【第266回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第266回】柚月裕子『誓いの証言』
検察側の論告と求刑を終えて岩谷が椅子に座ると、乙部は佐方に顔を向けた。
「続いて弁護人、弁論をどうぞ」
佐方は椅子から立ち上がった。ゆっくりと、法廷内を見渡す。この弁論が、弁護人が主張できる最後の場となる。
佐方は久保を見た。視線に気づいたのか、久保が佐方を振り返った。こちらをまっすぐに見つめる目には、結果がどうなろうとも悔いはない、そう感じさせる覚悟のようなものが滲んでいた。
佐方は久保に向かって頷いた。できることはすべてやった。あとは裁判官たちの判断に委ねるしかない。きっと、お前の無実は証明できる。そして、苦しんでいる晶を救うことも――。
佐方の気持ちが通じたのか、久保が頷き返し前を向いた。
佐方は乙部に一礼し、弁論をはじめた。
「被告人が、原告と不貞行為をしたことは事実です。それは被告人も認めていて疑う余地はありません。しかしながら、今回の争点となっている、不同意性交等罪においては、被害届が出されているような行為はありません」
佐方は弁論を続ける。
「被告人は警察に逮捕された時点から、被害届を出された行為について一貫して否認していました。私は被告人の必死の訴えを信じ、弁護を引き受けて調べをはじめましたが、私には当初からどうしても腑に落ちない点がありました。それは」
そこで佐方は傍聴席にいる晶を見た。
「原告が、なぜ自らSNSに、性被害に遭ったと投稿したのかです」
晶は俯いたまま、佐方の話を聞いている。
(つづく)
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