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連載

杉江松恋の新鋭作家ハンティング vol.64

2022年デビュー作家ベスト4——杉江松恋の新鋭作家ハンティング特別編

杉江松恋の新鋭作家ハンティング

2022年デビューの新人作家を振り返る

書評家・杉江松恋が新鋭作家の注目作をピックアップ。
今回は、新春特別編として2022年の新人作家ベスト4を発表します。

 二〇二二年にデビューした中で最も読むべき新人は誰か。
 今年も新春の特別編として昨年の回顧をまとめておきたい。
 デビューから三冊目までの新鋭作家を取り上げるというのが本欄の決まりである。なるべく新人賞の受賞作には目を通すようにしているのだが、それでも見落としはある。大手出版社の新人賞出身ではない作家が注目を集める機会が増えたようにも思う。いいことなので、引き続き広く目を配るようにしていきたい。
 二〇二二年度の主だった新人賞受賞作は以下の通りである。発表時期の問題で受賞作が未刊行の場合は、前年度の作品が出版されているなら参考として挙げるようにした。*は本欄で取り上げた作品だ。

【純文学系】

群像新人文学賞(講談社):小砂川チト『家庭用安心坑夫』・平沢逸『点滅するものの革命』
新潮新人賞(新潮社):黒川卓希「世界地図、傾く」※未刊行
すばる文学賞(集英社):大谷朝子『がらんどう』
太宰治賞(筑摩書房):野々井透「棕櫚を燃やす」※未刊行(参考)前年度は山家望『birth』
文學界新人賞(文藝春秋):年森瑛『N/A』
文藝賞(河出書房新社):安堂ホセ『ジャクソンひとり』・日比野コレコ『ビューティフルからビューティフルへ』

【エンターテインメント系】

アガサ・クリスティー賞(早川書房):西式豊『そして、よみがえる世界。』
鮎川哲也賞(東京創元社):受賞作なし
江戸川乱歩賞(講談社):荒木あかね『此の世の果ての殺人』
オール讀物新人賞(文藝春秋)※短篇:米原信「盟信が大切」※未刊行
大藪春彦新人賞(徳間書店)※短篇:天羽恵「日盛りの蝉」※未刊行
角川春樹小説賞(角川春樹事務所):森明日香『写楽女』
『このミステリーがすごい!』大賞(宝島社):小西マサテル『名探偵のままでいて』 ※文庫グランプリ:美原さつき「イックンジュッキの森」・くわがきあゆ「レモンの手」※ともに未刊行
小説現代長編新人賞(講談社):宇野碧『レペゼン母』・実石沙枝子『きみが忘れた世界のおわり』(奨励賞)
小説推理新人賞(双葉社)※短篇:遠藤秀紀「人探し」※未刊行(参考)前年度は久保りこ『爆弾犯と殺人犯の物語』
小説すばる新人賞(集英社):青波杏「楊花の歌」※未刊行(参考)前年度は永原皓『コーリング・ユー』
新潮ミステリー大賞(新潮社):寺嶌曜「キツネ狩り」※未刊行(参考)前年度は京橋史織『午前0時の身代金』
創元SF短編賞(東京創元社)※短篇:笹原千波「風になるにはまだ」未刊行
日経小説大賞(日本経済新聞出版):中上竜志「散り花」※未刊行(参考)前年度は夜弦雅也『高望の大刀』
日本ファンタジーノベル大賞2023(新潮社):武石勝義「夢現の神獣 未だ醒めず」※未刊行(参考)前年度は藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』
日本ミステリー文学大賞新人賞(光文社):柴田祐紀「60%」※未刊行(参考)前年度は麻加朋『青い雪』・大谷睦『クラウドの城』
ボイルドエッグス新人賞:遠坂八重『ドールハウスの惨劇』(祥伝社)
ポプラ社小説新人賞(ポプラ社):菰野江名「つぎはぐ△」※未刊行
松本清張賞(文藝春秋):天城光琴『凍る草原に鐘は鳴る』
ミステリーズ!新人賞(東京創元社)※短篇:真門浩平「ルナティック・レトリーバー」※未刊行
メフィスト賞(講談社):須藤古都離「ゴリラ裁判の日」※未刊行(参考)前年度は潮谷験『スイッチ 悪意の実験』
小説 野性時代 新人賞(KADOKAWA):受賞作なし(参考)前年度は君嶋彼方『君の顔では泣けない
横溝正史ミステリ&ホラー大賞(KADOKAWA):鵺野莉紗『君の教室が永遠の眠りにつくまで』(優秀賞)・荒川悠衛門『異形探偵メイとリズ 燃える影』(読者賞)

