【第217回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第217回】柚月裕子『誓いの証言』
起訴されて裁判になると確定したら、被告人と弁護人は打ち合わせを重ねる。
初公判の前に、検察官と弁護人がそれぞれの証拠を持ち合わせ、裁判官立会いのもと裁判の争点を確かめる公判前手続がある。それを踏まえて、被告人と弁護人は裁判での弁護方針を固めるのだが、久保との打ち合わせはスムーズに終わった。
久保は弁護士だ。法律に関する知識もあるし、裁判の流れも熟知している。打ち合わせは、晶の被害届の内容と久保が主張している相違点の確認のみだった。
久保の言葉を受けて、乙部が佐方に訊ねる。
「弁護人の意見をお聞かせください」
佐方は椅子から立ち上がり、乙部に向かって言う。
「本件における被告人の無罪を主張します。被告人は本件で訴えられているような行いはしていません」
乙部は久保に、席に戻るよう促す。久保が席に着くと、検察官側の証拠調べに入った。
「では検察官、証拠調べの請求をしてください」
岩谷が起立して、乙部に言う。
「証人として、原告の尋問を請求します」
岩谷の言葉に、傍聴席がざわついた。
近年の刑事訴訟法の改正に伴い、性犯罪被害者が証言する際の負担が軽減されることになった。被害者は、名前や住所などの個人情報を開示せずに公判が受けられるし、証言も、衝立で囲われたスペースや、別室からリモートでできるなど、加害者やほかの人間と顔を合わせずにできるようになった。
しかし、晶は自ら証言台に立つことを選んだ。多くの者の目には、それは原告の、自分に非はない、加害者は法をもって罰せられるべきだ、という強い意志の表れと映るだろう。
(つづく)
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