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特集

【インタビュー】『現代ホラー小説を知るための100冊』『怖い話名著88 乱歩、キングからモキュメンタリーまで』朝宮運河 発売記念インタビュー【お化け友の会通信 from 怪と幽】

怪奇幻想ライターとして本誌や『怪と幽』でも活躍する朝宮運河さんが、ホラー小説のブックガイドを立て続けに刊行中だ。
作中に詰め込まれているのは、朝宮さんのホラー愛と底知れない知識。
間違いなく“ホラー中毒者”を続出させるであろうブックガイド刊行に際して、朝宮さんの胸中をうかがった。

取材・文:イガラシダイ
写真:冨永智子

「ダ・ヴィンチ」2025年9月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

『現代ホラー小説を知るための100冊』『怖い話名著88 乱歩、キングからモキュメンタリーまで』
朝宮運河 発売記念インタビュー

ホラーを書き続けてきた先人たちを、リスペクトしています



 ここ数年、ホラー小説が盛り上がりを見せている。このブームを牽引しているのはもちろん、良質な作品を書き続けているホラー作家たちだが、陰の立役者ともいえる人物の存在も無視できない。怪奇幻想ライターとして活動する朝宮運河さんだ。古今東西のホラー小説にまつわる知識を駆使した書評やインタビューを手掛け、SNS上の自主企画「#ベストホラー」ではその年の優れた作品情報を積極的に発信してきた。
 そんな朝宮さんがこの夏、『現代ホラー小説を知るための100冊』『怖い話名著88 乱歩、キングからモキュメンタリーまで』と、立て続けにホラーのブックガイドを出すという。
「数年前からホラー小説が盛り上がっていて、話題作がたくさん生まれました。それがホラーというジャンルの入り口になった人もいると思います。ただ、そういった人たちのなかには、『次はどんな作品を読んだらいいのだろう』と迷ってしまう人もいるのではないかと。だから、このブームを終わらせないためにも、ビギナーも含めた人に向けたブックガイドが必要なのではないかと考えていたんです」
『現代ホラー小説を知るための100冊』では“現代ホラー”に焦点を当て、『怖い話名著88』はこの100年を振り返りつつ、純文学やSFなどのジャンルからも“怖い作品”を集めた。
「『現代ホラー小説〜』では、ホラーシーンのエポックメイキングとなった『リング』を皮切りに、それ以降に出た作品のなかから100冊を紹介しています。ある程度、ホラー小説に関心のある人には特に喜んでもらえるかもしれません。
ただし、“ホラー小説とはなにか”と明確に規定した上で作品をピックアップしたので、どうしても取りこぼしてしまう名作もあったんです。なので、そういった作品を『怖い話名著88』で取り上げました。2冊を併せて読んでいただくことで、広い意味で、ホラー小説に触れられると思います」
 また、ブックガイドを通して朝宮さんが伝えたかったのは「どんなホラー小説があるのか」だけではない。現在のホラーブームは突発的に発生したものではなく、何人もの書き手がいて、時代ごとの名作があり、長い歴史が存在する。その純然たる事実を、朝宮さんは書き残そうとしている。
「ホラーを書くのは大変なわりに儲かる保証がありません(笑)。それでもホラーを愛し、作品を生み出し続けた先人たちがいるんです。ぼくはそこにリスペクトがあります。だから、ここ最近のブームからホラー小説に興味を持った人たちに対して、歴史を知ってもらいたいなと思っているんです。流行りのモキュメンタリーホラーだって、この数年で発明されたジャンルではなく、何年も前からホラー作家たちが書いていました。それを知った上で、さまざまなホラー小説を楽しんでもらいたいですね」
 そもそも朝宮さんはなぜ、こんなにもホラー小説を愛し、敬意さえ抱いているのか。その原体験は幼少期まで遡る。
「幼い頃、怖い話好きの祖母からさまざまな怪談を聞かせてもらっていました。いまでも強烈に覚えているのは、エドガー・アラン・ポーの恐怖小説『黒猫』について話してくれたこと。祖母の家のお風呂はタイルが真っ黒だったんですが、『黒猫』について聞いたあとにお風呂に入るのが本当に怖かった。でも、不思議と惹かれてしまって、江戸川乱歩などの怖い小説を自ら読むようになっていきました」
 その後、朝宮さんは大学で幻想文学について学ぶようになる。師事したのは、泉鏡花研究の第一人者である田中励儀先生だった。
「田中先生は泉鏡花のことをなんでも知っている上に、泉鏡花がちょっとでも関連するものであればマンガでもアニメでも絶対にチェックするんです。その姿勢に感銘を受けましたし、仕事の仕方にも影響しているかもしれません。それから大学院にも進んで、そこでも幻想文学を研究しました。ただ、当時は文系の大学院を出てもなかなか就職できなかったんです。なので仕方なくフリーターをしていたんですが、東雅夫さんが編集されていた雑誌『幻想文学』に学生時代から書評の投稿をしていて、そこからご縁あって、『怪と幽』の前身誌のひとつ『幽』で書評を執筆できることになりました。いま思えば、それが怪奇幻想ライターとしての第一歩でしたね」
 そうして、いまではホラージャンルのライターとして引っ張りだこになった。〆切が重なり、徹夜することもざらだ。そんなにも朝宮さんに仕事が集中するのは各方面から信頼が寄せられているだけではなく、いま、ホラーに夢中になる人が増えているからでもあるだろう。でも、人はどうして、こんなにも怖いものにハマってしまうのか。
「ホラー小説って、“安全圏で楽しめる恐怖”。やっぱり誰だって本当に怖い思いはしたくないし、そういう状況は避けたいじゃないですか。でも、フィクションであれば自分に害がないとわかった上で、楽しめる。人から聞く怖い話って、途端にワクワクしますよね。だからみんな、ホラー小説に夢中になるんだと思います」
 とはいえ、なかには怖いものは一切だめ!という人もいる。そういった食わず嫌いな読者に対して、もしもホラー小説の良さを伝えるとしたら?
「嫌いな人に、無理やり読ませたいとは思わないんです。でも、もしもホラー小説を『ただ怖いだけの話』と誤解した上で嫌っているとしたら、決してそうではないことを説明したい。ホラー小説に出てくる幽霊、つまり死んでしまった人というのは究極のマイノリティだと思うんです。ホラー小説ではそんな声なき声を描いています。たとえば、昔の怪談に出てくる女性の幽霊だって、武家社会における弱者です。抑圧され、無念のまま死んでしまった。彼女たちの恨みの声は、つまりマイノリティの声です。最近のホラー小説ではそこにフェミニズムの要素が加えられたりして、より社会的なメッセージが感じられるような作品もあります。そう捉えてみると、ホラー小説に対するイメージが変わるというか、再発見できるものがあるのではないかと思います。今回のブックガイドにはそういった観点で紹介している作品もあるので、ぜひ、良質なホラー小説と出合ってもらいたいですね。またこれを機に、若手の怪奇幻想ライターが出てきてくれることも期待しています。若い視点からはホラー小説の世界がどう見えているのか、誰よりもぼく自身がそれを知りたいですから。そして、ともにこのジャンルを引き続き盛り上げていけたらいいな、と思います」

