【第221回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第221回】柚月裕子『誓いの証言』
岩谷は見た目が武骨で、芝居が得意そうには見えない。しかし、案外、役者だ。法廷にいる誰もがわかっている質問を、さも、いま思いついたように訊ねる。
晶は、そうです、と答える。
「どうしてですか」
ここぞとばかりに、岩谷は法廷の隅まで届くような大きな声で訊く。
晶は一拍おいて言う。
「久保から薬を飲まされて、ホテルに連れ込まれたからです」
傍聴席から、重いため息が聞こえる。インターネットや新聞で事件の内容はわかっているが、実際、被害者の口から内容を聞くと衝撃を受けるのだろう。
そこで岩谷が、乙部のほうを向いた。
「裁判長、ここからは私から原告が受けた被害を説明してもよろしいですか。ここから先の出来事を原告の口から語らせるには、精神的な負担が大きいように思います」
乙部は晶の顔を見やった。
晶は俯いている。佐方から見える横顔は、心に秘めている感情を押し殺しているように見える。しかし、見る者によっては、苦痛に耐える表情のように映るかもしれない。
乙部は岩谷の主張を受け入れた。
岩谷はローネでの出来事と、その後のふたりの行動を説明した。
晶は手洗いから戻ってくると、グラスに残っていたカクテルを口にした。すべて飲み干し、そろそろ帰ろうとしたときに、激しいめまいを覚えた。必死に椅子から立ち上がったが、足がふらつきまともに歩くことができない。
久保が支払いをし、抱えられるように店を出たところまでは覚えているが、そのあとの記憶はなく、気づくとホテルの部屋にいた。そのとき、すでに久保に組み敷かれていて、逃れることはできない。頭もはっきりせず、身体も思うように動かない。
(つづく)
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