文庫解説 文庫解説より

主人公の成長を語る「教養小説(ビルドウングス・ロマン)」。その風格ある呼び名にふさわしいシリーズ――『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川』松岡圭祐 文庫巻末解説【解説:三橋曉】
読書メーター読みたい本ランキング続々1位の人気シリーズ
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川』松岡圭祐
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川』松岡圭祐
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川』松岡圭祐 文庫巻末解説
解説
ここだけの話だが、「écriture 新人作家・杉浦李奈の推論」の〝écriture〟が意味するところを、今さら他人には
ポピュラーな外来語として、「現代用語の基礎知識」等にも載っているこの言葉だが、ここで少しだけ深掘りしてみたい。熱心なミステリ・ファンならご存じかもしれないローラン・ビネのオフビートなスリラー『言語の七番目の機能』に、ロラン・バルトという実在の人物が登場する。バルトは、哲学、記号学、批評等の分野にまたがる知の巨人として知られ、ずばり『エクリチュールの零度』という有名な著作もある。独自の考察でエクリチュールという言葉を文学の世界に持ち込んだ人だ。
カミュをはじめ、フロベールやモーパッサン、ゾラらのフランス近代文学の重鎮に加え、アガサ・クリスティまでが引き合いに出されるその著作は、正直まったくもって手強い代物だが、
シリーズはこれまで、運良くデビューはしたものの、決して順風満帆とはいえない駆け出し作家・
さて、このエクリチュール・シリーズ(あえてそう呼ばせてもらう)も、本作でついに六巻を数えるが、第一作の『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』が書店に並んだのは、二〇二一年十月のこと。以来、これまで隔月刊という超ハイペースでシリーズの新作が届けられてきた。
その間には、『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』、『出身成分』、『高校事変 Ⅻ』(高校事変シリーズの完結編)、『JK』を文庫で
とはいえ、本作でこのシリーズと初めて出会う読者もあるだろう。刊行順にならわずとも、どこからひもといても楽しめるのがこのシリーズのいい所のひとつだが、本作でヒロインと出会うこととなる読者のために、まずは著者紹介ならぬ
杉浦李奈(すぎうら りな)
三重県生まれ。小説投稿サイト〈カクヨム〉への投稿が編集者の目にとまり、『雨宮の優雅で怠惰な生活』でデビュー、『その謎解き依頼、お引き受けします ~幼なじみは探偵部長~』などのライトノベルを経て、『トウモロコシの粒は偶数』を文芸単行本として上梓。直後に岩 崎 翔 吾 事件を調査・取材したノンフィクションが評判となる。私生活では、同業の那 覇 優 佳 と親交が深く、櫻 木 沙 友 理 とも交友関係がある。目下、デビュー作の続編『雨宮の優雅で怠惰な生活2』を執筆中。
紹介文中の岩崎翔吾事件とは、第一作で李奈が巻き込まれた事件のことで、日本文学の研究者にして、初めて書いた小説が
その結果、最終的に事件を解決に導いた李奈は、各方面から名声を得るが、残念ながら本の売り上げは伸びないまま。しかし書き上げたノンフィクションが業界でも静かな話題となり、不本意にも文壇のトラブルシューターとしてお呼びがかかるようになる。かくして
そんな李奈が本作で遭遇するのは、まるでシリーズの原点に回帰するかのような、芥川
しかし、ややもすると疎かになっていた本業も、書き下ろしの企画が通り、好転の兆しをみせていたある日のこと、李奈が
事件は、改造ガスガンを使った無差別な犯行として既に報道されていた
タイトルにもあるように、今回
本作で犯人が見立てに使う「桃太郎」は、
警察の後押しや自治会役員たちの協力を得た李奈は、町内に陣どる宗教法人をめざす営利団体やペットの犬を殺された一家、旅行中で難を逃れた被害者の家族らを訪ね歩いていく。そして、おなじみの「これが小説なら──」というメタフィクショナルな一節に導かれるように、芥川版「桃太郎」と呼応し合いながら、事件の真相を
冒頭の懐かしいゲームブックにまつわる
また、めずらしく本気で李奈を褒める担当編集者の
そんな母の一言一言に気持ちを
主人公の成長を語る小説の形式を
この第六巻では、現実の厳しさに散々手を焼いてきた李奈の前途に、ささやかな光が射しこむ。しかし、本当の試練はまだまだこれからだろう。ヒロインの
作品紹介・あらすじ
ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川
著者 松岡 圭祐
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2022年08月24日
都内で改造ガスガンを使った殺人事件が発生。被害者2人のうち1人の胸の上に芥川龍之介の「桃太郎」が小冊子に綴じられて置かれていた。これまで文学に関わる難事件を解決してきた李奈は、刑事の要請で今回も捜査に協力することに。一方で本業の小説執筆ははかばかしくなかった。加えて母の愛美が三重から上京。気持ちが落ち着かずにいた。謎めいた事件と停滞気味の自分。李奈はこの2つの問題を乗り越えられるのか!?
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