青柳碧人『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』(角川文庫)の刊行を記念して、巻末に収録された「解説」を特別公開!
青柳碧人『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』文庫巻末解説
解説
かつて講談社が主催した、才能発掘プロジェクトがあった。小説とイラストを対象にした、「講談社Birth」プロジェクトだ。応募資格に「原則、29歳以下の新人」とあり、若い才能をターゲットにしていたことがよく分かる。そのプロジェクトの第三回の小説部門受賞作が、
以後、作者はデビュー作をシリーズ化。「数学大得意少女」の主人公・浜村渚を活躍させた。一方で、さまざまな方向性の作品を発表。二〇一九年、よく知られた民話や童話をミステリーの手法で料理した短篇集『むかしむかしあるところに、死体がありました。』で、爆発的な人気を獲得したのである。
すべてとはいわないが、青柳作品はちょこちょこ読んでいたので、作者の多彩な才能は理解していた。それでも、二〇二二年十二月にKADOKAWAから刊行された、『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』を手に取ったときは驚いた。なんと大正時代を舞台に、作家などの文化人を主人公にしたミステリー短篇集なのだ。近年、ミステリー作家による近代ミステリー作品が増加しているが、そこに作者も参戦したのである。まあ、二〇一五年に、時代“数学”ミステリー『彩菊あやかし算法帖』を刊行しているので、過去を扱った作品が書けることは分かっていた。しかし、これほど実在人物を自由に使いこなしたミステリーを出してくるとは! 内容が素晴らしいことと、作者が新境地に挑んだことを評価して、一般社団法人
本書には八作が収録されている。一篇だけ「ダ・ヴィンチ」に掲載され、他の作品は「小説 野性時代」に掲載された。冒頭の「カリーの香る探偵譚」は、シーメンス事件などで活躍した私立探偵・
ご存じの人も多いだろうから書いてしまうが、平井太郎は後の
以下、
さらにラストの「姉さま人形八景」は、昭和から大正へと時間を
ところで、一般社団法人文人墨客が発行している「文人墨客」十一号に、作者は「細谷正充賞受賞によせて」という文章を寄せている。「ダ・ヴィンチ」の文豪特集(二〇一九年十月号)に「大正七年、カフェーパウリスタにて」(単行本収録に際して加筆修正を施し、「名作の生まれる夜」と改題)を執筆したことを切っかけに、本書が生まれた経緯も興味深いのだが、それとは別に注目したい部分がある。資料漁りの日々の中で、松井須磨子を主人公にした、
「一人の人物の中にはたくさんの側面がある。作家がどこに光を当てるかによって、違う人物像が浮かび上がってくる。小説ってそれでいいのだ、と教えられた気がした。
同時に、実在の人物を架空の大正時代で動かすという行為は、世間一般のイメージとは別に、作家個人のその人に対する人物像あってのことなのだと考えた。人物像を自由に描いていいからこその難しさがあるのだと自覚した」
と、述べている。松井須磨子の登場する「都の西北、別れの歌」もそうだが、収録された作品を見れば、作者が自らの言葉を実践して創り上げた物語であることがよく分かる。“小説はそれでいいのだ”という作者が描き出す実在人物の肖像は自由で、だからこそ面白いのだ。
さて、本書を読んで青柳碧人は歴史小説もいけるのではないかと思ったが、作者自身もそのような手ごたえを感じていたのだろう。「yomyom」二〇二三年八月号から翌二四年九月号にかけて、ミステリー界の巨匠として知られる江戸川乱歩と、「東洋のシンドラー」と呼ばれることになる外交官の
作品紹介
書 名: 名探偵の生まれる夜 大正謎百景
著 者:青柳碧人
発売日:2025年12月25日
歴史的偉業の裏に、「事件」あり。大正時代を生きた偉人達の浪漫ミステリ。
歴史的偉業の裏には、誰にも語られなかった「事件」が隠されている。
『乱歩と千畝 RAMPOとSEMPO』が話題を呼んだ、青柳碧人の大正ロマン×ミステリー!
大正五年、「探偵になりたい」と探偵事務所の門をたたいた青年が遭遇した重大事件。
大正四年、アメリカより一時帰国した野口英世の前に現れた自称・娘を巡る一騒動。
大正七年、芥川龍之介が解き明かす、さえない男の恋を叶えた願掛けの謎。
大正七年、元・バンカラ学生が死後に推察した、偉大なる劇作家・島村抱月の秘した想い。
大正七年、与謝野晶子・鉄幹夫妻が大阪で遭遇した、絶体絶命の危機。
大正十四年、世界一有名な秋田犬・ハチと上野教授の一世一代の大捕り物。
大正十三年、遠野で花子という少女が出会った、不思議な言葉を話すざんだ坊主の正体は。
大正十二年、時代を経ていろいろな人の手を渡っていく紙人形「姉さま人形」の数奇な運命。
大正の偉人×不思議な謎を読み解く8編を収録!
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