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試し読み

【試し読み】生涯不犯の軍神・上杉謙信には、妻がいた――武川佑『龍と謙信』冒頭を大ボリューム特別公開!

戦国大名・うえすぎけんしんと、その妻・たつを描いた歴史小説『龍と謙信』。武川佑さんの大藪賞受賞後第一作となる本作の刊行を記念して、物語の冒頭を特別公開します。

決して交わらぬはずの運命だった二人が、愛憎を超えて結んだ絆とはなんだったのか。
そしてなぜ、彼女は後世、いないことにされてしまったのか――。
史実を忠実に読み解き、最新資料を踏まえて描かれた物語の幕開けを、どうぞお楽しみください。

武川佑『龍と謙信』試し読み

 ぐちろく(のちのなおやましろのかみかねつぐいわく、
しきあんさま。うえすぎけんしんという名のほうが、世間にはぴんとくるかもしれませんなあ。とても風変わりな御方でございましたなあ。昼間っから浴びるほど酒を飲み、いちど頭に血がのぼるともうだめ。家臣はささーっと退散です。
 それがしは不識庵さまのおんしきを量るのが上手で、じいさまたちから重宝がられたもんです。激怒しても家臣を手打ちにしない、不殺ころさずなところが、ぶつどうに帰依したあのかたらしい。
 まあ、かいのうちおんじゆの戒律はついぞ守れませんでしたがね。
 ああ、あなたのほうがそのへん御詳しいでしたわ。義の武将などとおもしょいことをうそぶいておられましたな。
 あ、いや、御気を悪くなさいますな。
 あなたはあれでよかったと思いますか。なぜそんなことを聞くのかと。うえが『自分がじようさまに呪いをかけた』と悔いておったゆえです。
 あなたは、しんぞうさまのこともよく御存知でしょうし、いちど聞いてみたかったのです。
 御新造? はあ耳慣れない言葉でしたか。奥方のたつさまのことです。
 そうですなあ、おもしょい御二人でしたなあ。みなの思うような夫婦めおととは、ちと、いやだいぶ違うかもしれませぬのう」
 ふたを閉じるかたりという音とともに、あたりは暗くなる。
「ではこれからも、上杉をよろしゅう御頼み申す」


第一章 ちゅう 京への旅

ちゅうとうかい
他人のものを盗んではいけない。仏教五戒の一。

〇長尾景虎書状
対晴景、黒田和泉守年来慮外之刷連続之間、去秋此口へ打越、可加成敗分候之処、其身以異像之体、可遁他国之由、累歎之候間、任其旨、旧冬当地へ相移候処、無幾程逆心之企現形之条、即以御屋形様御意、黒田一類悉愈為生害候、依之、本庄方へ被成御書候、爰元之儀、定可為御満足、恐々謹言、
二月廿八日   長尾平三景虎(花押影)
小河右衛門佐殿
(上越市史 別編1 P4―五)



 ――「」が語る。
 雪囲いをした屋敷にも、師走しわすて風は吹きこんだ。火鉢の熱気は冷気とまじらぬまま、ながはるかげの打つ鼓の音を濁らせた。晴景御気に入りの旅芸人のわらべが、屏風びようぶを背に扇をひらめかせ、拙く舞っている。
 童は舞い終えると深く平伏し、退出した。
 舞を見物していたあなたは、ほっと息を吐く。
 鼓を袋にしまった晴景が、娘のあなたに笑みを向けた。
たつや。年が明ければそなたも十歳。わしと母上から贈り物があるぞ」
「なんでございましょう」
