menu
menu

特集

演じるキャラクターの「痛み」さえ伝わればいい――。中村倫也×堤 幸彦監督 映画「ファーストラヴ」公開記念特別対談

撮影:橋本龍二  構成:アンチェイン 聞き手:遠藤 薫 

島本理生の直木賞受賞のベストセラー小説を原作とした映画「ファーストラヴ」が、KADOKAWA配給で2月11日に公開! 女子大生が父親を刺殺するという衝撃的なシークエンスで幕を開ける本作は、タイトルからは想像もつかない衝撃のクライマックスが待ち受けるミステリー。今回は、本作に出演する中村倫也さんと堤幸彦監督とのクロストークをお届けします。

初タッグの二人が語る演技と作品への想い

 ある男が刺殺体で発見され、彼の娘である女子大生・かん(芳根京子)が殺人容疑で逮捕された。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか。環菜の闇に触れ、事件にのめり込んでいくのは、主人公の公認心理師・由紀(北川景子)。ほかに中村倫也、窪塚洋介といった豪華実力派俳優が集う本作の演出を担ったのは、これまでにも数々のヒット作を手掛けた堤幸彦監督。事件とともに過去のトラウマを乗り越える登場人物たちの心の機微を緻密に描いたサスペンスドラマが誕生した。
 本作で、由紀と行動をともにする弁護士・かしようを演じるのが中村倫也。初タッグとなる堤監督は憧れの存在だという。本作の撮影現場ではどんな刺激を受けたのか。二人の対談は、シリアスな物語とは裏腹に、実に穏やかな空気が流れる中で行われた。



タイトルの裏側に隠された濃密なドラマを描く

――まずは堤監督にお伺いしたいのですが、本作は性犯罪やトラウマといった重いテーマを扱った映画でありながら、終始ハラハラしながら見入ってしまいました。今回の映画作りはいかがでしたか。


堤:最初に原作小説を読ませてもらった時は、正直、非常に難しいなと。私の能力的にやれるかなという難しさを感じたんですね。ですが、幸運にもとても理解力の高いキャストと、本当によく働いてくれるスタッフに恵まれました。不安なことは取材で解決していくしかなかったですね。たとえば、北川さん演じる由紀の職業である “公認心理師”とは何だろう?とか、窪塚さん演じる由紀の夫・我聞は写真家なんですが、彼が撮る写真はどんなものであるべきかとか。そして中村さんが演じた迦葉は弁護士という役でしょう?


中村:はい。


堤:イケメン弁護士と口で言うのは簡単だけど、これもなかなか難しい役どころだよね。


中村:そうですね。



堤:由紀や環菜の核心のシーンを描くうえで、若い女性の心の深いところに入っていけていないんじゃないかと悩んだときに、女性プロデューサー陣やいろんな方の意見を聞いて、少しずつ不安やわだかまりを解消していきました。なによりも名作の原作があり、浅野妙子さんの的を射た脚本があり、僕は作品を作りやすい環境にずっといました。……でも! 編集段階でめちゃくちゃ悩みまして。「ファーストラヴ」というタイトルが持つ意味も改めて考えながら、どういう編集をするべきなのか。コロナ禍で時間があったので、結果的に長い時間をかけて作品と向き合いました。全体を俯瞰すると、今回はそんな作品作りでしたね。

――中村さんは、どんな意識で迦葉を演じようと思われましたか。


中村:実は今回迦葉を演じるうえで、彼のすべてが伝わらなくてもいいやと思っていたところがありました。彼は過去に心に傷を負ったキャラクター。その彼の“痛み”が伝わればいいかなという気持ちでまずは入ったんです。もちろん、弁護士のことや、作品に出てくるいろんな種類の性的暴力のことなど必要なことは学びました。そのうえで、実際に現場で由紀や環菜と対峙した時に生まれるものをすくい集めながらやれたらなって。監督を前に言うのもおこがましいのですが……。


堤:いやいや、いいんだよ。なるほどね。


中村:迦葉はあまりにも自分の人生で経験したことがないものを経験してる人物だったので。ここはこうしなきゃと決めつけるよりも、なんとなく治りきっていない“かさぶた”がある状態にしておいて、そこから生まれてくるものを率直に見守ったり怖がったりしながらやって。それに対して堤さんがOKならOKと言ってくれるので丸投げをしていました。役者っていうのは本当に気楽な仕事です(笑)。


堤:うん、分かります。でもね、中村さんに仕事のオファーがたくさん来るっていうのは、今回よく分かりました。中村くんのお芝居は、あまり表情が変わらないのに、迦葉の裏側の想いがシーンごとに全く違って見えるんだよね。これはすごいことです!



