【第228回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第228回】柚月裕子『誓いの証言』
岩谷は曽根から乙部に目を移し、説明を続ける。
「診察を終えた原告は、そのあと警察へ行きました。そのときに警察は、原告の体内に残っていた体液――これは病院が採取していたものです。それと、原告の尿検査の結果を受け取っています。このときの検査結果で、原告の尿からベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤が検出されています。そして警察はその場で、原告の爪に残っていた皮膚片を採取しました。警察が病院から受け取った体液と、警察が採取した皮膚片をDNA鑑定にかけた結果、ふたつとも被告人のものであることが判明しました」
抑揚をつけた話し方は、まるで演説者のそれのようだ。
隣で小坂が、ぽつりと言う。
「なかなかの演技派ですね」
「そうだな」
佐方は短く答えた。
岩谷は裁判官と傍聴人に、久保が晶と肉体関係を結んだと強調したいのだ。そして、久保に対する非難を煽りたい。実際、傍聴人のなかには、被告人席に座る久保に厳しい目を向けている女性もいる。
法廷内に、久保には不利な空気が漂っている。
しかし、佐方は落ち着いていた。今回の公判の争点は、そこではない。久保は晶と関係を持ったことを、最初から認めている。久保が訴えているのは、薬を使用して一方的に襲ったわけではない、ということだ。自分はそこを明らかにすることだけを考えればいい。
公判は岩谷が尋問を終えると、佐方の曽根に対する反対尋問に移った。
佐方は曽根に訊ねる。
「病院に来たとき、原告はどのような様子でしたか」
(つづく)
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