【連載コラム】新たな戦車プラモデルを組み上げつつ、有明『スモールワールズ東京』に行ってきた! 今野敏「ヤメろと言われても! Ⅱ」#49
今野敏「ヤメろと言われても! Ⅱ」

※本記事は連載コラムです。
新たに作り始めた戦車の組み上げは順調。執筆も忙しいなか訪問したのは……。
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やはり、ティーガーⅠは簡単に組み上がる。前回のテルミナトールとは大違いだ。なにせパーツ数が違う。
写真のとおり、苦もなく組み立ては進み、隙間や段差に、エポキシパテで修正を加える余裕まである。新型コロナの影響で、外出を控えているので、これはすぐに完成するのではないかと思っていたが、まあ物事そううまくはいかない。
本業の執筆が忙しいのだ。締め切りが次から次へやってきて、なかなか模型の作業台に向かう時間が取れない。
そうなると、プラモ作りの情熱も下がりがちなのだが、この間、モチベーションを高めてくれる出来事があった。
有明にできた『スモールワールズ東京』というテーマパークに招待されて、出かけてきた。八十分の一のスケールで、いろいろな世界が再現されている。
アポロ宇宙船の打ち上げ、関西空港、海外の街を模したコーナーなどがある。目玉は『新世紀エヴァンゲリオン』の第三新東京市と格納庫と、『セーラームーン』の世界。
もちろん、展示されているジオラマは見ていて楽しいが、私が一番惹き付けられたのが実際に模型やジオラマを作っている工房の作業台だった。
出来上がったモノのクオリティーは段違いだが、使っている道具は私のとそれほど違わない。やはり、問題は技術とセンスなのだ。わかっていたことだが、ショックを受けつつも、俄然やる気が湧いてきた、というわけだ。
プロたちの仕事は、見ていてとても参考になる。街並みや乗り物に施されたウェザリングはとても上品で効果的だ。
広大なスペースに作り込まれた街並みをしげしげと見つめ、なるほど、こういう方法があるのか、とか、この程度の汚しでいいんだ、とか考えていると、あっという間に時間が過ぎてしまった。
この施設には、百人ほどの造型師やモデラーが雇われているという。フィギュアブームも去り、造形物の海外への外注が増え、国内の造型師・プロモデラーの収入は激減している。
そういう人たちの収入の道を確保できるというだけで、『スモールワールズ』の存在価値はあると、私は思う。
興味のある方には、ぜひ足を運んでいただきたい。関空から飛行機が飛び立ったり、サターンロケットが打ち上げられるギミックは、なかなか見応えがある。
そして、さらに興味があれば、プロの作業台を眺めてみてほしい。日本の模型作りの技術は世界でトップクラスなのだ。その技術を衰退させてはいけないと思う。
私自身も、模型作りの技術をせっせと磨かなければならないと思う。それが何になるか、などと問うてはいけない。技術は磨くものなのだ。ただそれだけでいい。
写真=今野 敏
※「カドブンノベル」2020年10月号収録「ヤメろと言われても! Ⅱ」第49回より
◎つづきの第50回は「カドブンノベル」2020年11月号に掲載しております。