説とは全人格的な表現だなあと、しみじみ感じ入ってしまいます。
本を読んで大いに笑う。それってすごく特別な体験ではないでしょうか。


――笑顔になれる本、とっても素敵ですね。ご紹介いただきありがとうございます。
最後に、カドブン読者へのメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。

かむかふBOOKSは株式会社アタシ社が営む「本と美容室」の書店部門です。「かむかふ」とは「考える」の古い言い方(とされる言葉)で、身を持って他者・他物と交わり、「ああ、そうか」と腹に落ちる経験のことを意味しているそうです。ここで人と人、人と本とが交わり、たくさんの「ああ、そうか」が生まれたらいいなあと願いながら日々運営しています。ぜひ遊びにいらしてください。

店舗情報



住所:山口県萩市浜崎町16 本と美容室 萩店 内
営業時間・定休日は公式Instagramをご確認ください。
公式Instagram:@kamukaubooks

あわせて読みたい!
カドブン編集部が選ぶ 今年読んでほしい本

『空想の海』深緑野分(角川文庫)



“読む楽しさ”がぎゅっと詰まったカラフルな11の物語
“読む楽しさ”がぎゅっと詰まったカラフルな11の物語。奇想と探究の物語作家、デビュー10周年記念作品集。植物で覆われたその家には、使う言葉の異なる4人の子どもたちがいる。言葉が通じず、わかりあえず、でも同じ家で生きざるを得ない彼らに、ある事件が起きて――(「緑の子どもたち」)。大地に突如として小さな穴が開き、そこから無数の土塊が天へ昇ってゆく“土塊昇天現象”。その現象をめぐる哲学者・物理学者・天文学者たちの戦いの記録と到達(「空へ昇る」)など。ミステリ、児童文学、幻想ホラー、掌編小説……書き下ろし『この本を盗む者は』スピンオフ短編を含む、珠玉の全11編。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322407000605/
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連載「新オープン&リニューアルの書店に聞く! 今年読んでほしい本」の更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/kotoshiyondehoshiihon/


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