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「ずっと書き続けていく人」という予感は当たった――文・編 加藤シゲアキ『1と0と加藤シゲアキ』レビュー 評者:高倉優子

空前絶後の文芸本『1と0と加藤シゲアキ』レビュー

小説・対談・インタビュー・戯曲・脚本などなど、読みどころの多い文芸本『1と0と加藤シゲアキ』。4人の書評家に書評をお寄せいただきました。

『1と0と加藤シゲアキ』



▼加藤シゲアキ特設サイト
https://kadobun.jp/special/kato-shigeaki/

▼彼は小説という表現ジャンルの持つ特性、適性を最初から掴んでいた――文・編 加藤シゲアキ『1と0と加藤シゲアキ』レビュー 評者:吉田大助
https://kadobun.jp/reviews/review/entry-47413.html

「ずっと書き続けていく人」という予感は当たった

書評:高倉優子

 加藤シゲアキさんを初めて取材した日のことをよく覚えている。訪れたKADOKAWAの社屋のあちこちにポスターが貼られていて、そこには「NEWS加藤シゲアキ 衝撃のデビュー」という文字が踊っていた。アイドルが二足のわらじを履くことは珍しいことではないが、まさかジャニーズ事務所から作家が誕生するとは。正直、驚いた。そして、少しミーハーな気持ちで取材に臨んだのだった。
 ところが彼の受け答えは、すでに作家だった。豊かな言葉を駆使し、時に情熱的に創作秘話を語る姿は、私が普段からインタビューしている作家たちと何も変わらなかった。そのとき直感的に「この人はずっと書き続けていくのだろう」と思ったことを昨日のことのように覚えている。

 あれからもう10年経つのか……と感慨にふけりながら、加藤さん自身が責任編集した本書『1と0と加藤シゲアキ』を手にした。読み終えた直後「なんて濃い本なんだろう」と思った。10年間、コンスタントに小説を書き続け、NEWSファン以外の読者も増やし、さらには直木賞や本屋大賞にノミネートされたり、吉川英治文学新人賞や高校生直木賞を受賞して名実ともに「作家になった」その軌跡が綴られているのだから濃くて当然だ。
 数ページに及ぶ「加藤シゲアキ作家活動年表」には、アイドルとしてのさまざまな活動も同時に綴られていて、どれだけ多忙で、ハードで、濃密な10年間を過ごしてこられたかが一目でわかる。

 本書の素晴らしいところは、そうした過去の記録だけにとらわれない読み物(文芸書)としての充実度の高さだ。なかでも「渋谷と○○」をテーマに、又吉直樹さん、羽田圭介さん、中村文則さん、恩田陸さんといった名だたる作家たちが寄稿した作品は、豪華な顔ぶれといい個性あふれる内容といい読み応えたっぷり。世界でもっとも有名な日本の街である渋谷を、どのような角度で切り取り、作品にするのか。ワクワクしながらページをめくった。加藤さん自身で人選し、オファーしたそうだが、なんという贅沢な試みだろう。

 同じテーマで加藤さんが書いた「渋谷と一と〇と」も収録されている。箱根駅伝で走りたいという夢に破れ、次の夢を見つけられずにいる田尾という男が主人公の短編だ。おしぼりなどを定期的に回収しクリーニングして客に届ける「リネンサプライ」業に従事しているが、コロナ禍で業績は悪化し、仲間たちも辞めていく。ほぼワンオペ状態で働き、疲労のピークを迎えた田尾は、社長である白川と渋谷を舞台に鬼ごっこをすることになって――というあらすじだ。

 幻想的な表情を持つこの作品は、加藤シゲアキの色をしていた。文体といい、比喩表現といい、文学作品の引用といい、余韻といい……加藤さんらしさ全開だと感じたのだ。デビュー作から欠くことなく著作を読んできた私にとって、「この作風、知っている」という懐かしさのような感覚さえあった。そして改めて、「自分の色を出せる、本当の作家になられたんだなぁ」と実感したのだった。

 この作品は「渋谷と1と0と」として映像化されていて、加藤さん自身が原作・脚本・監督・主演を務めたショートフィルムがYouTubeの「KADOKAWAオフィシャルチャンネル」で公開されている。映像は美しく、音楽はかっこよく、幻想的な味わいがあってとてもいい。小説よりも脚本が先に書かれたものだそうで、同じ世界観を持ちながらも内容は微妙に異なっている。本書には脚本も収録されているので、ぜひ小説との読み比べを楽しんでほしい。

 じつは3作目の『Burn. ―バーン―』について、私が「小説 野性時代」(2014年5月号)でインタビューした記事も掲載していただいているのだが、その結びで「今後の目標は?」という問いかけに対し、加藤さんはこう答えている。

「いつか、自分が書いた作品が映像化されて、それを自分で演じる……。そんな日がきたら最高に嬉しいですね」

 つまり約8年かけて有言実行し、夢をかなえたということだ。その努力に改めて、心からの拍手を送りたい。そして、作家・加藤シゲアキの次の10年に期待しながら、何度でも本書を読み返したいと思う。

作品紹介



1と0と加藤シゲアキ
文・編 加藤 シゲアキ
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
発売日:2022年09月30日

加藤シゲアキ責任編集! 豪華クリエイター陣と共演するスペシャルブック
◆収録内容
・競作「渋谷と○○」 (恩田陸、最果タヒ、珠川こおり、中村文則、羽田圭介、深緑野分、堀本裕樹、又吉直樹)
・対談 (白石和彌、前川知大、又吉直樹)
・インタビュー&対談再録
・戯曲「染、色」
・小説「渋谷と一と〇と」
・脚本「渋谷と1と0と」
・ショートフィルム『渋谷と1と0と』撮影現場レポート
・10年の作家生活を振り返る2.5万字超ロングインタビュー
・《1と0と》撮り下ろしグラビア
・『ピンクとグレー』から最新の雑誌連載までを網羅する全著作ガイド
・作家とアイドルの境界線を紐解く、ライブパフォーマンス解説
・書店店頭から10年を見届けてきた書店員座談会
and more...
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322112000476/
amazonページはこちら

▼特設サイト
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『1と0と加藤シゲアキ』のすべて


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