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紗久楽さわ×蝉谷めぐ実 メイキング・オブ『化け者心中』 めくるめく江戸歌舞伎の世界〈前編〉
取材・文:小説野性時代編集部 漫画:©紗久楽さわ/祥伝社 on BLUE comics
発売当初から大反響で現在5刷!『化け者心中』の装画を担当された大人気BL漫画シリーズ『
※この対談は、2020年12月12日、KADOKAWA本社にて、オンラインイベントとして開催されました。全対談の様子は2月末まで、ニコニコ動画サイトのアーカイブでご視聴いただけます。
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イメージが響き合う夢の競演
蝉谷:自分のデビュー作の装画を、紗久楽さんにお引き受けいただけることになったと聞いたとき、まず最初、えっ、ほんとですか!?と思わず頰をつねりました。この小説を書く前から『百と卍』を読んでいて、滅茶苦茶ハマっていまして。絵の美しさもそうですし、物語の下地にすごく深い話が埋め込まれていて大好きな漫画だったので、今日お会いできるのも、夢のようで。
紗久楽:今回のお仕事は、ご依頼いただいた当初から、こういう人に読んでほしいんだというイメージが共有できていて、それぞれのキャラクターの大事なところも小説のなかではっきり書かれてたので、絵にしやすかったですね。じゃあその読者のかたに素敵だなと手に取ってもらえるイラストはどんな感じだろう、と。蝉谷さんは、実際に小説を書いてたときに、こんな本になったらいいな、というような具体的なイメージってあったんですか?
蝉谷:場面のシーンは映像として目に浮かべながら書くんですけど、実際の装丁のイメージはまったくなくて、すべて編集さんにお任せしていて。紗久楽さんからいただいたラフパターンを見たときは、もうこちらの想像をはるかに超えたイメージ喚起力に、息をのみました。
紗久楽:頭のなかからこんなにスルスルとラフイメージがあふれ出してきたのは、私も久しぶりだったんです。蝉谷さんからも、ラフへの長い感想文をいただいて。
蝉谷:もう、おぞましいぐらいの長いDMを(笑)、すいませんでした。
紗久楽:いや、なんかほんとうにそこまでイメージに合致していたと伺えて嬉しかったです。女物の着物の裾を翻して歩いている姿って、金魚のひれみたいだなというイメージが昔からあって、
蝉谷:あのラフにも、鳥肌がたちました。
紗久楽:それと、
視る者と視られるもののエロス
蝉谷:いろんなイメージを重ねながら、でもモチーフそのものをそのまま描くのでもない。直截に伝えるところと伝えられないところの微妙な合間を縫って、こんなに美しく仕上げていただけるものなのかと、すごく感動しました。
紗久楽:エロスって、触れるか触れないかぐらいの関係の雰囲気がいい、みたいなところがありますよね。体の交わりを持っても、心までは交わりきらないとか、はっきり描かないほうが心のなかで色っぽさを感じるっていうのは、他の絵画とか芸術もそうだと思います。直接、血を描いちゃうと生々しいですし、別に血が出てくる話ではないんだけど、一方でみんな血を流しているともいえる。でもそれは見えない。
蝉谷:最終的に絞り込まれた一枚も、女形という、女性と男性とを行き来している存在が象徴的に描かれていて、これこそほんとうに直截じゃない部分ですよね。パッと一瞬見ただけだったら女か男かわからないけど、よく見ると喉仏があって。その加減が絶妙です。
紗久楽:小説を拝読しながら、魚之助本人にとっては隠したい部分が、否応なく他者の目に晒されてしまう役者という仕事の背徳感を感じたんですよね。特にこの喉仏とか襟足とか。毛の処理って、他人にはあんまり見てほしくないところだけど、他者はやっぱりまじまじ見てしまう。そういう恥部が、小説のなかでもいろんな言葉を尽くしてフェティッシュに描かれていたから、装画に入れると合うだろうなと思って、そこは丁寧に描き込みました。
