【カドブンレビュー】
まずタイトルからして読みたくなった。
映画『雨に唄えば』(1953年日本公開)を連想させるタイトルだったからだ。ミュージカル映画である『雨に唄えば』は希望と幸福に満ちた映画である。そのイメージは殺人事件を解き明かすミステリー小説に全く結びつかない。遊び心のあるタイトルに惹かれ、一体どんな話だろうと手に取らずにはいられなかった。
阪神高速道路湾岸線で停車していた現金輸送車の中から銀行員二人の遺体が発見される。車内に残されていたのは射殺された二人の銀行員の遺体のみで、現金約一億円は跡形もなかった。多額の現金が運ばれる事、その時間、輸送コースを知っている者の犯行だと睨んだ警察は銀行内部の関係者に事情聴取を行う。しかし、その直後、事情聴取をした一人の銀行員が飛び降り自殺をしてしまう。死人に口なし。事件の真相につながるはずの手掛かりが消えてしまった。
そんな難解な事件を解決しようと奮闘するのが二人の刑事、黒木と亀田だ。仕事終わりの一杯が至福の時である三十半ばにして独身の黒木。三十近いが童顔で色黒、背が低く、ころころしたその体型から「マメちゃん」の愛称でかわいがられている亀田。上司の服部にこき使われたり、手柄を取り合う警察内部の政治にあたふたしたりしながらも、このコンビ、中々やるのである。足を使った泥臭い訊込みと働き方改革なぞどこ吹く風の長時間労働で着実に解決の手掛かりを見つけ出していく。
ミステリーの展開もさることながら、二人の軽妙なやりとりが楽しい。
「うれしいなあ、明日は女子高生のブルマ姿が見られる。ぼく、あれ大好きですねん」 私とマメちゃんに与えられた仕事は高校での訊込みであった。 「もう十二月やで。この寒いのにブルマなんかはいとるかい」 マメちゃんの言葉を否定しつつも一縷の望みは持っている。
(p.76より)
こんな人間臭くて親しみやすい二人のキャラクターが『雨に殺せば』の最大の魅力だ。思わず笑みがこぼれてしまうシーンが随所にあり、ミステリー小説である事を忘れて和んでしまう。ちなみに、この愉快な訊込みのオチは是非本作を読んで確かめてほしい。
事件の真相に辿り着いた時、タイトル「雨に殺せば」の意味も明らかになる。そして、この愛すべき「黒マメコンビ」の活躍に胸がすっとする。人間味溢れる推理と地道な捜査を楽しげに行う二人がなにわの町を駆け抜ける。