赤川次郎『三世代探偵団 春風にめざめて』(角川文庫)の巻末に収録された「解説」を特別公開!
赤川次郎『三世代探偵団 春風にめざめて』文庫巻末解説
解説
「春風にめざめて」と副題がつけられた「三世代探偵団」シリーズ四作目がいよいよ文庫化された。待ち構えていた読者も多いのではないだろうか。
遠い遠い昔、初めて手に取った
それから数十年経ち、いい大人になった今では単行本も買うにためらいはないが、それでもやはり赤川作品は文庫で読みたい。電車での移動中や病院での診察待ちなど、日常に生まれるちょっとした隙間をたちまち心躍るワクワクとドキドキの時間にしてくれる。それが“赤川文庫”の
そんな“愛すべき一冊”が
タイトル通り、事件に挑むのは祖母、母、娘の三世代。とはいえ、別に三人
そして、三世代探偵団といいながらも、事件解決に直接乗り出すのはだいたい高校生の
さて、解説に目を通してから購読を決めるタイプの読者に向け、まずはざっと冒頭部分のあらすじだけ紹介しておきたい。
二作目「枯れた花のワルツ」で、ちょっとした経緯から往年の大スターが主演する映画に関わることになった三世代探偵団だったが、本作はその映画が完成したところから物語が始まる。撮影中に発生した事件を解決したご褒美なのか、主演女優とともにレッドカーペットを歩くという破格の特別待遇でプレミア上映会に参加することになったのだ。
ところが、到着した会場でさっそくトラブルが発生する。レッドカーペットを取り囲む見物客が押し合い
プチ猟奇な出来事でスタートを切る今回の事件は、香と、香が頼りに思っていた元教師の
赤川作品ではしばしば裏社会の住人が描かれるが、本シリーズは探偵役がお天道様の下を堂々と歩んできたタイプの人たちであるからこそ、そうでない、あるいはそうはできない人たちとの対比が鮮やかだ。思えば第一作からしてすでに殺し屋の女性が登場していたが、本作でも数人、幸せとはいえない境遇の女性たちが登場する。理由はそれぞれだが、ほんのわずかな足がかりさえあれば普通の生活にたどり着けそうなのに、過酷な運命がそれを妨げているのだ。
そんな彼女たちにとって、天本一家は救いの手を差し伸べる女神のような存在、といってよいかもしれない。
少し話が飛ぶようだが、神話の世界にはしばしば三人で一体を成す女神が登場する。
我が国では
ハイティーンならではの無鉄砲な好奇心で突っ走る有里は、トリックスターめいた行動力で現状を打破する破壊神めいた顔を持つし(破壊は創造の源でもある)、娘の安全と家庭安泰に腐心する文乃は、神話では割に合わない役回りにされがちな母神そのもの、七十歳を超えながら一家を支える幸代は知恵と
だから、彼女たちがたった一年足らずで四度も大事件に巻き込まれても、市井の一高校生が刑事を従えて事件解決に臨んでもおかしくない。さほど
とにかく、有里はこんな風にのたまっている。
母、文乃にうるさく言われるまでもなく、有里だって、好きで危いことに首を突っ込んでいるわけじゃない。(中略)
「──私のせいじゃないわ。そうよ」
たまたま、そういう出来事に出合ってしまうのは、運命というものだろう。
「大丈夫! 私は死なない! 天本幸代の孫だもの!」
そう、有里は三女神の一人である限り絶対無敵である。
自信の根拠となっている幸代は言うまでもなく無敵である。
毎回地味……というか、ネガティブ・パート担当を余儀なくされている文乃だって、決めなきゃいけない時はばっちり決める。母と娘の派手な活躍を底で支える彼女は誰よりもすごい。女たちがそれぞれの役割をそれぞれのやり方で果たしていく姿に、シスターフッドの理想形を見る思いがする。まあ、彼女たちは姉妹ではなく親子だが。
そんな三人には、これからも何をやってもうまくいかない人、生きづらさにうつむくだけの人たちの運命を鮮やかに変えていってほしい。現実世界の雲行きが芳しくない今だからこそ、女神たちの痛快な活躍を見ていたいのだ。
我らが三世代探偵団、期待しています。
がんばって!
作品紹介
書 名:三世代探偵団 春風にめざめて
著 者:赤川次郎
発売日:2024年09月24日
孤独な少女を襲った怪事件の真相とは。女三世代が活躍、痛快ミステリ第4弾
女子高生の天本有里は、春休みに行われた映画のプレミア上映会で18歳の少女・矢ノ内香と出会う。彼女は不審な火事で両親を亡くし、かつての恩師を頼りに上京したが、ある理由から恩師に裏切られたという。途方に暮れる香を保護した天本家だが、翌日、彼女の鞄から何者かの切断された指が見つかった。さらに恩師が住むアパートでは放火事件が起きて……。香が巻き込まれた事件の真相とは? 個性豊かな女三世代が謎を追う、痛快ミステリ!
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