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特集

【インタビュー】細部まで描き込まれたマンガのコマで、カバーをデザイン。アートディレクター・吉田ユニが語る楳図かずおワールドの奥深さ

楳図かずお氏の「こわい本」「ゾク こわい本」シリーズで、カバーデザインを手がけている吉田ユニさん。数々の企業やコスメ広告、ドラマのキービジュアル、アーティストのCDアートワーク、東京03や渡辺直美さんのライブビジュアルなど、幅広い分野で活躍するアートディレクターだ。
不気味さと毒々しさをたたえながら、どこかガーリーで気品あるカバーデザインはどのようにして生まれたのか。吉田さんに制作の裏側を語っていただいた。

取材・文:野本由起



アートディレクター・吉田ユニが語る楳図かずおワールドの奥深さ

幼い頃から楳図かずお作品に夢中


――吉田さんは「こわい本」「ゾク こわい本」シリーズのカバーデザインを手がけています。最初に依頼を受けたときは、どんなお気持ちでしたか?

私は、子どもの頃から楳図先生がずっと大好きだったんです。その先生の作品に携われることになり、とても光栄でしたし本当にうれしかったですね。


――子どもの頃からホラーがお好きだったそうですね。

そうですね。もともとホラーマンガが大好きで、よく読んでいました。楳図先生の作品に限らず、自分の世代ではないものも含めて幅広く読んでいて。古本屋に入り浸っているような子どもでした(笑)。

ひとつ知ると、その時代の作品をどんどん読みあさるタイプで、古本屋で調べながら深掘りしていって。楳図先生の時代の作品もあれば、日野日出志さんや水木しげるさん、伊藤潤二さん、御茶漬海苔さん、犬木加奈子さんなど幅広い世代の作品を読んでいました。「サスペリア」や「ホラーM」といったホラーマンガ雑誌も好きでしたね。


――楳図先生の作品に最初に出会ったときのことは覚えていますか?

最初に出会ったのは、実はホラー作品ではないんです。確か幼稚園の頃、姉の友達の家でたまたま『まことちゃん』を読んだ記憶があります。その後、別のところで先生のホラー作品を読みましたが、同一人物の作品だとは知らなくて。「あれ、これも同じ先生?」とあとから気づき、作風の幅広さに驚きました。


――楳図先生の作品の中で、特にお好きな作品はありますか?

赤んぼ少女』が好きですね。楳図先生の作品は、ただ怖いだけではなく、いろいろなストーリーや感情が描かれているところが魅力だと思っています。『赤んぼ少女』も、もちろん怖さはあるんですけど、タマミちゃんの切なさや背景にある心情がしっかり描かれていて、それが怖さをより引き立てているんですよね。嫌なことをしてしまう理由、その裏にある思いまで含めて描かれていて、不気味なのに切ない。その両方が同居しているところに惹かれます。



こだわり抜かれたイラストを、惜しみなく使ったカバーデザイン


――はじめに手がけたのは、2021年から刊行された「こわい本」シリーズのカバーデザインです。こちらの装丁のこだわりを教えてください。

まず、早い段階でベースの色を黒にすることを決めました。角川ホラー文庫のカバーは、上下に黒い帯が入ることが決まっています。他の色にすると、黒い帯でデザインが分断されてしまうので、黒一色で見せたくて。それに、背表紙も黒と決まっているので、カバーを別の色にすると背だけが黒になり、ちょっとチープに見えてしまいそうな気もしました。「ここは色が決められているんだろうな」と読者に思われるのも避けたかったので、黒をベースにするところからスタートしました。



そのうえで、メインビジュアルをフレームで囲むデザインにしたんです。楳図先生のマンガは本当に細かいところまで描き込まれているので、そのイラストをフレームの枠にあしらって。さらに、各巻でフレーム内の色を変えて違いを出しました。


――その結果、一枚の絵のような格調高いカバーになりましたね。

並べたときに統一感があって、集めたくなる感じになったらいいなと思っていました。


――「ゾク こわい本」シリーズも、黒を基調にビジュアルとフレームで構成したカバーです。

こちらも黒をベースにしましたが、「こわい本」シリーズと差をつけるためにタイトルの入る部分をフレームで囲みました。



――装飾に使われているイラストは、すべて楳図先生の描いたコマから取られているそうですね。制作工程について教えてください。

先生の作品は、本当にディテールまでこだわり抜かれていて、1コマ1コマすごく丁寧に描かれているんです。こうしたイラストを、惜しみなく使いたいと思いました。フレームとして使っている絵は、違う巻から持ってくることはせず、必ずその巻にあるコマから使うようにしています。