プロフィール

朝宮運河(あさみや・うんが)
1977年、北海道生まれ。怪奇幻想ライター・書評家として、作家インタビューや書評、文庫解説などを手掛ける。編纂アンソロジーに『家が呼ぶ』『宿で死ぬ』『再生』『恐怖』『影牢』『七つのカップ』など。編著に児童書版『てのひら怪談』がある。

作品紹介



書名:現代ホラー小説を知るための100冊(星海社新書)
著者:朝宮運河

日本の現代ホラー小説入門のためのブックガイド。伝説的怪異譚『リング』が刊行された1991年から2024年までに登場したホラー小説より100冊を厳選し、ホラーブームの潮流を辿る。より深くホラー小説を理解する〈併読のススメ〉も。

詳細:https://www.seikaisha.co.jp/information/2025/07/08-post-348.html



書名:怖い話名著88 乱歩、キングからモキュメンタリーまで(講談社)
著者:朝宮運河

1926年から現在に至るこの100年を振り返り、時代を彩るような珠玉の「怖い話」を紹介する。文豪が綴った純文学や国内外のミステリーやSF、怪談実話まで、読みどころを徹底的に分析。人気作家である澤村伊智、背筋との対談も収録!

詳細:https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000416457

『怪と幽』次号予告



書名:怪と幽 vol.020(KADOKAWA)

特集1 :昭和100年だョ! オカルト大集合
ユリ・ゲラー、つのだじろう、大槻ケンヂ、みうらじゅん、和嶋慎治、黒 史郎、三上 延、新井素子、角田光代、加門七海、佐藤 究、鈴木光司、平山夢明、山本さほ、横山茂雄
特集2 :知っておきたい小泉八雲
小泉 凡、前川知大、佐野史郎、東 雅夫、円城 塔、田辺青蛙

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