【第226回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第226回】柚月裕子『誓いの証言』
西田はすらすらと答える。
「店の二十回目の開店記念日だったから、よく覚えています。店には常連さんから、記念日を祝う花が届いていましたから間違いありません」
西田はいままでにも、なにかしらで公判に立ち会った経験があるのかもしれない。かなり場慣れしているように感じる。どのような商売でもそうだが、特に酒が絡む夜の商売ともなると、酔っ払いの喧嘩など揉め事に巻き込まれることもあるだろう。
「店での被告人の態度は、どのようなものでしたか」
西田は口をとがらせて、不機嫌そうな表情をした。
「金払いはよかったですよ。でも、女の子たちからの評判はよくありませんでした。見境なく女の子に手を出して行儀が悪い、そう言われていました」
「異議あり」
佐方は乙部に向かって声を張る。
「いまの発言は、証人本人のものではなく、まわりの人間の心情を述べたものであり、噂の域を出ないものです。一方的に被告人の人間性を貶めるものでしかありません」
「異議を認めます。検察官は質問を変えてください」
岩谷は乙部に恭しく頭を下げると、改めて西田に訊ねた。
「さきほど原告の証言にありましたが、被告人は原告をかなり指名していたようですね。それは、被告人は原告をかなり気に入っていた、ということで間違いありませんか」
西田が認める。
「はい、かなりご執心でした」
岩谷が、ちらりと佐方を見た。嫌な予感がして反射的に身構える。岩谷は視線を西田に戻し、質問をする。
「証人は、今回のことを知ってどう思われましたか」
佐方は立ち上がり、異議あり、と言おうとした。しかし、それより早く西田が答えてしまった。
(つづく)
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