【カドブンレビュー】
テクノロジーの進歩はいつの時代も派手だ。現在ならば、AI、IoT、ブロックチェーンという言葉がニュースの話題にのぼらない日は滅多にない。こうした技術革新は私達の生活をガラリと変えてくれる可能性を秘めている。しかし、その派手さに目を奪われて、どんなテクノロジーでも、それを使うのは「人」だという本質を忘れてはならない。
インターネット上に突如として出現した「殺人ライセンス」という名のオンラインゲーム。まず「殺人依頼書」という欄に殺して欲しい人のプロフィールが書き込まれる。その後、他の訪問者が「殺人請け負い」という選択をすると、依頼書に書かれた人を殺すためのシミュレーションゲームがスタートする。それは「相手を呼び出す」or「自分が相手に近づく」などの選択肢をクリックし、殺人までのプロセスを疑似体験していくという悪趣味なゲームだった。ある日、この「殺人ライセンス」が現実になったような事件が連続して発生してしまう。
中年になってリストラされたことを契機に探偵業を志す相沢優一、ITに詳しい高校生の永友久、ベテラン刑事の丸谷直也はそれぞれの立場から「殺人ライセンス」と関わることになる。そして、物語が進むにつれ、3人の接点が徐々に拡大していくことで、事件の全貌が明らかになっていくのだが……。
インターネットというテクノロジーが殺人と結びつくと、全く新しい性質の事件が存在しているのではないか、とつい思ってしまいがちだ。でも、人を殺すのはインターネットでも「殺人ライセンス」というゲームでもなく、あくまで「人」だ。事件の根底にあるのも、人と人とが分かり合えず、憎しみを抱いてしまう悲しさだった。だからこそ、物語後半、異なる価値観・スキルを持つ3人がお互いに心を開き、違いを認めることによって、事件を解決する姿は希望に満ちている。憎しみに対抗し続ける真の勇敢さは、いつの時代も一見地味かもしれないが、確かな強さを持ち、私達に寄り添ってくれている。
書誌情報はこちら≫今野 敏『殺人ライセンス』
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