【書評】第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作――『うたかたの娘』レビュー【本が好き!×カドブン】
カドブン meets 本が好き!
『うたかたの娘』レビュー【本が好き!×カドブン】
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、綿原 芹さんの『うたかたの娘』に決まりました。ありがとうございました。
よくできたオムニバスは、長編にもなり得るのだ。
レビュアー:小石ゆうべさん
美しい女性の顔が大きく描かれた表紙が特徴的だ。
左目の周囲に浮かぶ泡は、まるで魚のウロコのよう。
影が落ちた顔は能面のように感情を見せない。
細かな違和感の重なりが、この作品のすべてを暗示している。
本書は、人魚をモチーフにした四編からなるオムニバス形式のホラー小説だ。
どの物語にも、美しい女と醜い女、人間社会に潜むざらついた価値観、
そして言葉にできない湿った恐怖が横たわる。
『あぶくの娘』
行きずりの軽薄な男の一人語りから始まる、青春の断片。高校時代、彼はとある美しい少女と親しくなった。彼女はその容姿を誇示する、いわゆる“嫌な女”。顔立ちは抜群だが、性格は傲慢で友人もおらず、好意を寄せた相手にすら鬱陶しがられる。そんな少女との思い出を、今になって語る男の意図とは――。
『にんぎょにんぎょう』
語り手である藤野は、冴えない女性だ。容姿にも性格にも自信がなく、社内ではパワハラ上司に怯えながら日々を過ごしている。そんな彼女の前に現れるのが、美しく聡明な女性・茗荷谷。明るく、仕事ができ、周囲から慕われる完璧美人。だがその彼女が藤野に差し出したのは、“人を呪い殺せる人形”だった。
『へしむれる』
主人公の神田は、杏という冴えない女と付き合っている。俗に言う“美女”が苦手な神田にとって、杏は安心できる存在であり、愛すべき恋人だった。しかし、杏の嫉妬心はある日突然かたちを持つ。ひとりの女性を殺し、神田はその証拠隠滅に手を貸すことになる。ちょうどその頃、神田の勤務先である水族館では、魚介類に人間の耳や手足が生えるという奇妙な現象が広がり始めていた。
『鏡の穴』
時代は一千年前へと遡る。人魚の薄紅が、かつて漁村で暮らしていた日々を回想する物語だ。母である濃紅とは幼くして生き別れ、彼女は醜い少女・ナユとだけ心を通わせていた。十五歳になった薄紅は、盲目の青年・火丸に恋をする。やがて二人は村を出て旅に出ようと計画を立てるのだが――。
四編に共通して語られるのは、「美醜」そのものではない。
むしろ、人の心がどれほど残酷で、脆く、そして貪欲かという事実だ。
美しい女は幸福ではなく、醜い女が不幸とも限らない。
けれど社会は、常にその逆を前提に動いている。
それは現代でも、千年前でも変わらない。
文化が変わり、時代が変わり、語り口が変わっても、
人間の恐ろしさだけは、変わらない。
▼小石ゆうべさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no16108/index.html
書誌情報
書 名:うたかたの娘
著 者:綿原 芹
発売日:2025年10月01日
第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作
道に佇む不気味な人物をきっかけにしてナンパに成功した「僕」。相手の女性と雑談をするうちに故郷の話になる。そこは若狭のとある港町で、奇妙な人魚伝説があるのだ。そのまま「僕」は高校時代を思い出し、並外れた美しさで目立っていた水嶋という女子生徒のことを語る。彼女はある日、秘密を「僕」に明かした。「私、人魚かもしれん」幼い頃に〈何か〉の血を飲んだことで、大病が治り、さらには顔の造りが美しく変化したのだと――。
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