 ややこわった声であなたは言い、父母を見くらべる。丸い団子鼻に細い目。ふっくらした頬。難産のすえ、於龍と名づけられる子が生まれたとき。晴景はいつもの微笑のまま「なんだおなか」とだけ言った。優しい人だがときおり、笑ったままあきらめの言葉を吐くことがあった。
 母が玉手箱のような真新しいきり箱を開く。
「於龍や、これは我がうえすぎと、父上の長尾の長いえにしの品です」
 箱から取り出されたのは、大人の片手に納まるほどの大きさの、びなびなである。木を削った顔は白、髪や目を黒墨で描いた素朴な造りだった。ほう十二単じゆうにひとえきれで作られ、のりひもで木の体に留められている。箱の新しさと対照的に古ぼけて、男雛のは紐がなく、女雛は後ろに垂らすが失われていた。
 母はえち守護、上杉定実さださねの娘である。上杉家を補佐する守護代である長尾家の当代晴景に嫁いだ彼女は、父の定実と夫の晴景、どちらもがじちようして「わしは傀儡かいらいゆえ」と漏らすのを聞いてきた。当時の越後守護は晴景の父、長尾為景ためかげによって討たれ、彼女の父が擁立されたためだ。彼女と晴景の婚姻も為景が決めた政略結婚で、越後はすべてが長尾為景という男の思うがままだった。
「男雛は我が上杉家、女雛は長尾家に代々伝わったもので、私が長尾に嫁したことでもともと一対の物とわかり、そなたに授けようと晴景さまと話したのですよ。さるは人形遊びはせぬ」
 母は生まれたばかりのあなたの弟、嫡男ちやくなんの猿千代の名を誇らしげに口にする。あなたは黙してうなずいた。
「くたびれてはいるけれど、そなたが継ぐべきものです。私の幼いころも、この人形が友だったのですよ」
 於龍と名づけられたあなたは、上杉と長尾、両方の嫡流の血を引く位の高い娘だ。
 まだ九つのあなたの小さな手では、人形は片方しか手に取れない。どちらを手にするかあなたは迷った。ほんとうは袍に烏帽子、立派な太刀をいた男雛が好きだとあなたは思ったけれど、やはり父を立てたほうがよいとも考えた。
 あなたは長尾家に伝来した女雛を取り、うかがうように小さな声で言う。
れい
 母は鼻を鳴らし、我が子へ唇だけの笑みを送った。
「あなたは綺麗な衣も貝あわせも興味を持たぬから、心配していたのですよ。十二単の衣が古びて汚いわね。いい裂を探して新調しましょう」
 父はあからさまに喜んだ。
「於龍は無口だからのう。いずれ好きなものもわかろうて」
 主君を討つ下克上をなし、近隣に恐れられ、隠居してなお国主然としていた為景は、七年前に逝った。晴景が跡を継ぎ、ようやく越後に平穏が訪れるかに思われた。
 障子の外できぬれの音がした。きんじゆが障子を開け、晴景に耳打ちする。晴景はまゆを深く刻み、立ちあがった。
「すこし外す。於龍、母さまと遊んでおれ」
 晴景が出ていくときに吹きこんだ風で室内は底冷えし、外の音がよく聞こえた。あなたは耳を澄ました。馬の鼻息、雪を踏みしめるそくの音、人のざわめき。
 四半とき(三十分)しても音は止まぬばかりか、ときおり男の大声が聞こえてきた。
 女雛を抱いたまま、あなたは立つ。母も静かに障子に手をかけた。なにかただならぬことが起きている。母子二人は身を寄せ、足音を忍ばせて屋敷の表に回った。
 凍て風が鋭く鳴り、粉雪が踊る。
 あなたの目に飛びこんできたのは、馬場にひざを突く五十人ばかりの男たちだった。
 肩や頭に雪が積もり、長いあいだ雪中を歩いてきたのだと知れた。最前列にまだ少年とも言える小柄な子がいて、あなたの目は吸い寄せられる。
