【第235回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第235回】柚月裕子『誓いの証言』
乙部が言う。
「大橋さんを証人として採用します。弁護人は、大橋さんを法廷に呼んでください」
佐方の隣にいた小坂が椅子から立ち上がり、法廷を出ていく。やがて、大橋を連れて戻ってきた。
法廷にいる者たちの目が、一斉に大橋に向けられる。
大橋は、無地のシャツにひと目で量販店のものとわかるジャケット、そしてチノパンという簡素な服装だった。
小坂に案内されて証言台へ歩いていく途中、大橋は傍聴席を見て立ち止まった。大橋の視線の先には晶がいた。傍聴席の最前列で、うつむき加減に座っている。
晶を見つめたまま動かない大橋を、小坂が証言台へ促した。大橋はゆっくりと歩き、証言台に立った。
乙部が大橋に宣誓を求める。大橋は宣誓書を読み上げて、嘘の証言をしないことを誓う。それが終わると、乙部は佐方に尋問をはじめるよう指示を出した。
「弁護人、どうぞ」
佐方は椅子から立ち上がり、大橋のそばへ行くと尋問をはじめた。
「あなたはどこのご出身ですか」
大橋が答える。
「香川県の蕃永町です」
心なしか、声が震えているような気がする。佐方は質問を続ける。
「いまもそちらで暮らしているのですか」
「はい、母親と妻、娘と四人で暮らしています」
「お仕事は、なんですか」
「蕃永石の職人をしています」
声は小さいが、大橋は質問によどみなく答える。
(つづく)
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