蝉谷:今日初めて、途中経過の絵も見せていただいたんですけど、この線の濃淡とか、かすれ具合ですとか、凄いですね。この手の部分は鉛筆ですか。
紗久楽:はい、やっぱり柔らかいものは柔らかい質感のもので描いたほうがきれいなので。
蝉谷:このうなじの部分が、本当にもう、髪の毛一本一本まで描き込まれていて。
紗久楽:和紙に筆で描くと、滲んでつながっちゃったりするので、ここはデジタルツールを使っているんですが、描き方は浮世絵、特に春画の手法を真似しています。日本人が女性を描くとき、うなじとか、毛の一本一本をほわーっとぼかすみたいな手法は日本画などで連綿と時代を通して美しいとされ、描かれてきたことなので、今回、私も挑戦してみました。
蝉谷:細部に神が宿ってる……。この完成した装画を拝見したときに、私が書きたいことが全部この一枚に表れているという衝撃がありました。
紗久楽:鳥だか魚だか、よくわからないものを口に咥えて、ウッてえずいてしまう苦しみみたいなものを、小説を読んでいる間じゅう、感じていたんです。でも、お話としては、鬼が人を喰らうストーリーでもあるので、そこは食べてるようにも、吐き出しているようにも見えるように描けたらな、と。
蝉谷:もう、言葉にならない感動です……。
紗久楽:いや、でも、やっぱり蝉谷さんがそれぐらい、各役者のつらさ憎さを一緒に書いていらっしゃって、その苦しさの集合体みたいなものとして魚之助さんがいるような印象だったんですよね。
紙の本だからこその仕掛け
紗久楽:紙の書籍を手に取って読むよさっていろいろあると思うんですけど、やっぱり立体構造ということがあると思うんです。はじめ手に取るときは、まずタイトルが書いてある部分しか見ないわけじゃないですか。で、第一印象としては、先ほどお話ししたように、このお話全体を包む、ちょっと陰鬱な苦しさみたいなものを込めたかったんですけど、でもそれだけだと、このお話全体を描いた感じにはならないな、と思って、編集者さんとのお打ち合わせの時に、せっかくだから袖の折り返しの部分に、ちょっと仕掛けを入れたいですってご提案させていただいたんです。
蝉谷:いや、もうこれを見たときに、すべてが救われたというか、自分で書いておきながら他人事みたいであれですけど、魚之助よかったね、と心を揺さぶられてしまいました。読者からのご感想でも、読み終わってこの仕掛けに気づいた途端、思わず涙した、っておっしゃっている方がすごく多くて、このカバーがあって完結する物語になった。ほんとうにありがたいです。
紗久楽:私、
蝉谷:藤九郎の手にのみ光が当たって、そこに魚之助は指一本だけ、伸ばしているところも絶妙ですよね。
紗久楽:ふたりでがっちり手に手を取って、という関係ではなく、そうなれたらいいよね、みたいな祈りを込めて。
蝉谷:また、カバーを外したときの表紙が、和綴じ本のようになっているところも素敵で。本文が始まる前の朱色の見返しや扉、栞の紐の色まで、本の装丁って、お着物みたいだなあ、と。
紗久楽:それはデザイナーの
蝉谷:こうちらっと見えるところが色っぽい。
紗久楽:カバーの後ろにある
蝉谷:果実がパックリ割れて、粒つぶが
紗久楽:思いっきりトゥルットゥルにしようと思って描きました(笑)。こういう、ちょっと血の気を感じるものがあったほうが、きっと美しい。子供を食べて鬼になった鬼子母神のことを思い出して、鬼子母神と云えば柘榴かなと。あと、表1の人物が締めている大津絵の帯、お腹に鬼が来てるんですけど、後ろの帯のところは
蝉谷:もうすべてに意味がある。私も小説を書くとき、その一文一文に意味が含まれるように、無駄な文章がないようにと心がけているのですが、これにはもうひれ伏しました。
▼蝉谷めぐ実『化け者心中』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322006000161/
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