 少年は、黒い羽織の下に黒い腹巻を着こんだ具足姿だった。横には青ざめた男の首が置かれていた。
 雪に、点々と血がみている。
 黒々とした少年の切れ長の目が、あなたを見る。よく通る甲高い声で言った。
はつに。長尾平三景虎へいぞうかげとら、先代為景さまの末男すえのこにございます。血筋は龍姫たつひめさまのにあたりまするが、ばらにて。これより逆臣・くろ和泉守いずみのかみの首をみじように検分いただき、進退をはかり申す。こは平三の一存にあらず、越後国衆くにしゆうの総意にて候」
 あなたはなにが起きているかわからず、名を繰り返した。
「平三景虎――」
 家臣に「御城」と呼ばれる晴景の、腹違いの弟。於龍にとって叔父にあたる少年は頷いた。
それがしの名にて。虎と御呼びくだされ、龍姫さま」
 父の晴景が、強張った顔で振り返る。父の脇に控えていた童が首を隠すようにさっと動き、あなたと母にささやきかけた。
女人によにんのいらっしゃるところにあらず、みずちが御連れ申します」
 さきほど舞を舞った童だ。南蛮なんばん人の血が混じっているらしく、栗色の髪は女のように垂れ髪を結って、白い肌、目は青緑がかっていた。
 蛟に手を取られ、母子は屋敷の奥へ戻された。母がどっと膝を突く。
「なにが起きている。晴景さまの進退を諮るとは、謀反じゃ」
 注意深く表を窺い、蛟という童が戸を閉める。
「謀反といえど家中ほとんどの臣は景虎さまについたかと。重臣の直江さま、本庄ほんじようさま、奉行のおおくまさまもおられました」
妾腹しようふくの末弟が、長兄にそむくなどあってはならぬ。私は守護の娘ぞ。ち、父上に文を書く」
 蛟が沈痛な顔で首を振った。
「風聞にございますが、守護の上杉定実さまも、景虎さまを支持しておられるとのこと」
 けたたましく具足が鳴り、屋敷に人が踏み入ってくる。晴景が当主の座から「降りた」、つまり景虎たちの要求をんだ。
「父上までも! 私を見捨て申したか」
 金切り声をあげ、母はあなたの手をつかんで引き倒した。板間にたたきつけられ、あなたは驚きと痛みに母を見あげた。
 目を血走らせた「女」が白い手を伸ばす。
かたさま、な、なにを」
「黙れろうっ、私は越後守護、上杉の娘なるぞ」
 一喝された蛟が平伏する。助けはないのだとあなたは悟った。荒々しく衣を脱がされ、髪を摑まれた。手に守刀もりがたなを握った母の、うわずった声がする。
「お主は今日から男、晴景の嫡男になれ。平三景虎など認めぬ。平三景虎を討て」
「ははうえ、痛い」
「長尾など格下に嫁ぎとうなかった。長尾なぞ、長尾なぞただの地侍じざむらいにすぎぬ。我が上杉なくば百姓どうぜんの分限ぶんげんのくせに!」
 摑まれた髪はいくらか根元から抜け落ちた。あなたの悲鳴に耳も貸さず、母はざくざくと髪をそぎ落とす。涙でにじむ目で見あげると、薄笑みを浮かべた女の顔があった。
「安心せよ、猿千代が元服するまでの名代みようだいゆえ。お主はいわば人形ゆえ」
「私は、人形」
 あなたの頬を髪にまみれた両手で摑み、女は顔を寄せる。低い声に、あなたの体は硬直する。
「よいか、男など柔順なふりをしててのひらで転がせばいい。母がうまくやるゆえ、お主は景虎を討て」
 髪を切られ、まげを結い、母の用意したそではかまを着ける。あなたはただ受け入れた。
 ほかにどんな道があった?