【地方系】

京都文学賞:佐藤薫乃「備忘六」(最優秀賞)※未刊行・折小野和広「十七回目の出来事」(優秀賞)※未刊行・高野知宙『ちとせ』(中高生部門最優秀賞)(祥伝社)・小峰大和「彼のシナリオ」(中高生部門優秀賞)※未刊行
林芙美子文学賞:小泉綾子「あの子なら死んだよ」(佳作)※未刊行(参考)前年度は朝比奈秋『私の盲端』(朝日新聞出版)
ばらのまち福山ミステリー文学新人賞:受賞作なし・松本忠之「熊猫」(優秀作)※未刊行(参考)前年度は白木健嗣『ヘパイストスの侍女』(光文社)

 二〇二二年の後悔は林芙美子文学賞受賞作の朝比奈秋『私の盲端』を刊行時に読み逃したことである。北九州市が主催する地方文学賞だが、受賞作は『小説トリッパー』に掲載される。それを見過ごしてしまったのである。『私の盲端』は若くして人工肛門をつけることになった女性が主人公で、病という切り口で現代社会を見渡した医療小説の傑作である。人に教えられて読んで、その視点の鮮やかさに驚いた。第二作の『植物少女』(朝日新聞出版)が一月十日に刊行される。こちらは自分を産んだときに母親が大脳を損傷して植物状態になってしまった女性の物語で、他で見たことがない教養小説になっている。これも必読である。朝比奈秋、覚えていて損のない作家だ。
 純文学畑の作品はすべてに目を通したわけではないが、読んだ中ではやはり小砂川チト『家庭用安心坑夫』のどこに飛んでいくのかわからない語りが印象に残っている。エキセントリックな性格の母親に育てられたために、旧炭坑内に展示された坑夫の等身大人形を父親と同一視するようになった女性が主人公である。彼女はある日安定した家庭を捨て、その人形=父との因縁に決着をつけるために故郷へ向かう。彼女の語りを寸断する形で入る坑夫の物語をどう解釈するかについては、候補となった芥川賞の選評でも意見が分かれていたように思う。多様な読みが可能ということで実りの多い小説だった。
 エンターテインメントでは荒木あかね『此の世の果ての殺人』がとにかく達者で驚かされた。小惑星が衝突してまもなく地球が滅びるという状況下で、連続殺人犯を主人公たちは追うことになる。彼女たちのチームには少しずつ人数が増えていき、そんな絶望的な状態なのになぜか祝祭感があるのだ。雰囲気の良さもさることながら、教養小説やロード・ノヴェル、推理小説といった複数の要素をまとめあげる手腕も新人離れした膂力を感じる。乱歩賞作家は受賞後第一作の短篇を「小説現代」に書く決まりなのだが、その「同好のSHE」もよかった。シスターフッドとロード・ノヴェルを掛け合わせた内容というのは『此の世の果ての殺人』と同じなのだが、先の読めないプロットのひねりと文章の緊張感があるのだ。
 『此の世の果ての殺人』の荒木あかねをとりあえずは二〇二二年の最優秀新人に選びたい。将来が楽しみだ。自分が本欄で取り上げた作品に限定して言うと、『レペゼン母』の宇野碧もお薦めである。普通の中年女性がMCバトルの大会に出場することになる。そういう展開だと目標挑戦と達成の物語になりがちなのだが、作者は主人公が自分自身を発見していく、しかも対戦相手である息子を反響板に使ってそれを成し遂げるという話にしている。ここが上手い。主人公に読者が感情移入せざるをえない仕組みを作り上げているのだ。言葉の選び方もいいし、何を書いても軽やかにこなせそうな感じがある。
 もう一人挙げるとすれば、由原かのん。オール讀物新人賞の受賞自体は二〇一九年なので厳密に言えば二〇二一年デビューではないのだが、最初の著書である『首ざむらい 世にも快奇な江戸物語』(文藝春秋)が出たのは昨年なので大目に見ていただきたい。生首だけになった若侍を拾ってしまった男が一緒に旅をする中で人間として大きな成長を遂げていくという物語で、ユーモア溢れる語り口の中に人生の哀感が滲む書きぶりに惚れ惚れした。昨年度の時代小説ベストはこれである。
『此の世の果ての殺人』『レペゼン母』『首ざむらい』の三冊に、刊行時に読めずに後悔した『私の盲端』を加えた四冊が私の昨年度ベストである。ぜひお試しを。


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