【第218回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第218回】柚月裕子『誓いの証言』
部屋の前方にあるドアが開いて、原告のユウカ――安藤晶が入ってきた。
法廷が静まりかえる。
晶は飾り気のない紺色のワンピースを着ていた。長い髪を後ろでひとつに結んでいる。化粧はしていない。それがもとから整っている顔立ちを、いっそう際立たせていた。
晶は証言台に立ち、下に向けていた顔をあげて乙部を見た。
乙部による晶の人定質問が終わり、晶が宣誓書を読み上げる。晶が椅子に座ると、乙部は岩谷に尋問をはじめるよう告げた。
岩谷は椅子から立ち上がり、晶のそばに歩み寄る。
「これから尋問をはじめますが、気分が悪くなったらいつでも言ってください。無理をする必要はありません」
晶が小さい声で答える。
「わかりました」
岩谷は、事件当日のことを晶に訊ねた。
「その日、あなたは勤めていた銀座の店――シャルモンを閉店時間の十二時十五分に、被告人とともに出ましたか」
晶が答える。
「はい、一緒に出ました」
「店の外で客と会うことは、よくあったのですか」
晶が小さく、首を左右に振る。
「ありません。お店がはじまる前も、閉店してからもありませんでした」
「では、店の外で会った客は、被告人がはじめてだったということですか」
今度は頷く。
「そうです」
岩谷は、そのあとの行動を訊ねる。
「店を出たあと、あなたは被告人とふたりで、店の近くにあるバー『ローネ』に行きましたか」
晶は素直に答える。
「はい、行きました」
(つづく)
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