 五年が経った。
 於龍は十四歳、平三景虎は二十四歳になった。
 病がちだった父の晴景が肺病で死んだ。それから六日経った天文てんぶん二十二年(一五五三)二月の冷えこんだ晩だった。
 こくの於龍の屋敷に、兵が土足で乗りこんできた。
「龍姫さま。じようじよう十郎じゆうろうどの、じまどのを抱きこんで謀反のとがあり、誅罰ちゆうばついたす」
 於龍の前に、見あげるような大男が立ちふさがる。頬骨から耳にかけて五寸(約十五センチ)あまりの刀傷がはしり、鼻の右半分はつぶれていた。おびえる侍女をさがらせ、於龍は胡坐あぐらのまま大男を見あげた。りあげて女でも持てるよう刀身を短くした太刀は、脇に置いてある。いつでも抜ける。
 於龍の声はいつも、よく通った。
「愚か者ッ、太刀を抜く相手が違うぞ! 私を誰と思うておる。越後守護上杉家の血を引く、長尾の嫡流ぞ。とらせんこそ長尾を乗っ取ったのだ」
 於龍は「平三景虎」ではなく、幼名のとらにかけ、「虎千」と呼んでいる。長尾の家長かちようとして認めないという意思の表れだ。
 考えてきた文言以外は口下手らしい大男は、うう、と口をもごもご動かした。
「い、いまのみじようは景虎さまだ」
「お主は山賊まがいのことをしていたときに、虎千に取り立てられたそうだな。簒奪さんだつ者と山賊、似あいの主従じゃの」
「う、うるさい、女子が偉そうに! おれは御実城の恩に報いるんだっ」
 長尾の家督を父から奪った景虎は、自身を「御実城」と呼ばせている。
 長尾為景の次男に生まれた景虎は、七つのときにこくにちかい曹洞宗のりんせんに預けられた。生母は正妻ではなく、格のさがる別妻べつさいであるから、なにごともなければ僧として生きるはずだった。景虎が還俗げんぞくしたのは、父為景が没し、長兄の晴景をたすけるためと聞いている。白装束の下に質素な黒い甲冑かつちゆうを着こんで、父の葬儀に参列した若い景虎の姿は、おおくの家臣らの涙を誘ったそうだ。於龍が二歳のときである。
 国府から離れたしな川の流域国中くになか中越ちゆうえつ)のとち城に入り、独立心の強い越後の国衆ににらみをきかせる、はずだった。
 あとは於龍が九つのときに見たとおりだ。晴景の腹心であった黒田和泉守および一族を家中専横の咎で皆殺しにし、晴景にその首を突きつけて進退を迫り、家督を奪った。
 それから五年。母によって男とった於龍は、一日千回、剣の素振りをした。景虎に不信を抱く臣に声を掛け、父の初七日をもって決起するはずだった。
 だが、事前に決起は漏れた。
「一番の不義者は、虎千ではないか。兄から家督を奪うなど孝悌こうていもとる行い、一体誰が褒めよう」
「う、ううるさい、御実城は軍神ぐんしんなんじゃ」
 じまろうが太刀に手をかけ鯉口こいぐちを切ったとき、香の薫りとともに細い人影がするりと部屋に入ってきた。変声期の甘やかさとれ声が重なるような、聞きなれた声が言う。
「木島どの、口じゃかないませんよ。なんてったって、毎日千回素振りをやって、ろんなど四書五経、そん白氏文集はくしもんじゆう文選もんぜんまで五年で読みつくした人なんだから」
 於龍の一つ年上である旅芸人の少年。寒さで肌の白さが際だち、頬は上気していた。栗色の髪を結いあげ、紅梅と白練しろねりの片身がわりの小袖を着ている。
 思わず於龍は目を見開いた。
「蛟、お前――」
「龍姫さまごめんなさいねえ」紅を差した唇を、蛟はほころばせた。「あたしは芸人だけど、のきざるという長尾お抱えの忍びでもあるの。謀反をしらせたのはあたし」
「裏切ったのか」
「主は長尾家ですもの。もとからあなた一人についたつもりはございません。ねえ龍姫さま。女のくせに男のなりをして、臣がほんとうについてくると思いました?」
「…………」
 蛟の笑みがゆがんでいく。
「弟の猿千代さまも、ぽっくり死んじゃいましたしねえ。諦めて姫に戻り、どこぞに嫁に行けばよかったのに」
