【第227回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第227回】柚月裕子『誓いの証言』
「久保ならやりかねない、そう思いました」
佐方は思わず拳を握った。いま、岩谷がした尋問は、いましがた佐方が、異議あり、で述べた問題点と同じ質のものだ。西田に対する問いは西田個人の考えを問うたものでしかなく、事件とは何らかかわりはない。
しかし、裁判官も傍聴人も、もう西田の言葉を聞いてしまった。久保はもともと今回のような事件を起こす危険がある人物だった、という考えを抱いてしまった可能性がある。
岩谷が質問をしたあと、異議あり、を言わせないような速さで西田は答えた。もしかしたら、ふたりのあいだにそのような打ち合わせがあったのかもしれない。
「尋問を終わります」
岩谷がそう言って、席へ戻っていく。
公判はそのあと十分の休憩を挟み、再開してからも検察官側の証拠調べが続いた。岩谷が三人目の証人として呼んだのは、北野総合病院の
岩谷が手元の書類を見ながら、曽根が診察をしたときの説明をした。晶の局部には、裂傷があったという。
岩谷は曽根に訊ねた。
「この傷は、主にどのようなときにつくものですか」
岩谷の質問に、曽根はふり返り、案じるような目で晶を見た。晶はどこを見るともなく、じっとしている。やがて曽根は目を前に戻し、静かに答えた。
「強い力でなにかを挿入されたときです」
「それは、男性器もですか?」
曽根が頷く。
「はい、そうです」
(つづく)
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