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試し読み

政治ド素人の常識破りの決断が、腐った永田町を斬る!  眞邊明人『28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた』試し読み#4

異色の政界エンタメ小説『28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた』(著:眞邊明人)の試し読みを、大ボリュームで掲載します!
(全5回・5月30日~6月3日まで5日連続更新)
思惑渦巻く永田町に飛び込んだ、政治ド素人のユーチューバーの運命やいかに――。ぜひお楽しみください!

『28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた』試し読み#4

2025年2月20日
川上首相に6億円に上る違法献金の疑惑

 川上首相が総裁選への工作資金として6億円あまりを大手建設会社なか組から受領したとされる資料が流出した。現閣僚を含め、主だった派閥の有力議員に配られたことが記されている。これが事実だとすると、戦後最大の贈収賄事件に発展する可能性がある。
ちようまい新聞   

 


「大変な事態になりましたな」
 赤坂の料亭で、真坂尊は、元日本党幹事長むらこうすけと差し向かいで杯を交わしていた。尊の隣には喬太郎が控えている。
「真坂先生からお話をお伺いした際にはにわかには信じられませんでしたが、これほど詳細に記事が出ると川上総理は絶体絶命ですな」
 野村は、特徴あるしやがれた声で尊に言った。元々は京都の街金から身を起こし、国会議員になり、いっときは幹事長として権力を掌握した野村はいわば立志伝中の人物だ。七十を越えてもその精力的な意欲は衰えを知らない。白髪を黒く染め、オールバックに整え、小柄でせ型の身体を黒のスーツで包んでいる。顔には深いしわが刻まれているが、大きな瞳が若々しく、老いと若さがアンバランスに同居している。
「野村先生は政局をどう見られますか?」
 尊が穏やかな口調で野村に尋ねた。
「政権としては強引に乗り切ろうとするでしょうな」
 野村は杯に満たされた日本酒をぐいと飲み干しながら答えた。
「検察がどの時点で動くかでしょうが、おそらく川上総理自身に捜査の手を伸ばすことはないでしょう。せいぜい私設秘書もしくは選挙責任者あたりまでが限界じゃないでしょうか。野党がどれだけ騒ごうが、与党は議席の過半数がありますからな。ひたすら耐えて時間を稼ぐ」
「世論の方はどう致しましょうか?」
「そこが難しいですな」
 野村は、卓上に並んだ懐石料理にはしを伸ばし、口に運ぶ。よく飲み、よく食べる。この老人の底知れぬ精力はこの食欲から生まれてくるのであろう。喬太郎自身は料理にも酒にも手をつけずそんな野村を黙って見守っている。
「もともと川上総理は人気がない。マスコミは思い切りたたくでしょうな」
「広報部長としては難しいところです」
 尊は表情ひとつ変えずに言った。尊もまた料理に一切手をつけていない。尊の返答に野村は、ほほほと笑い声をあげた。
「世論はその広報部長に次の日本のリーダーとして期待するでしょうな」
「いえいえ。私ではありません」
 尊は首を振った。
「それ以外に誰もおらんでしょう」
 野村は吸い物に口をつけながら今度は含み笑いをした。尊は静かに野村に向かい言った。
「星野徹」
 野村の箸が止まった。そしてゆっくりと視線を宙に浮かせた。尊は続けた。
「星野先生はこのチャンスを逃さないでしょう。今はあの人はコメンテーターですから自由に発言できます。その発言力と影響力で星野待望論を作ることが可能です」
「………星野さんは政界に復帰されるおつもりですか」
 野村は驚いたように尊に尋ねた。
「はい」
 尊は野村の質問に明快に答えた。野村はやや茶色がかった瞳で尊を見つめ、しばらく無言でいた。しばらくの沈黙ののち、野村はゆっくりと手酌で日本酒を杯に満たし、口に含んだ。
「この件、もしや真坂先生は事前に星野さんからお聞きになったのですか」
「はい」
「………なるほど」
 野村は杯を静かに机の上に置き、宙を見上げた。
「星野さんはこのスキャンダルを梃子に川上政権を退陣に追い込み、解散総選挙を行わせ、そこでご自身も立候補され政界復帰をされるおつもりです。ご本人の口からその意思を聞きました」
 尊の言葉に野村はゆっくりと箸を置いた。
「それであれば合点がいきました」
 野村は口をおしぼりでぬぐった。
「政党は政権をとっていてなんぼです。最終的には皆、政権を守るために一致する。落合さんとしてもゴリ押しで総理の座につけた川上さんは意地でも守るでしょう。しかし、星野というカードがあれば面白いですな」
 野村は尊をじっと見つめた。
「私を抱き込んだのは、この一件を政局にするためですな」
「落合先生の権謀術数に対抗できるのは野村先生をおいて他にはいません」
 尊は、目の前の徳利を持ち上げた。野村は杯を手に取る。尊は野村の杯に酒を満たした。
「私はお父上である真坂海先生と志を共にし、英政会をつくった。海先生が非業の最期を遂げられて、落合先生が英政会に入られてから、海先生の理想とはかけ離れた単なる権力を欲するごうの衆に成り果てた。落合先生の罪は重い。そして、落合先生を引き入れた真坂龍先生の罪もまた同じ。落合政権で私は海先生の理想を取り戻そうとしたが、落合先生によって阻まれた」
 野村は言葉を切って、杯の酒を飲み干し、今度は自分の徳利を取り上げ、尊の方に差し向けた。尊も卓上の杯を取り上げ差し出す。野村は尊の杯に酒を満たした。
「私は英政会を取り戻すつもりです」
 尊は酒を飲み干し、野村にキッパリと言った。
「その覚悟はすでにできております」
 その言葉に野村は、背筋を伸ばし、まっすぐ尊を見た。
「わかりました。協力いたしましょう」
 そう言うと野村は深々と頭を下げた。ふたりの姿を喬太郎はただ見つめていた。そして机の下で握りしめた右のこぶしが震えるのを左手でそっと押さえた。その喬太郎の様子に高揚感に包まれるふたりは気づかなかった。

(つづく)

作品紹介

28歳フリーターが総理大臣と総選挙で戦ってみた
著者 眞邊 明人
定価: 1,760円 (本体1,600円+税)
発売日:2023年03月27日

政治ド素人が、腐った永田町を斬る!
30代を目前にフラフラしていた大河冬也は、政治系ユーチューバーとして人気を獲得し、与党幹事長代理・真坂尊に対談を申し込む。すると、冬也のカリスマ性に注目した、尊の秘書で息子の喬太郎から、尊が旗揚げした新党の候補者として衆議院解散総選挙に出馬するよう説得される。幼なじみの仲間の後押しもあり立候補を決意した冬也は、ユーチューバーならではの斬新なアイディアを掲げ若者を中心に国民的人気を博すが、地位や権力にしがみつく老兵たちの争いに巻き込まれていく。

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322111000528/
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