構成・文 編集部
応募原稿を読んだときからぞっこん惚れ込み、晴れて選考委員満場一致で受賞が決まるや、
書籍の直接担当に名乗りをあげた、野性時代の編集長。会う人会う人勧めまくり、沸いているのは、話題だけじゃない、その頭のなかでは?という勢い。このたびようやく刊行にこぎつけた受賞作『化け者心中』の魅力を、編集部の現場から、ちょっと前のめりに、実況中継します!!
とにかく、なにかが、過剰で、異様。
今年の野性時代受賞作、蝉谷めぐ実『化け者心中』のはなしである。
だって、
「これは夢に出てきます。取り憑いたら離れない「鬼気迫る」以上の物語。もはや「化け物」ですね。夢うつつを舞台とした狂演にすっかり呑み込まれました。興奮覚めやらず、いま抜け殻状態。。」
ハアハアと息づかいが聞こえてくるようなこんな感想、いまどき、なかなかお目にかかれない。上記は、ブックジャーナリストの内田剛さんから、ゲラ読了直後に届いたメッセージ。まるで呼吸をあわせたかのように、本の雑誌社の浜田公子さんからも、
『化け者心中』、あまりに興奮して、体が乗っ取られたようになってしまって、
あまりにもの面白さに、読み急いでしまった…。読んでいるときは、コロナのことや、在宅で仕事していることとか、このアホみたいな暑さのこと忘れられました。
と、この取り憑かれ様、乗っ取られ感、やっぱりちょっと、テンションおかしくないですか!? 力のある小説って、でもそう、こんなふうに身体ごと攫われて、別人生を生き直すような体験だったはず。日常にはないスイッチが思わずはいってしまう、そんな小説を読みたい、作りたい、売りたい!!
あの超名物書店員の宇田川拓也さんをして、
「まさに頭を下げてでも売らせて欲しい熱烈オススメなデビュー作が刊行されるぞ。」
と予告させしめた本作。いったいどんなものか、ねね、興味わいてきませんか??
大傑作じゃないですか。。
大傑作じゃないですか!
『鬼滅の刃』が300万部売れているなら、こっちだってそれぐらい行ったっていい、くらいです。
メールボックスを開いたとたんに熱風が吹き込んでくるような大傑作の連打!!吉田大助さんからの感想を読んで、体温もぐわっと上昇、おもわず心臓がバクバクしてくる。
こんなに才能あふれる大型新人のデビュー作を手がけるからには、なんとしても、売れる本にしなくては! 思わず拳に力がはいる。
あのブッキッシュな教養の持ち主、森見登美彦選考委員をして、
「あたかも江戸時代をひらひらと自在に泳ぎまわりながら書いているような文章。こんなにぴちぴちした江戸時代、人生で初めて読んだのである。脱帽!」
と帽子を脱がせた、この“ぴちぴち感”をどう伝えるか!?
編集魂がもりもり湧いてくる。
設定は江戸時代、歌舞伎役者たちが命を燃やしてしのぎを削る芸の世界。でもいわゆる歴史時代ものかといわれるとちょっと違う、“今”という時代に切実に息づく本なのだ。デザイナーとさんざん意見をたたかわせ、案をだしあった結論、
「江戸BLの風雲児との呼び声高い『百と卍』の紗久楽さわさんにアタックしてみよう!」
美人画や浮世絵を彷彿とさせる「線」それ自体がほんとうに豊穣で官能的な紗久楽さんの絵。くわえて、『化け者心中』は、性の葛藤を抱えた魚之助と藤九郎の関係性の物語でもある。紗久楽さんには敢えて、キャラクターではなく、この作品が晒す、ひりひりした傷口みたいなものを、その線で表現していただきたいんです、とご依頼する。漫画連載の締め切りをいくつも抱える超多忙なスケジュールの合間を縫って、紗久楽さんに奇跡的にもご快諾いただけたときには、デザイナーと、手をとり「あって小躍り。しかもとびきり嬉しいご感想まで。
「お話、本当に面白かったです。えぐられるような、でも心地のよい痛みでした。時々腰骨にぶるぶるくるような怪しい感覚をもらえつつ、最後のシーンに至るカタルシスまで、とても楽しい読書体験をいただけました!」
完成した装画は、ため息の出るような入魂の一枚。思わず鳥肌たつとはこのことだ。しかも、そこに至るまでに、まったく異なる何パターンものラフを出してくださり、その突き抜けたイメージの豊かさといったら!!
「いつもラフイラストは手探りで2枚ほど、という感じなのですが、あんなにたくさん頭からするすると溢れ出た作品に巡りあえたことがとても久しぶりでした。波長がとても合いました」
紗久楽さんの装画メイキング秘話は別の機会に譲るとして、応募原稿の改稿から、野性時代一挙掲載、そして単行本化作業の度重なるやりとりを経て、最後の最後、念校ゲラを手放したときにつぶやいたとおぼしき著者のツイートに思わずはっとした。
レッドブルに見守られながら旅立っていかれました……私の愛しい三校……
— 蝉谷 めぐ実@『化け者心中』10/30発売予定 (@megumi_semitani) October 3, 2020
改稿というものがこんなにも辛いものだったとは……悩みすぎて寝ながらゲロ吐いたのは初めての経験でした……。でも、編集さんとお互い悔いなし悔いなしと拳を天に突き上げたラオウフェイスで終えました… pic.twitter.com/PdlR5JOUbt
言葉と物語の力だけを頼りに世界と対峙し屹立しようとする、ひとりの若き作家の決死の覚悟が、林立するレッドブルと重なって見える。
だから、手前味噌のそしりを承知で、敢えて断言させてほしい。
「本当に面白いから、ぜひ、身体を通して、読んでみてください!!!!!」と。
▼蝉谷めぐ実『化け者心中』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322006000161/