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レビュー

自由と責任と覚悟の表明――文・編 加藤シゲアキ『1と0と加藤シゲアキ』レビュー 評者:瀧井朝世

空前絶後の文芸本『1と0と加藤シゲアキ』レビュー

小説・対談・インタビュー・戯曲・脚本などなど、読みどころの多い文芸本『1と0と加藤シゲアキ』。4人の書評家に書評をお寄せいただきました。

『1と0と加藤シゲアキ』



▼加藤シゲアキ特設サイト
https://kadobun.jp/special/kato-shigeaki/

自由と責任と覚悟の表明

書評:瀧井朝世

 作家の周年記念の企画本の内容といえば、ロングインタビュー、対談、自作解説、作家本人による創作……など、ある程度予想がつく。しかし作家生活10周年記念企画、加藤シゲアキ責任編集『1と0と加藤シゲアキ』は予想を裏切る内容で、まるで文芸誌のような充実っぷり。他の作家たちとの競作あり、戯曲あり、脚本あり、その脚本を映像化する過程のレポートあり。加藤シゲアキの読者でも、そうでない人でも、楽しめるのではないか。
 2012年、長篇小説『ピンクとグレー』を刊行してデビューした頃は「アイドルが小説を書いた」と騒がれた。そのニュースを小耳にはさんだだけで「芸能活動の片手間に書いたのだろう」と思った人も多かっただろう(作品を読めばそんな安易なものではないとわかる)。その後、毎年のように新作を発表し続け、雑誌連載などにも挑戦して確実に作家として磨きをかけ、2021年には青春小説『オルタネート』で吉川英治文学新人賞を受賞した。
 本書は、加藤シゲアキ=小説家としてのイメージを揺るぎないものにして10周年だからこそできた企画本だろう。もしも小説家としてここまでの実績がなかったら、小説以外の創作活動も詰め込むと「芸能人が手広くやっている」という印象を持たれかねない。小説家としての居場所を確立させて、加藤氏はより自由に表現の幅を広げている。そう、本作は彼が地道な執筆活動の結果、表現者として自由を獲得した証でもあるのだ。
 企画のなかでとりわけユニークなのは8人の作家との競作である。「渋谷と〇〇」というテーマのもと、小説家の又吉直樹、深緑野分、珠川こおり、羽田圭介、中村文則、恩田陸、そして詩人の最果タヒと俳人の堀本裕樹が参加。これがもう、一人一人が趣向を凝らした作品を寄せていて読み応えがある。また、各作品の最後には加藤氏によるコメントがあるのだが、加藤氏の読者としての鋭さと、作家たちに対する敬意が感じられてこちらも短い文章ながら読ませる。
 胸が熱くなったのは羽田氏の「渋谷と彼の地」だ。私小説風のこの作品は、2022年が舞台だ。語り手はメディアにもひっぱりだこの小説家で、彼は仕事や付き合いで東京のあちこちを移動し(もちろん渋谷含む)、やがてかつてロケで訪れた東北の震災地を再訪する。東京オリンピック後の東京、そして被災地に目を向けながら、この10年の間にどういうことがあった世界で自分たちが生きているのか。乾いた筆致のなかに静かな熱と怒りが感じられる。加藤氏に対し、自分たち作家がこの先何に目を向けていくのかを喚起させ、「共に書いていこう」という鼓舞がこもっていると受け取れる内容だ。その意図を十二分に汲み取っている加藤氏のコメントも胸に響く。
 もちろん、インタビューや対談などからも、加藤氏の表現者としての真摯な、かつ、強い思いがひしひしと伝わってくる。これはこの10年で獲得した自由をしらしめるだけでなく、未来へ向けた責任と覚悟を表明した1冊となっているのだ。

作品紹介



1と0と加藤シゲアキ
文・編 加藤 シゲアキ
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
発売日:2022年09月30日

加藤シゲアキ責任編集! 豪華クリエイター陣と共演するスペシャルブック
◆収録内容
・競作「渋谷と○○」 (恩田陸、最果タヒ、珠川こおり、中村文則、羽田圭介、深緑野分、堀本裕樹、又吉直樹)
・対談 (白石和彌、前川知大、又吉直樹)
・インタビュー&対談再録
・戯曲「染、色」
・小説「渋谷と一と〇と」
・脚本「渋谷と1と0と」
・ショートフィルム『渋谷と1と0と』撮影現場レポート
・10年の作家生活を振り返る2.5万字超ロングインタビュー
・《1と0と》撮り下ろしグラビア
・『ピンクとグレー』から最新の雑誌連載までを網羅する全著作ガイド
・作家とアイドルの境界線を紐解く、ライブパフォーマンス解説
・書店店頭から10年を見届けてきた書店員座談会
and more...
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322112000476/
amazonページはこちら

▼特設サイト
https://kadobun.jp/special/kato-shigeaki/

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