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レビュー

「自分とは何か」という問いが、“普通”の日常と共にある『移民 棄民 遺民 国と国の境界線に立つ人々』

【カドブンレビュー】


 日中ハーフや在日ウイグル人、台湾のヒマワリ学運などを独自取材。国と国の境界線にいる人々の実態に迫るルポルタージュだ。
 仰々しいタイトルから、経済的にも精神的にも追い詰められた同情されるべき人々がいることを教えてくれるのではないか、と期待して読み始めた。
 しかし、そんな私の期待や考え方それ自体が持つ“誤り”を突き付けられてしまった。
 最初に象徴的に登場するのは、ひとりの女子大学院生。実は両親が南ベトナムから日本に移住した難民だったため、祖国の消滅によって無国籍者として生まれ育った。母語は日本語であり、本人から明かさない限りは日本のかわいい女子学生だ。恐らく、激烈な差別を受けたり、困窮を経験した訳ではない。ただ、ベトナムの名前を持っていることもあって、周囲からは『なんとなく外国人』として見られて来た。そんな彼女が思春期になって初めてベトナムを訪れた時に、『ここも自分の故郷じゃない。自分はどこにも属していない』と感じた時の衝撃と恐怖。物売りのおばさんに絡まれた彼女を助けようと、母が思わず放った「この子はベトナム人じゃないよ」という言葉に、自分の足元が一気に崩れたのだ。彼女はこの恐怖を克服しようと、ベトナムへ留学したり無国籍問題を調べたりすることになる。
 境界線上にいる人たちに共通する「自分とは何か?」を深く考えざるを得ない状況をこの本では追っていく。そしてそれと同じ熱量で、彼らの日常や幸せの“普通さ”も描かれる。
 彼らは決して同情したり、遠ざけたりするべきではない“普通”の人たちであり、日本の社会を構成する重要な要素のひとつなのだ、と実感させられる本だ。


書誌情報はこちら≫安田 峰俊『移民 棄民 遺民 国と国の境界線に立つ人々』


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