 景虎を追い払ったのち、正嫡としてえるつもりだった弟の猿千代が、熱病をこじらせてあっけなく死んだのは、三年前。まだ六つだった。
 母は息子の死から目を背け、計画は変わらなかった。於龍は、母をいさめられなかった。口にすれば厳しい折檻せつかんが待っている。あまたの疑問に目をつむり、於龍は今日という日を迎えた。
「龍姫さまのければ、助平心で寄る者もいたかもしれませんけどね、丸顔に団子鼻のおとこおんなに誰がなびくかっての。ははともども御笑いぐさだわ」
 言うと、蛟は引きずってきた女を放りだした。殴打され顔をらした於龍の母が、髪を乱し倒れこむ。
「母上。ひどい、こんなことが許されると思うな」
 駆け寄り母を助け起こそうとすると、手を払われた。母はうつろな声で蛟に訴える。
「謀反は……於龍のたくらみじゃ。私は関係ない」
 くすくすと蛟が笑う。
「だそうですよ、龍姫さま」
 於龍の体はすっと冷えた。五年間すべて母の言うとおりにした。病で弱った父には会う必要がないと言われたからそうした。優しい父に会えないのは悲しかったが、家のためだと言われれば反論のしようがない。女言葉をしやべるなと言われた。四書五経を暗記した。まめが潰れて血を流しつつ素振りをした。膨らむ胸をさらしで押さえつけ、母に渡された月経が止まる煎じ薬を飲んで、床でもんどりうっておうしても耐えた。
 母が機嫌よくいてくれたら、それでよかった。
「そう、ですか。母上は無関係ですよね。謀反は私一人の企て」
 太刀に手を伸ばす。どかと胡坐をかき、左手で着物のえりあわせをかっぴらく。晒を巻いた胸を見て、木島という大男が慌てて目をそらし、蛟が口に手を当てる。
「責を負い自害する」
 そのとき、男が怒鳴りこんできた。みな、ぎょっとその男を見た。
「だちかん! だすけ殺しちゃならんと言ったがね!」
 地言葉丸出しの甲高い声。五尺一寸(約一五五センチメートル)の中背に、紺のおうを着ている。まげ髪は、烏帽子は蒸れるから嫌いだといってかぶっているのを見たことがない。肩幅は広く、頑強な体つきの上に、丸顔が乗っている。髪もひげも濃いからっているのか抜いているのか知らないが、青っぽいあごをして、田舎庄屋といった風体ふうていだ。
 これがいまの平三景虎だ。父の臨終の場で久しぶりに会ったが、家督を退くよう雪中押しかけたときの鋭さはまったくなく、「これがら長尾とわしはどしょば、あんにやぁ」と腹違いの兄にすがり泣きわめいていた。父は弟の肩を優しくで、あつにとられる於龍にも目を向けた。
「於龍よ。そんな形をさせて、すまぬ」
「いえ……」
「景虎を、憎まないでやってくれ」
 それが父の最期の言葉となった。
「なにしちょるが! みな出ろ、出ろ!」
 景虎の声で於龍は我に返る。戸惑う木島という大男、蛟や母を追いだし、景虎は戸をぴしゃりと閉めた。於龍の薄い腹を凝視し、太い眉をりあげる。
「腹のあざはなんね、真っ黒や」
「…………」
上に折檻されたのじゃろ。一度や二度ではあるまい」
 数度深く息を吸い、於龍はかすれ声で答えた。
「お前に言うことはない」
 細い吊り目を見開き、景虎のこめかみに青筋が浮く。
「お主は殺さぬ」
「女だからと手心を加えられたくない」
「違う!」怒鳴り声を発し、恥じたように景虎は溜息ためいきをついた。「謀反の首魁しゆかいはお主ではない。義姉上、つまりお主の母君じゃ。お主はただの操り人形。んなこた、わかっちょる」
 於龍は小刻みに震えはじめ、手元の太刀が鳴る。それを見た景虎は、穏やかに言った。
「もうええじゃ。まいじゃ。お主は人形をめえ。義姉上には落飾らくしよくし尼寺に退いていただく。命まではとらぬすけ、安心せい」
ようか」
 不思議と悔しい気持ちはなく、胸がすっとした。於龍がさっと太刀を抜きやいばを腹に向けたとたん、景虎が電光石火の早業はやわざで太刀を摑んだ。手にふくを挟んでいたが物すごい力で、袱紗に血がにじむ。一寸でもつかを動かせば、指が落ちかねない。それでも景虎は平然としていた。
