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特集

京極夏彦氏も登壇! 予想外にヒドかった! 妖怪馬鹿たちが語った〝ひどい民話〟とは!?

文:ライター・妖怪探訪家 村上健司(むらかみ・けんじ)

なぜ妖怪馬鹿がひどい民話を語るのか?

 民話とは、人々の生活の中で生まれ、老人や大人が子供に語ったり、大人同士の集まりで娯楽として語られたりした話のことをいう。桃太郎や浦島太郎のような「昔々、あるところに」ではじまる昔話も民話だし、「○○岩の由来」とか「○○山を作った巨人の話」とか、場所・物・人物にまつわる伝説や、「夕べ隣の旦那さんが狐に化かされて道に迷ったそうだ」というような、身近な人物の実体験として語られる世間話も民話になる。
 現代の日本人の多くは、絵本やテレビアニメなどを通して、子供時代から昔話の世界に親しんできたといえるが、そうした子供向けのメディアでは、あまりにも下品だったり残酷だったり常軌を逸した展開だったりする物語は、無視されがちで扱われることがほとんどない。そのため長じてから各地方の民話集を読むと、なんじゃこりゃ! とびっくりするようなひどい話に出くわすことがあるのだった。
 そんなひどい民話にスポットを当てたトークイベントが、令和2年9月19日、「怪と幽Presents ひどい民話を語る会」のタイトルでオンライン開催された。出演は小説家の京極夏彦さん、妖怪研究家の多田克己さん、そしてこの記事を書いている、ライター及び妖怪探訪家の村上健司の3人。それぞれ『怪と幽』の執筆陣であり、妖怪を愛して止まない〝妖怪馬鹿〟でもある。
 なぜ妖怪馬鹿たちが民話を語るのかといえば、民話は妖怪譚の宝庫であり、妖怪好きだからこそ多くの民話集に目を通してきた──ということがまず前提としてある。しかも3人とも「ひでぇ」と思わず口に出てしまうような民話が嫌いではなく、ある日妖怪好きが集まってひどい民話を楽しんでいたところ、『怪と幽』の編集長が「そういう民話、トークイベントのテーマにできませんか」と相談を持ちかけてきたことが、今回の開催へとつながるのだった。


イベントは完全オンライン。登壇者たちは東所沢で11月にオープンする角川武蔵野ミュージアムの「本棚劇場」から配信を行った。

ひどい民話が誕生するプロセス

 そもそもひどい民話とはどんなものなのだろうか? イベントは一般の人にも馴染みのある昔話の話題からはじまった。
「犬、猿、雉を連れて鬼退治をする、いわゆる誰もが知っている定型の桃太郎の話は、実はそんなに広い範囲で語られていたわけでもないんです」というのは京極さん。
 昔話の桃太郎にはいろいろなバリエーションがあって、例えば民俗学者の柳田國男があえて扱わなかった昔話を集めた『柳田國男未採択昔話聚稿』(野村純一編著)には、「ぼぼ太郎」なる話が載っているという。ぼぼとは女性器を意味する古語あるいは方言で、九州あたりでは今でも通用する言葉だから、タイトルを見ただけで「えっ!」となる人もきっといるはずだ。
 筋書きは桃太郎とほぼ同じだが、お婆さんにあたる人物が妊娠中で、洗濯のときに川で岩をまたぎ、足を開きすぎて赤ん坊が生まれてしまう。それを見ていたお爺さんにあたる人物が「それなら名前はぼぼ太郎でいいだろう」と名付けるなど、名前を付ける部分が異なっている。
 柳田國男がこの昔話を無視したのは、話者の作為性を疑ったからではないかと京極さんはいう。要は桃太郎の話を下品な方向に落として面白くしただけではないかと。
 多田さんがここで別パターンとなる桃太郎の例をあげる。
「鬼を退治しない桃太郎の話もありますよね。桃太郎が山に行って大きな松の木の根っこを家に持ち帰ったら、家がメキメキッと音を立てて倒れてしまって、その衝撃で爺さんは鍋に首を突っ込んで死んで、婆さんは飯桶に首を入れて死んでしまうとか」
 このようなパターンは、桃太郎の昔話の中でも山行き型とよばれる話型に分類されているとのことだった。
 昔話には定型となるものがあって、そのバリエーションは物語の構造、骨子の部分が一緒でもディテール、つまり細かい部分が違っている──という京極さん。
「そのディテールの部分は、子供たちに語って聞かせるお婆ちゃんたちが、いいだけ話を盛ったり面白く変えたりしている。よく観察してみると、ほとんどの民話は話を盛られていることが分かるんですよ」
 聞き手へのサービス精神から、話者がモリモリ話を盛っていくという状況は想像に難くない。特に下品な話には、子供も大人もただ単語が出てくるだけで笑いを誘われがちだ。
 こんな感じで盛られた民話は、ときにすさまじく下品だったり、理不尽で不条理な展開だったりと、ひどい内容になりやすいのだろう。