中村:なんだか今日はお互い褒め合って恥ずかしいっていう“対談あるある”な日になりそうですね(笑)。


堤:褒め殺しでいきます!


中村:あはは(笑)。堤さんは、僕がこの仕事を始める前からファンであり憧れの存在なんです。実は昔、監督とニアミスをしているんですよ。「H2~君といた日々」(05年)というドラマで、僕は第3話からの出演だったんですが…。


堤:僕は当時、中村さんを演出していないんですよね。チーフ監督だったんですが、僕は野球のことがよく分からないので全部演出するのは難しいとお話ししていたんです。それで僕は……1話だけ撮って逃げた(笑)。


中村:(笑)。そのニアミス以来、堤さんとお仕事をしたいという思いはずっとありました。それが今回こんな濃厚な現場で実現したのは、僕にとって、とてもうれしいことですね。



撮影現場で急きょ決まったワンカット長回しのシーン

――劇中で迦葉と由紀が激しく口論するシーンが印象的でしたが、その撮影エピソードについてもぜひお聞かせください。


堤:親殺しで逮捕された環菜が、「動機はそちらで見つけてください」と言った。由紀はこの謎が深まる事件にのめり込んでいき、やがて自分の過去にも重ねていくんです。あそこは、由紀の焦りや怒りが映し出されなくちゃいけないシーンだったんです。


中村:さらに迦葉としては、そんな由紀をなんとかして止めないと……っていうターニングポイントでもありました。


堤:そう。ここを表現するために、僕は実はたくさんカットを用意していたのですが、二人のリハーサルでのやりとりを見ていたら“これは切れないな”と思った。だから急にあの場でワンカットでやると決めたんです。


中村:長回しは緊張感がありましたが、役者としては気持ちを途切れさせることなく、より思ってもいないところに感情が運ばれるような熱量が逆巻くのを感じました。今だから言いますが、実はあのシーンが一番苦しかったですね、迦葉を演じていて。


堤:え、そうなの?


中村:はい。だって、弁護士として、一人の男として、どんなに説得をしても彼女には全然伝わらないから……ずっと泣きそうでした。


堤:なんだ、言ってよ! そうしたら泣くシーンを追加したのに。


中村:いいです、いいです(笑)。


堤:あのシーンをきっかけにいろいろ動き出すんだよね。その後の由紀と我聞の病室のシーンでは、迦葉が廊下で二人の話を聞いていて、一人でカツカツと歩いて去っていくわけですが、あそこはなんだか『ローマの休日』みたいで素敵だったなぁ。


中村:フフフ(笑)。

相手が投げてくる球を楽しみに待つ感覚

――あらためて中村さんから見た堤組の魅力、監督から見た中村さんのオススメのシーンを教えてください。


中村:これはよく知られていることかもしれないですけど、監督がいるベースの横に編集マンがいて、前日に撮った映像を仮編集して翌日に観ることができるんです。視覚的に撮ったものをみんなで共有できる贅沢な現場でした。ただ、自分の芝居を誰かと一緒に観るのはすこぶる恥ずかしかったです!


堤:“イケメン弁護士” の迦葉という役はとても難しかったと思うけれど、素晴らしいお芝居でしたよ。だって、カッコよさだけで売っている弁護士なんて、まず実際にはいないでしょう。司法試験を通過してくる人というのは、やはりそれなりの試練を乗り越えた顔つきをしています。それに迦葉は、過去に負った傷を自分で克服して生きてきたという人物。きっと無茶をしてごまかした日もあったと思うんです。それらを中村さんが期待以上に表現してくれた。



中村:そう言っていただけるなんてうれしいです。


堤:僕は今回、ほとんど中村さんに演出をつけていません。大学時代の回想シーンのときに少しだけあったかな。


中村:たこ煎餅のところですかね。


堤:由紀とのデートシーンで、大きなたこ煎餅で顔を隠したり、パッと顔を出したりするやつ! 撮影のときに「ちょっと、こうやってみて」と指示する自分も恥ずかしかったですよ。あんな演出は20代の頃のPV撮影以来ですよ(苦笑)。もう65歳ですから! でも僕は、回想シーンの中村くんの芝居がすごくお気に入りなんです。


中村:そうなんですか?


