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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.59

【第219回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第219回】柚月裕子『誓いの証言』

 被告人と弁護人が打ち合わせをしているように、原告と検察官も、事前にどのような質問をして、どのように答えるかは照らし合わせているはずだ。しかし、岩谷は少し考える素振りをしてから、晶に訊ねた。
「あなたはさきほど、店の外で客と会ったことはないと言いましたね。それなのに、どうして被告人とは会ったのですか」
 話を合わせているらしく、晶も少し間をおいて答える。
「いつも指名してくれましたし、何度も誘われていたから、たまにはお付き合いしなければ指名されなくなるかなと思ったので――」
 受け取り方によっては、久保が暗に断れないように仕向けたと聞こえないこともない。いま世論は、久保を悪人扱いしている。いまの晶の発言は、久保に対する裁判官の心証を悪くしかねない。
 岩谷は、改めて手元の書類に目を落とした。
「ふたりでローネに行ったのは、深夜十二時半ごろで間違いありませんか」
 晶が答える。
「お店が終わるのは十二時です。ローネはお店から歩いて十分か十五分ほどだから、身支度に十分くらいかかったとしても、十二時半にはローネにいました」
「ローネで、あなたはなにを飲みましたか」
「マリブサーフです」
 カクテルの名前で、アルコール度数は低いという。
「お酒は、あまり強くないのですか」
 晶は頷く。
「お店では、いつも飲みません。すぐに酔ってしまって、接客にならないからです。だから、ローネでも弱いお酒にしました」
「そのとき、被告人はなにを飲んだのですか」
 晶は少し首を捻り、自信なさげに答える。
「ウイスキーの水割りだったと思います。銘柄は覚えていません」
「被告人はどうでしたか。かなり酔っていましたか」
 こんどははっきりと答える。
「はい、お店でもだいぶ飲んでいましたから、ローネに行ったときはすでに酔っていました」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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