【解題】
旧角川文庫版『火の鳥』は全13巻だったが、今回新装版として刊行するにあたって、新たに14巻として別巻を加えることになった。『火の鳥』という作品について、お読みになるみなさんに、より深く知ってもらうためである。
『COM』版『火の鳥』の「望郷編」「乱世編」は、掲載誌のリニューアルや休刊の影響を受けて中断を余儀なくされた作品である。
『COM』発行元の虫プロ商事は、もともとアニメーション製作会社・虫プロダクションの版権部門だったが、独立して出版事業に乗り出す一方で、手塚治虫原作のテレビドラマ『バンパイヤ』などを製作していた。しかし、1970年頃から経営状態は思わしくなく、社内のゴタゴタが続いていた。
虫プロ商事は1973年8月に倒産。『COM』も休刊してしまう。「乱世編」第2回は、色指定2色で掲載するために早めに原稿を入れていた冒頭の16ページだけが完成していたが、残りは下描きのまま残された。
その後、『月刊マンガ少年』で構想や設定を新たにした「望郷編」「乱世編」が連載されたために、長く未収録となっていた。2014年には小学館クリエイティブからGAMANGA BOOKSシリーズ『火の鳥』の全巻購入特典としてはじめて1冊にまとめられ、今回はそれを底本としている。
「望郷編」はこれに先立つ「羽衣編」と一体になる予定だったが、新たな構想の「望郷編」が描かれたために、「羽衣編」はネームに変更を加えた上で独立した作品となった。
「休憩」は『COM』1971年11月号に掲載されたコミックエッセイである。角川文庫版にはこれまで収録されていなかったが、『火の鳥』のテーマをわかりやすく語った作品として再録した。
「火の鳥を語る」には、1986年に角川映画がプロデュースし東宝が配給した劇場アニメ『火の鳥 鳳凰編』の公開に合わせて角川書店から発行されたビジュアル・ムック『火の鳥(ニュータイプ100%コレクション)』の中で企画された手塚治虫と製作総指揮の角川春樹氏の対談を収めている。
映画には手塚や手塚プロダクションはタッチせず、虫プロダクション出身のりんたろうが監督。アニメ製作はプロジェクトチーム・アルゴスとマッドハウスが担当した。
対談では、『火の鳥』現代編について手塚が語っているのが貴重だ。最終話については、手塚自身が講演で「アトムのエピソードになる」とも語っているが、この対談のように「自分が死ぬときが現代で、死ぬときに最終話を描く」という構想も持っていた。
『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』は、1980年に公開された手塚治虫としては10年ぶりとなる劇場アニメのために描かれたストーリーボードのダイジェスト版である。連載にはないオリジナルストーリーとして構想されたもので、手塚はシナリオの代りに絵で説明するためのストーリーボードをつくったのだ。
枚数は全部で3000枚以上になり、完全版は復刊ドットコムの『火の鳥《オリジナル版》復刻大全集』の別巻として上下2巻で2012年に刊行されている。
映画のコミカライズ版はアニメのメカニックデザインを担当した御厨さと美が公開に先立って『月刊マンガ少年』に連載。1980年4月に朝日ソノラマから『月刊マンガ少年別冊』として単行本化。2007年にはメディアファクトリーから文庫版が出版された。
角川書店から単行本『火の鳥』の刊行が決まった時に手塚は、目玉企画として自分自身の手で『火の鳥2772』をマンガとして描き下ろした1巻をつくる、と宣言していたが、早すぎる死によって果たせなかった。今回の収録は、幻のマンガ版『火の鳥2772』へのオマージュである。
また、映画公開前に手塚はさまざまなメディアでインタビューを受けており、その一部も再録した。『宇宙戦艦ヤマト』以降のアニメブームに対して、「アニメはメタモルフォーゼの面白さとパロディ精神が大切」という手塚の思いが垣間見える。
「『火の鳥』オルタナティブ」として収録したのは、手塚が手がけた外伝的な2作品である。『ブラック・ジャック』158話「不死鳥」(『週刊少年チャンピオン』1977年2月7日号)は、永遠の生命を得ようとして火の鳥を追い求める人間のおろかさを描いていて、火の鳥こそ出てこないが『火の鳥』の1作としてもおかしくない内容。手塚治虫は「『火の鳥』の中にはブラック・ジャック編も出てくる」と語っていた。
ミュージカル『火の鳥』は、全労済ホール/スペースゼロのこけら落とし公演として上演されたもので、手塚が舞台用のオリジナルストーリーを書いた。沖田浩之、五十嵐いづみらの出演で、手塚の亡くなる前日の1989年2月8日が初日。2月28日まで公演された。原稿用紙3枚に書かれているが、読みやすくするために見開きで収録している。
書誌情報はこちら≫手塚治虫『火の鳥 14』
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