堤:大学時代の由紀と迦葉は、互いに繊細な状態なので、迦葉は由紀に対して少し俯瞰で見ているような目線が必要でした。よく観ると、あの場面の迦葉は“目の輝き”がないんです。中村さんの演じる迦葉の黒目がちな感じが、とても印象的で驚かされました。


中村:ありがとうございます。



堤:中村さんはきちんと読み取っていました。もちろん事前に下調べもたくさんしたのでしょう。これは北川さんと芳根さんにも言えることだけど、スキルが高いっていうのはそういうことなんですよね。


中村:今回の女性陣二人との芝居は、とてつもなく刺激的でした。お二人ともすごく真面目で、撮影現場は「じゃあちょっとやってみようか」と簡単に言える空気ではなかったです。まるで、直前までブルペンでガッツリ投球練習してきたんじゃないかっていうくらいのギアで現場に入ってこられるようなお二人で。僕はその飛んでくる球の衝撃を楽しみにしていました。球を受けたり、乗っかったり、逸らしたり、見えないフリをしたり。それが作品全体の中でちゃんと意味を持ったシーンになるように、迦葉独特の居方でいようと思っていただけです。今回そういう芝居ができたのは、僕の芝居を見て判断してくださった堤さんと、チーム感が強い堤組というカンパニーの力だと思いますね。



ヘア&メイク/[中村] Emiy(エミー) スタイリング/[中村] 小林 新(UM) [堤] 関 恵美子

映画「ファーストラヴ」



あらすじ

女子大生・ひじりやまかん(芳根京子)が父親殺しで逮捕された。警察の取り調べで「殺人の動機はそちらで見つけてください」と言い放ち、世間を驚かせる殺人事件となった。事件を取材する公認心理師・かべ(北川景子)は、夫のもん(窪塚洋介)の弟で弁護士・あんしょう(中村倫也)とともに、環菜の真の動機を探るために奔走。やがて由紀は、自分の心の底に隠したはずのある記憶と対峙することになるが…。

監督:堤 幸彦 原作:島本理生『ファーストラヴ』(文春文庫刊)
出演:北川景子 中村倫也 芳根京子 窪塚洋介
配給:KADOKAWA  
2月11日より全国公開 firstlove-movie.jp
(c)2021「ファーストラヴ」製作委員会


堤 幸彦

(つつみゆきひこ)1955年生まれ、愛知県出身。88年、商業映画監督デビュー。その後、ドラマ「金田一少年の事件簿」(95〜96年/日本テレビ)、「ケイゾク」(99年/TBS)、「池袋ウエストゲートパーク」(2000年/TBS)など数々のヒット作を手掛ける。15年、『イニシエーション・ラブ』、『天空の蜂』で第40回報知映画賞監督賞を受賞。その他の監督作に『明日の記憶』(06年)、『トリック劇場版』シリーズ(02〜14年)、『20世紀少年』三部作(08〜09年)、『劇場版SPEC』シリーズ(12〜13年) 、『人魚の眠る家』(18年) 、『十二人の死にたい子どもたち』(19年)などがある。

中村倫也

(なかむらともや)1986年生まれ、東京都出身。2005年、俳優デビュー。14年、舞台「ヒストリーボーイズ」で第22回読売演劇大賞・優秀男優賞を受賞。近年の主な出演作に、「美食探偵 明智五郎」(20年/日本テレビ)、「この恋あたためますか」(20年/TBS)、映画『水曜日が消えた』(20年/監督:吉野耕平)、『人数の町』(20年/監督:荒木伸二)、『サイレント・トーキョー』(20年/監督:波多野貴文)、『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』(21年/監督:岩合光昭)など。待機作に『騙し絵の牙』(3月26日公開/監督:吉田大八)がある。

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2021年6月号

5月25日 発売

怪と幽

最新号
Vol.007

4月27日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

黒牢城

著者 米澤穂信

2

テスカトリポカ

著者 佐藤究

3

インドラネット

著者 桐野夏生

4

魂手形 三島屋変調百物語七之続

著者 宮部みゆき

5

医学のひよこ

著者 海堂尊

6

六人の嘘つきな大学生

著者 浅倉秋成

2021年6月6日 - 6月13日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

TOP