――まずメインの絵を決めてから、フレームを考えるのでしょうか。

そうですね。はじめにメインを選びつつ、フレームに使えそうな絵も一緒に選んでいきました。ページを何度も行ったり来たりしながら選んでいくのですが、その作業自体がすごく楽しいんですよね。


――特に苦労された点はどんなところでしょうか。

本編の入稿後にデータをいただくので、毎回どんな絵柄が来るか事前にわからないんです。前の巻とのバランスを取る必要もありますし、帯がつくのでメインとなるイラストの大事な部分が隠れないようにしなければなりません。そのバランス調整が一番難しかったですね。


――使用できるコマも限られていたそうですね。

そもそも表紙に使える絵が少ないんです。メインで使う絵も、もとはマンガのコマですから大きく描かれたものがあまりなくて。使える絵が限られているけれど、やっぱりカバーですからインパクトを与えたい。メインビジュアルのセレクトは本当に大変でした。


――元はモノクロのコマですが、色は吉田さんが考えているのですか?

はい、私が色をつけています。毎回フレームの色と前後の巻との色のバランスを考えながら決めているので、そこも結構悩みました。


――膨大なデータを見て選び、仕上げていく作業ですが、実作業にはどれくらい時間がかかるのでしょうか?

まず絵を選んで、そこから切り抜く作業に時間がかかりますし、色をつけるのも大変で……。正確にどれくらいの時間がかかったとは言いづらいですね。切り抜いて仮にフレームに配置したあと、「やっぱり違うかも」とやり直すこともたくさんありました。こうした作業を何度も繰り返しています。


――吉田さんが普段制作する広告ビジュアルでは、人や布をはじめ、さまざまなアイテムを写真に撮影してアート作品に仕上げています。今回のようにイラストを使った装丁との違いはありましたか?

そこまで大きな違いはありませんでした。写真撮影のときも、花瓶などを借りてビジュアルを構成します。今回はそれが先生の絵になっただけなので、そういう意味では同じような感覚でしたね。


――吉田さんは、「こわい本」オリジナルグッズも手がけていました。装丁とはまた違う魅力があるお仕事だったのではないでしょうか。

グッズを作るのもすごく好きなので、とても楽しかったです。一見するとかわいいけれど、よく見ると不気味、というアイテムを作れるのが面白くて。お皿も作らせていただいたのですが、「こわい本」カバーのフレームと連動するようなデザインになり、個人的にも気に入っています。


少年のような純粋さと俯瞰で物事を見る鋭さ


――カバーデザインを担当するにあたり、作品を読み込まれたと思います。装丁を手がけたことで、あらためて気づいた楳図先生の魅力はありますか?

もともと細部までこだわっていらっしゃる印象がありましたが、思っていた以上に細かいところまで描き込まれているんだなとあらためて感じました。登場人物が着ている服のレースなど、ストーリーに直接関係がないようなところまでしっかり力を入れていて。しかも、ファッションもインテリアもすごくおしゃれですよね。先生ご自身も、おしゃれな方だなと思います。


――楳図先生と実際にお会いしたときのエピソードはありますか?

やっぱり細かいところまでよくご覧になっている方だなと思いました。以前お会いしたときには、私が前髪を切ったことにすぐ気づいて、「前髪切ったの?」と声をかけてくださって。しかも、その日は左右で違うピアスをしていたのですが、それにも気づいて「あ、ピアスが違うね」と。そうやっていろいろなことに目を配る方なので、気づかいも細やかでしたね。誰とでも壁を作らずフラットに接してくれる方でした。


――お人柄については、どんな印象をお持ちですか?

すごく鋭い視点を持っていらっしゃる方だな、と思いました。少年のようなピュアな視点を持ちながらも、すごく客観的で、俯瞰で物事を見ているような鋭さがある。本のカバーについても、単に絵柄をご覧になるだけでなく、帯をつけたときにどう見えるか、書店に並んだときに映えるかなど、そういうところまで含めてきちんと考えていらっしゃるんです。
少年のような純粋さは、テレビ番組などを通してよく知られている部分だと思いますが、それだけではなくさらっと核心を突くようなことをおっしゃるんですよね。そのバランスがとても魅力的だなと思いました。


――マンガとアートは違う分野かもしれませんが、ものづくりに対する姿勢などでご自身と重なる部分はありますか?