「お前、潔くてい。上の臨終のときも思ったら。動転し、泣き喚いたおれとは比べ物になんね」
 袱紗に血の染みが広がるのを、於龍は凝視した。
「お前、指が」
「だーすけ、だめらて。まったくいちがいこきは誰に似たんら」
 於龍の力が緩んだ隙に、景虎はさっと太刀を取りあげた。早業だった。太刀を背に隠し、引きつった笑みを浮かべる。
「於龍、秋にわしと上洛じようらくしよてばさ」
「……は?」
「行こ! きようは将軍がおわす。面白きものもさんざあるすけ」
 なにを言っているのか理解できず、於龍は目を白黒させた。

 いつのまにか母は幾人かの侍女とともに屋敷から姿を消し、屋敷には於龍一人になった。寝所の外には武装した兵が数人詰めて、出ることもできない。
 夜、つめたい床のなかで於龍は「少納言しようなごんきみ」にすべてを打ち明けた。りし日に父母から贈られた女雛をそう名づけ、於龍は毎晩枕元に置いて寝た。一緒に贈られた男雛は、景虎の兵が屋敷に踏みこんできたときに、行方がわからなくなっていた。誰かが値打ち物とみて持ち去ったのかもしれない。
 掻巻かいまきのなかだけが、誰にも邪魔されない唯一の空間だった。
 薄汚れても微笑みつづける少納言の君の顔を、於龍はそっと撫でる。母が衣を裂で新調しましょうね、と言った約束は果たされぬまま、金糸の刺繍ししゆうはすり切れてしまった。
「聞いて少納言、父上も母上もいなくなった。これから私はどうなってしまうの。でも、なぜか――怖くはないの」




 謀反の発覚と、父・晴景の死から七月ななつき後の長月ながつき九月。
 於龍は京へ向かう船に乗りこもうとしている。
 思えば越後の国を出るのも、それ以前に国府一里(約四キロ)四方から離れるのも初めてだ。だのに、心は凍てついてなにも感じない。
 上洛の目的は、将軍・足利義藤あしかがよしふじ(のち義輝よしてる)に謁見することと、父・晴景のはいを京の寺に納めること。将軍さまに謁見するのは景虎で、位牌のほうが於龍の役目だ。
 国府とほぼ隣接したなおえのを出港するとき、おおくの臣が見送りに来た。
 留守居役を務める白髪まじりの臣が於龍にちかづいてくる。雪中景虎とともに晴景に引退を迫った重臣「直江、本庄、大熊」の一人、栃尾城主・本庄美作守みまさかのかみさねよりだった。還俗げんぞくした景虎がはじめて入った国中のの城主でいわば後ろ盾。腹心中の腹心だ。
 いつものあいの小袖、灰鼠はいねずの袴に髷の男形の於龍を見て、本庄実乃ははくをさげた。
「半年も御屋敷にとどめ置きましたこと、他方に諸事ありせんかたないことといえ、び申す」
 謀反の責を負う「蟄居ちつきよ」という名の幽閉は、半年にわたった。内応者を調べるためと表向きにはなっているが、母と長尾分家の枇杷島何某なにがしのほかに咎めを受けた者はいない。「他方に諸事あり」とは、謀反騒動以外にも事情があったらしい。
 於龍のもとを、晴景の同腹の妹にあたるももと、その婿で自身も長尾分家筋にあたる政景まさかげが二、三度訪ね励ましてくれた。一見大人しげながら大胆なは、謀反を企てた於龍の胆力を褒めた。
「景虎は見てのとおり思慮が足りぬのです。さかしいお主と足して割ればよかったのに」
 細面で神経質そうな叔父の政景が「お前、いくらなんでもそれは」と言いよどむと、叔母は胸を張った。
「お主は、私たちがかならず助けます。お主は長尾に必要じゃ」
 政景は「私たちとは、わしも勘定に入っておるのか」と不安げにしていた。
 厚情に感謝しつつ、於龍は叔母夫婦の好意の源がわからず、いぶかる気持ちもまたあった。幽閉が解けて人前に出ると家臣の視線が痛かった。於龍が男の格好のままでいることを、ある臣は「勘違いをした女子だ」とあざけり、別の臣は「女の楽しみを思いださせてやらねば」とにやついた。
 本庄実乃はそれらのどれとも違い、於龍に深く頭をさげた。
