【第220回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第220回】柚月裕子『誓いの証言』
「そこで、どんな会話をしましたか」
晶はそこで俯いた。肩が震えている。傍聴人たちには、晶がなにかに耐えているように見えるだろう。
乙部が晶に訊ねる。
「原告は大丈夫ですか。休憩を入れますか」
晶は勇気を振り絞るように、勢いよく顔をあげて乙部を見た。
「すみません。大丈夫です」
そう言って晶は、尋問に答える。
「私と久保は、カウンターに並んで座っていました。久保はつねに私の身体に触れていて、卑猥な言葉を言い続けました」
「卑猥な言葉――とは、どのような内容ですか」
岩谷が突っ込んだ質問をする。これも、打ち合わせどおりなのだろう。
晶は恥じるように俯き、つぶやくように答えた。
「俺と寝ろ、ということです」
久保は公判がはじまってから、ずっと項垂れている。顔をあげることはない。
佐方は目の端で、舞衣を見た。久保とは対照的に、舞衣はしっかりと顔をあげて晶を見ている。夫が口説いた女を、舞衣はどのような気持ちで見ているのか。
岩谷が尋問を進める。
「そのあと、あなたはどうしましたか」
「カクテルを半分ほど飲んだときに、お手洗いに行きました」
「手洗いから戻ってきてからも、カクテルを飲みましたか」
晶は頷く。
「はい、飲んだら二杯目を頼まずに帰ろうと思っていました」
「思っていた――ということは、帰ることができなかったんですか」
(つづく)
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