ありますね。先生もそうでしたが、私も手を動かすのが好きなタイプ。ものづくりが本当に好きという点はすごく似ていると思います。

お話をさせていただくと、勉強になることも本当に多くて。印象的だったのが、アシスタントさんについてのお話です。「僕は、アシスタントさんの得意なところを見抜くのがすごく上手なんだ」とお話しされていて。お仕事では、それぞれの方に得意な部分を任せていたそうです。やっぱり先生の観察眼や洞察力は素晴らしいと感じました。

楳図かずおの物語の奥深さ、圧倒的な画力を知ってほしい


――吉田さんご自身のアートスタイルについてもお伺いしたいと思います。吉田さんのアートは、リボンのように見えるドレス、唇やハートのように見えるビジュアルなど、“見立て”がとても印象的ですよね。パッと目に入ったときに心を掴まれ、目を凝らしてよく見ると、すべてがお菓子でできているなど、細部まで作り込まれていてワクワクします。ご自身の作家性を、どのように捉えていらっしゃいますか?

それぞれの仕事ごとにコンセプトがあるので一概には言えませんが、できる限り一回見るだけで終わりではなく、もう一度見たくなるようなものを意識しています。

たとえばSNSでは、タイムラインがどんどん流れていってしまいますよね。その中でも、さっと通り過ぎてしまわれないように、印象に残るような作品を心がけていて。ささやかでもいいので、ちょっとしたインパクトがある作品にしたいと常に考えています。



――「こわい本」「ゾク こわい本」シリーズのデザインは、まさにそういった吉田さんの作家性が発揮されていますよね。怖いけれどポップでかわいらしく、細部まで手が込んでいました。

楳図先生の作品も、ただ怖いだけではなく切なさや人間心理の複雑さを感じられますよね。そんな魅力が伝わったのだとしたらうれしいです。


――2025年は、吉田さんのアートワークがSNSで大きな話題を呼びました。ある広告が話題を呼び、そこから派生する形で「私は吉田さんのこのアートワークが好き」とファンが推し作品を共有しあうような動きも見られましたよね。吉田さんご自身もご覧になりましたか?

拝見しました。想像以上にどんどん広がっていて、びっくりしました。


――「こわい本」「ゾク こわい本」シリーズも、吉田さんがカバーデザインを手がけたことで、これまでホラーにあまり触れてこなかった方々にも届いたのではないかと思います。まだ楳図先生の作品を読んだことがない読者に向けて、先生の魅力をどう伝えていきたいとお考えですか?

楳図先生の作品は、ただ読者を驚かせて怖がらせるだけのマンガではありません。その中に、いろいろなメッセージが込められているので、ぜひ多くの方に読んでほしいなと思います。物語の奥深さ、そして圧倒的な画力にも注目しながら読んでもらえたらうれしいですね。

「ゾク こわい本」シリーズ最終巻・2冊同時発売!



楳図かずお自身が監修したシリーズ、「猫目小僧」第2弾!
汚れた心を持つ人間たちを、心に合った醜い姿に作り替える。醜い姿で嫌われてきた妖怪たちの企みを防ぐべく奔走する猫目小僧が、さまざまな攻撃に苦戦しながらも、リーダーである小男の秘密に迫っていく「妖怪百人会」。死ですら引き裂くことが
できない母と息子の心のつながりと、無垢な愛が引き起こす恐怖をそれぞれ違う形で描く「階段」と「手」。猫たちとともに闇夜を疾走するダークヒーロー・猫目小僧の活躍が痛快な3篇。



楳図かずお全巻監修の 「ゾク こわい本」シリーズ完結。
海沿いの村で年老いた家族と暮らす美々が取り憑かれてしまったモノは、仲間を呼び、大きな災害を引き起こす妖怪だった――居場所のない者同士、猫目小僧の世話をしていた女性を襲う運命が悲しい「妖怪水招き」。観音様にお願いをすれば、必ず叶うと評判の寺の屋根裏に住み着いた猫目小僧が、“ご利益”のおぞましい正体を目撃してしまう「妖怪千手観音」など5篇。どこにも属さない孤独な猫目小僧の眼差しが、人の心に巣食う闇を照らし出す。

プロフィール

吉田ユニ(よしだ・ゆに)
東京都生まれ。女子美術大学を卒業後、広告や書籍の装丁、CDジャケット等幅広い分野でアートディレクションを担当。日本や韓国など国内外で個展が開催され、活躍の場を広げ続けている。
公式HP:http://www.yuni-yoshida.com/


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