「もう、龍姫さまの好きな衣を召されてよいのですよ。京で上等な反物を求めるのもようございましょう。於桃さまからは新たな打掛と小袖を贈られたそうで」
「…………」
 無言で睨み返すと、実乃は額をいた。
「差し出がましいことを申しました。御無礼を」
 二人の横を、景虎のあしの馬がくら毛氈もうせん鞍覆くらおおいをかけ、船に乗りこんでゆく。白い傘袋かさぶくろをかけた一丈(約三メートル)もの大傘も船に積まれた。毛氈鞍覆、白傘袋、どちらも守護の身分に許された特権で、守護代の長尾氏にはほんらい許されない。ただ、守護の上杉定実は三年前、跡継ぎなく死去した。守護不在となったため、守護代である長尾が守護「相当」として御免状ごめんじようを受け、一時的な措置とはいえ、累代が得たことのないじゆ弾正少弼だんじようしようひつの官位に任ぜられた。
 長尾は「守護同格」だと将軍の公認を得たことになる。
 於龍は馬と傘をじっと見据え、ようやく口を開いた。
「御免状と官位を頂戴するのに、どれだけきんを積んだ」
 実乃は額を打った。
「またまた御無礼を。母君に担がれた哀れな姫君と、それがしは龍姫さまを見誤っておったようです。四書五経を修めたというのはまことのようで。いやあ、景虎さまに爪のあかを煎じて飲ませたい。あの御方は兵法書すらもつまらぬと途中で読み捨てる始末で」
 早口で言って、実乃は軽く肩をすくめる。
「年寄りは口ばかり回って。御許しくだされ。出立前にひとつ御耳に入れたく」
 軍神とあだされる将が、兵法書をろくに読まないとは奇妙なことだ。於龍はそちらも気になったが、つぎを促した。この老臣はなにかを知っている。
「申せ」
「『』は御謀反発覚のおり、龍姫さまを片づけるべき、と申しました」
「ほう。つづけよ」
 実乃のじりをさげた柔和な笑みは、動かない。幽閉が半年もの長きに及んだのは、彼ら重臣がなかなか首を縦に振らなかったからかもしれない、と於龍は考えた。
「龍姫さまがおのであれば、越後はいまごろ景虎さま派と龍姫さま派で真っ二つ、内訌ないこうとなっておったでしょう。龍姫さまは非常に血筋の格がたこうございますゆえに。残しておいては誰かが担ぎ、のちのち争いの種になるやも。しかし、『決して殺してはならぬ』とおつしやったのは、ほかならぬ景虎さまにて候」
「某、とは誰か。お主、大熊備前守びぜんのかみ、あとは――直江大和守やまとのかみか。某どもと同格の言い方をするならば、長尾一門、たとえば政景叔父上の了承はなかったと見ゆる」
 実乃は背を伸ばし、声をひそめた。
「いやはや、恐れ入り申す。みな、国がふたたび乱るるを恐れておるゆえ」
さまのころのような乱国は、こりごりだと申すか」
 実乃は素直に認めた。
「さようにございますなあ……」
 祖父の長尾弾正衛門尉えもんのじよう 為景は、自らを討とうとした越後守護を返り討ちにし、あらたな守護に上杉定実をたてた。越後上杉氏の本家である武蔵むさし国の山内やまのうち上杉氏がこれに激怒し越後へ出兵、国中は身内が敵味方にわかれる戦乱がつづいた。おおくが死に、潰れた家もある。
「某を恨む気持ちはそのままで結構、なれど、どうか景虎さまを御恨みくださいますな」
「みなそう言う」
 父もおなじことを言っていた。みななぜ景虎をかばう。於龍が背を向けると、実乃は思いだしたように手を打った。
「黒田を族滅せよと決したのは、あなたさまの父上、晴景さまにございますぞ」
 於龍は足を止めた。
 艀船はしけぶねから主船へ荷を積むたちの威勢のいい声。
 荷を狙う海鳥たちの鳴き声と羽音。
「黒田和泉守の専横せんおうには、晴景さまも頭を痛めておられました。御自分では黒田を排除する御力なきがゆえ、晴景さまは弟に手を汚させた。黒田を増長させた責は、晴景さまにあり。守護の上杉定実さまも、晴景さまは責を負うべしと申された」
 於龍の両腕はだらりと垂れた。
