KADOKAWA Group
menu
menu

連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.60

【第220回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第220回】柚月裕子『誓いの証言』

「そこで、どんな会話をしましたか」
 晶はそこで俯いた。肩が震えている。傍聴人たちには、晶がなにかに耐えているように見えるだろう。
 乙部が晶に訊ねる。
「原告は大丈夫ですか。休憩を入れますか」
 晶は勇気を振り絞るように、勢いよく顔をあげて乙部を見た。
「すみません。大丈夫です」
 そう言って晶は、尋問に答える。
「私と久保は、カウンターに並んで座っていました。久保はつねに私の身体に触れていて、卑猥な言葉を言い続けました」
「卑猥な言葉――とは、どのような内容ですか」
 岩谷が突っ込んだ質問をする。これも、打ち合わせどおりなのだろう。
 晶は恥じるように俯き、つぶやくように答えた。
「俺と寝ろ、ということです」
 久保は公判がはじまってから、ずっと項垂れている。顔をあげることはない。
 佐方は目の端で、舞衣を見た。久保とは対照的に、舞衣はしっかりと顔をあげて晶を見ている。夫が口説いた女を、舞衣はどのような気持ちで見ているのか。
 岩谷が尋問を進める。
「そのあと、あなたはどうしましたか」
「カクテルを半分ほど飲んだときに、お手洗いに行きました」
「手洗いから戻ってきてからも、カクテルを飲みましたか」
 晶は頷く。
「はい、飲んだら二杯目を頼まずに帰ろうと思っていました」
「思っていた――ということは、帰ることができなかったんですか」

(つづく)

連載一覧ページはこちら

連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

関連書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年7月号

6月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年7月号

6月6日 発売

怪と幽

最新号
Vol.019

4月28日 発売

ランキング

アクセスランキング

新着コンテンツ

TOP