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レビュー

オタクの聖地で奇妙なトリオが犯人捜し!コミカルなのに胸を打つ『秋葉原先留交番ゆうれい付き』

【カドブンレビュー】

 ユニークなタイトルを持つ本作は、欲望渦巻く秋葉原の交番を舞台に個性的な登場人物たちが繰り広げる人間模様を描いている。霊を視る力を持ち、傷ついた女性の心に寄り添う優しさと母性をくすぐる頼り無さを併せ持つ二枚目警察官向谷(むこうや)。東大出身で優れた頭脳と鋭い洞察力を持ち、キャリアの道を約束されていたにもかかわらず自らの信念に基づき交番勤務を続ける向谷の先輩警察官権田(ごんだ)。そしてあるきっかけからその二人と関わることになった20歳の渡井季穂(わたらいきほ)。彼女は夜道で何者かに襲撃され無念の死を遂げた幽霊だった。二人の警察官と一人の幽霊。季穂を殺害した犯人を追う彼らの奇妙な共同捜査が今始まる。

 …間違ってない。
 確かに内容は間違ってない。
 が、こんな言い方もできるかも…

 オタクの聖地秋葉原にある交番。私物化された交番は美少女フィギュアで埋め尽くされ、黒縁メガネにブヨブヨのお腹を抱えたキモオタ警察官権田(通称メガネトド)が我が物顔で鎮座する。女性にだらしなく、あろうことか赴任先の村長の妻にまで手を出した咎でその交番に飛ばされてきたのは下半身ユルユル、能天気でおバカなイケメン警官向谷。その向谷に拾われ交番に居付いた足だけの幽霊足子(あしこ)さん(本名:渡井季穂)。凸凹警察官コンビと足だけ幽霊、そして秋葉原のディープな住人たちが巻き起こす犯人捜しのドタバタ珍騒動が始まるよー!

 うん、こっちのほうがしっくりくるかな。

秋葉原先留交番ゆうれい付き』はそんな二つのニュアンスを併せ持つ(愉)快作だ。
 ライトで読みやすい筆致、コミカルな会話の中に時折姿を現す切ないメッセージや謎の数々。
 笑いあり、涙ありのメリハリの利いた展開にページをめくる手が止まらない。

 誘拐されたララたん人形(美少女フィギュア)を巡るオタクたちの友情。季穂が生前勤めていたメイドカフェの仲間を襲う抱きつき魔の恐怖。事故で亡くなり幽霊となった父親と息子、そして妻との絆。それらのエピソードを交えながら物語は季穂殺害事件の核心へと迫っていく。
 果たして季穂を殺した犯人とは。そして訳ありにみえる季穂の過去とは。

 全編ユーモラスなタッチではあるが、そこには紛れもなく人の弱さや強さ、絆や愛情が描き出されている。
「理解してくれようとする相手がいる、それはラッキーなことだ」と幽霊になった父親は言う。
 実体をなくし他者に認識されなくなってしまったからこそ季穂の心に響く言葉。
 そのメッセージは今生きている、生身の体を持つ私達の心にも大切な何かを訴えかけてくる。
 幽霊である季穂の視点から、生きているからこそできることの有難さを説いている気がするのだ。

 メガネトドの権田も、女たらしの向谷も、最初はキャラが濃すぎて胸焼けしそうになったが、読み終わる頃には素敵な奴らに思えてくる。それは一見色物キャラにみえる彼らが、実はとても魅力的なキャラクターだということに気付いてしまったからなのだろう。
 足だけ幽霊の季穂との迷トリオで活躍する姿をもう一度見てみたい。そう思わせるほどに。


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