【連載コラム】戦車「ティーガーⅠ」のプラモデルを製作中。実際の戦車の使われ方を意識しながら塗装していく。今野敏「ヤメろと言われても! Ⅱ」#50
今野敏「ヤメろと言われても! Ⅱ」

※本記事は連載コラムです。
戦車「ティーガーⅠ」が組み上がり、 塗装作業へ。実際の戦車の使われ方を意識して塗っていく。
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ティーガーⅠは無事組み上がり、塗装作業に入る。
戦車に関しては、まったくの門外漢だったが、一つ大物を作ってみると、そのノウハウが多少わかってくる。技術そのものというより、戦車モデラーたちが目指している方向のようなものが見えてくるのだ。
実際に第二次世界大戦で運用されていた戦車は、砂や土で汚れ、雨風にさらされて錆が目立ち、時には着弾のダメージがあったりする。それが戦車の特徴の一つだ。
同じ兵器でも、飛行機はそれほどボロボロではない。破損したまま飛ぶと墜落する危険があるから、常に修理・整備している。
軍艦も、錆で船体に穴があいたりすると、沈没の危険があるので、頻繁にペンキを塗り直したりするし、船体に損傷があったら必ず丁寧に修理をする。だから、それほどのダメージはない。しかも、軍艦はでかいので、模型を作るときに、大きな汚れやダメージは必要ないし、そういう表現は不自然なのだ。
実際に錆はどういうふうにつくのか、着弾のダメージはどういう形状なのか、泥や埃 ほこり はどういうふうに付着するのか……。
そういうことが、戦車モデラーたちの最大の関心事になってくる。もちろん、一般の人がプラモデルを楽しむには、素組みで充分だ。乱暴なことを言えば、塗装だって必要ない。組み立てること自体が楽しいのだから。
だが、ほんの少しだけリアルさを追求したいのなら、一色だけでも塗ってみることだ。すべてを塗り尽くすことはない。どこか一部に色をつけるのだ。すると、さらにリアルにしたいという欲求が出てくるはずだ。完成度の追求はそこから始まるのだ。いきなり、雑誌にある作例のような模型を作ろうというのは間違っている。
さて、ティーガーⅠの塗装だ。まず、下地に茶色をエアブラシで吹く。下地なので、全体を茶色にしてしまう。
次に、足回り、つまり、車輪や履帯に乾いた土の色を吹いていく。実際の戦車の履帯や車輪には、べったりと泥がこびりついている。まず、それを塗っておく。
次に、カーキグリーンを塗るのだが、わざとムラになるようにエアブラシで吹いていく。そうすることで、下地の茶色との相乗効果で平面的な感じではなくなる。
さて、今月はここまで。これから先が、実はたいへん。日が当たる部分に明るい色でハイライトを入れ、ディテールを塗り分ける。
そしていよいよウェザリングだ。このキットには人物のフィギュアもついているので、それもきっちり塗装しなければならない。
やることが多いということは、それだけ楽しめるということだ。基本塗装が終わった作品を眺めながら、どこをどう塗っていこうか考えるのは、実に楽しい。
次回はいよいよ完成となる予定。じっくりと塗っていきます。
写真=今野 敏
※「カドブンノベル」2020年11月号収録「ヤメろと言われても! Ⅱ」第50回より
◎つづきの第51回は「カドブンノベル」2020年12月号に掲載しております。