デビュー作『化け者心中』で文学賞三冠達成!
最注目の気鋭が描く、いびつな夫婦の恋物語。
デビュー作『化け者心中』で小説野性時代新人賞、日本歴史時代作家協会賞新人賞、中山義秀文学賞を受賞。いま最も注目を集める歴史時代作家小説家・蝉谷めぐ実の第2作『おんなの女房』は1月28日に発売されました。
歌舞伎を知らぬ女房と、女より美しい“女形”の夫。やがて惹かれ合う夫婦を描くエモーショナルな時代小説を、まずは試し読みからお楽しみください。
『おんなの女房』試し読み#15
二、清姫
昨日、日が高いうちから降り出した夕立は長く続き、五月の川開きから毎夜打ち上げられていた花火は取り止めとなった。尺玉がしけるんじゃあしょうがねえと町人たちは泣く泣くだったらしいが、志乃としてはよしよしだった。
雨も上がってさっぱりとした七月の朝、志乃は
このところの土手散歩で鍛錬がお留守になっていたせいだわ。川に浸した
「此度の芝居の相方になるお坊さまがね」と燕弥は紅を塗り直しながら、夕餉を運んでいる志乃に言って聞かせる。
「俺の家で夜通し
飯も食わずにいそいそと
土手散歩を切り上げて、軒下の陰を
板間の上に
と、女はくるりと体を回し、志乃に顔表を見せつけた。
美しい女だった。姿勢を正すと上背があるから
「あんた、あたしの
投げつけられた言葉をほどくまでに少々時間がかかった。はっとして志乃は慌てて首を横に振る。
「そ、そんなわけがございません!」
なにせ不義密通は大罪だ。
志乃は声を荒らげるが、目の前の女のその黒々とした目は
「手!」
「え」
「手を出しなさいって言ってるの! 今、隠そうとしたの見えたんだから。ここに広げなさい」
(つづく)
作品紹介・あらすじ
おんなの女房
著者 蝉谷 めぐ実
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2022年01月28日
『化け者心中』で文学賞三冠。新鋭が綴る、エモーショナルな時代小説。
ときは文政、ところは江戸。武家の娘・志乃は、歌舞伎を知らないままに役者のもとへ嫁ぐ。夫となった喜多村燕弥は、江戸三座のひとつ、森田座で評判の女形。家でも女としてふるまう、女よりも美しい燕弥を前に、志乃は尻を落ち着ける場所がわからない。
私はなぜこの人に求められたのか――。
芝居にすべてを注ぐ燕弥の隣で、志乃はわが身の、そして燕弥との生き方に思いをめぐらす。
女房とは、女とは、己とはいったい何なのか。
いびつな夫婦の、唯一無二の恋物語が幕を開ける。
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