うんことおならと肛門と

 それでは、具体的なひどい民話の例を当日の様子から抜き出してみよう。
 幼少時代からの五十一年間、気になる民話集にはかならず目を通してきたという京極さんは、村上からの「パッと思いつく話でひどい民話といえば?」との問いかけに、次のような話をしてくれた。
 ──あるところにずぼらな親がいた。まだ幼い娘の用便の始末がいやになった親は、そこら中にうんこをさせて放置していたが、やはり汚らしいので、あるとき飼い犬に向かって「娘を嫁にやるから、このクソを食え」といった。以来、犬はいいつけを守って娘のうんこを毎日モリモリと食べ、やがて娘は成長して大層な美人となり、約束通り犬が婿入りする。 
 犬は健気に町で食べ物を探して嫁を養うものの、嫁のいないところで悪い猟師に殺され、犬の代わりに猟師が第二の夫になる。しかし、猟師が犬を殺したことを知った嫁は、元夫のために仇討ちをする──。
 以上は「犬婿入り」なる北陸地方で語られた昔話なのだという。いわゆる異類婚姻譚とよばれる動物と人間が結婚する昔話の一話型で、われわれ基準のひどさでいえば、これでもまだ中堅クラスである。
 多田さんは「ピーピーヒョロヒョロジュージュープー」なる民話を紹介してくれた。
 こちらは「鳥呑み爺」とよばれる昔話の話型に属する話で、あるお爺さんが山で昼食を取っているとき、鳥の糞が弁当に落ちるのだが、まあいいかと食べてしまう。するとお爺さんは「ピーピーヒョロヒョロジュージュープー」と、鳥の鳴き声と同じオナラが出るようになり、やがて殿様に披露することでたくさんの褒美をもらう。それを見ていた隣のお爺さんが真似をするも、うまくオナラが出ず、〝実弾〟を出して罰を受ける──というような話だ。
 村上は、知里真志保の『アイヌ民譚集』から、〝パナンペ・ペナンペ〟の一連の話をいくつか取り上げてみた。例えば「パナンペ沖へ向かって肛門を開く」は、海で肛門を開放し、そこに海の幸をよび込んで豊かな生活をするパナンペと、それを真似して山の毒虫を肛門に入れてしまい、結果的に死ぬペナンペの話で、隣の爺さんが正直爺さんの真似をしてひどい目に遭うという、隣の爺譚の話型を取っている。
 ちなみに取り上げた民話がこんな話ばかりなのには理由がある。ひどい民話のうち今回はエロ要素をなるべく排除しようということで、いわゆる艶笑譚を省いた結果、残ったものの大半はうんことおならの話だったのである。

うんこを食べる! 食べさせられる!?

 昔話にはなぜか〝うんこを食べる・食べさせられる〟系の話がポツポツと見受けられる。例えば、柿の木の精霊が入道に化けて人の家を訪ね、ピチピチとひり出したうんこを家の者に食べさせる話がある。妖怪好きにはタンコロリンのエピソードとしてよく知られていて、十分にひどい民話なのだが、イベント中に類話として取り上げられた林檎の精の話は、それをさらに上回る。自分の排泄物を食べさせるどころか、人間のうんこも食べさせてくれと頼んでくるという、スカトロ趣味満載の内容なのだった。まあ植物の精霊だからひり出すブツの正体は熟れた果実だろうし、人間の排泄物は肥料として必要と強引に解釈できないこともない。
 そして極めつきは、「最後に一等ひどい話を」と京極さんが語った石川県の民話だ。坊さんが托鉢をして家々をまわり、ある家に行くと食べ物どころかひりたてのうんこしかくれない──という、もうこの時点で気の触れた話なのだが、ただ汚いだけではなく常軌を逸した超展開があり、本当にヒドイ。
 なぜか坊さんは河原でうんこをこんがりと焼く。するとその匂いに釣られて坊さんにうんこを恵んだ男がフラフラとやってきて、あまりにもいい匂いだからといってその焼きうんこを食べる。ああ美味しかったといって家に帰った男は、縁側に寝転んだ拍子に犬になってしまう──という衝撃の結末なのだった。
 「今日の話は触りですけど、世の中にはもっとひどい話もあるんです」とは京極さん。うんこやおならの話以外にも、民話の世界には不条理で理不尽な話や残酷だけど笑える話などいろいろとある。そういった民話も話そうと思っていたものの、当日は思わずうんことおならの勢いだけで乗り切ってしまった。
 いずれにしろ、最後にそんな発言が出たということは、二回三回と続くイベントがあるのかもしれない。とはいえ果たしてそんなひどい話ばかりでお客さんが喜ぶのかどうか……。以降の開催は不安しかなかったりする。


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