【第222回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第222回】柚月裕子『誓いの証言』
「やがて、原告は自分になにが起きたのかを理解し、都内の病院で診察を受けました。そしてその後、医師が警察へ通報した。それが午前三時。それから警察へ赴き、被害届を出した。以上、私が話したことに間違いありませんか」
黙って岩谷の説明を聞いていた晶は、こくりと頷く。
「間違いありません」
岩谷は乙部を見やった。
「尋問を終わります」
岩谷が席へ戻っていく。晶は俯いたままだ。
乙部が佐方を見る。
「弁護人、反対尋問はありますか」
佐方は、はい、と答えて、椅子から立ち上がった。晶のそばへ行き、できるだけ穏やかに話しかける。
「さきほどあなたは、店の外で客に会うことはないと言いましたね。それなのに被告人と外で会った理由を、被告人からの誘いを断り続けていたら、指名されなくなるのではないかと思ったからと言った。間違いありませんね」
晶は俯いたまま答える。
「はい、そうです」
佐方は短く訊ねる。
「それは、あなた個人の考えですか」
どういう意味か、というように晶は顔をあげて佐方を見た。佐方は別な言い方をする。
「店――シャルモンから、たまには客に付き合え、と言われたわけではありませんよね?」
「裁判長、異議があります」
岩谷が乙部に向かって言う。
「弁護人の質問は、原告が自ら望んで被告人とバーに行った、そのように受け止められます。原告の印象を捻じ曲げかねません」
佐方が反論する。
「裁判長、原告が被告人とともにバーへ行った動機は、この事件の根幹にかかわるものです。尋問を続けさせてください」
(つづく)
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