 ――ああ、父上が「景虎を憎まないでくれ」と仰ったのは、こういうことだったのか。
 於龍は唇をきつくんだ。母が景虎を憎んだのは筋違いだった。自分に景虎を討てと命じたのも。男たちが決めたことを、女は何も知らされていなかった。
 なんのために手の皮が裂けても木刀を振り、月経を止める薬を飲み、耐えつづけたのだろう。
「左様か」
「御実城着到ちやくとうよし」との声に、集まっていた家臣たちが当主を迎えるべく列を作る。
「景虎は、命に従っただけと申すか」
 うれしそうに実乃は微笑み、頭をさげた。
「道中見聞を広めてくだされ。さすれば、景虎さまのまことり、姫さまのもくふさぐ霧も晴れ、京ですこやかに御過ごしあそばされましょうや」
 家臣団の列に戻ってゆく実乃の背中に、於龍はくそくらえとつぶやく。
「道中すこしでも景虎が隙を見せれば、寝首を掻いてやろうぞ」
 腰にいた摺りあげの太刀のこしらえに、手をる。
 凍りついた心がわずかでも動くのは、景虎への害意を募らせるときだけだ。於龍は己に言い聞かせる。
 長尾の嫡男の長子で、上役の上杉の血を引くのは誰だ。そうとも自分だ。私は長尾家中もっとも格が高い。妾腹の末弟ごときをのさばらせるわけにはいかない。
 心のなかで繰り返し呟く。

 直江津を出た二そうの船は、いとがわせのうおに寄り、をぐるりと回って越前朝倉えちぜんあさくら家が支配する三国湊みくにみなとに停泊した。その後はつるから上陸し、湖を経由し京に入る算段だ。隣国の越中えつちゆう一向いつこう宗、畠山はたけやま氏が長尾と敵対関係にあって陸路が通行不可能なため、海路がとられた。敦賀湊を有する朝倉家の朝倉宗滴そうてきとは、贈答をかわす昵懇じつこんの仲である。
 二艘立てのうち、さきを行く大きな一艘には、領国内の通行許可を示す朝倉家のしよと紺に朱丸の旗が靡いている。あちらには長尾景虎が乗って、笛の音すら聞こえてくる。
「物見遊山気取りか」
 船のさきがぐっと持ちあがり、於龍の体が浮く。能登の半島を過ぎたところで、西風が強くなった。海原は果てがかすんでだだっ広く、まるで空を飛ぶかのようだ。
 首からさげた御守りを、於龍は無意識に摑んだ。母が手ずから縫ったかすみ文様の袋には、水晶の数珠が入っている。
 景虎は義姉にあたる於龍の母をほんとうに尼寺に入れ、不自由ない暮らしをさせているらしい。この御守りも長々とした文とともに届けられた。謀反露見のときに「自分は無関係だ」としらを切ったことは都合よく忘れたようで、長尾に対する恨みつらみが長々と書かれていた。於龍は途中で読むのをやめ、ばこにしまった。
 のんびりとした声がともかたからかかる。
によればすこし荒れるようです、波にさらわれますよ」
 振り返ると、蛟が帆柱に摑まっていた。京に行くと張り切ってげつぱくに黒の流水紋の入った派手な女小袖を着ている。謀反露見のあとも、於龍の見張り役兼世話役につけられたらしく、勝手についてくる。
「この蛟が憎らしいでしょう。でも謝りませんからね。あたしは御家の命に従っただけ」
 於龍が黙っていると、蛟は整えた眉をひそめた。
「ねえ、そのしん臭い男袴いつまで穿いてるんです。意地になってるんですか。もう龍姫さまは姫に戻っていいんですよ。於桃さまに贈られた衣のこうも、開けもしないし。ちゃんと積みこんでありますよ。ね、開けて見てみましょうよ、きっと上物じようものですよ」
 男形は母にいられたものだが、その前からずっと男雛のような太刀を佩き、袴を穿く姿に憧れがあった。幽閉中、女小袖に一度袖を通してはみたが、むずがゆく、居心地が悪くてすぐに脱いでしまった。足にまとわりつき、馬鹿みたいによちよちとまたで歩かなくてはならないのが、単純に不便で嫌だった。
 それをうまく他人に説明し、理解してもらえるとは思えなかった。
 蛟に強引に手を引かれ、艫屋形に入る。後方に積まれた荷から行李を降ろして、蛟は喜色満面で蓋を開いた。
「わあっ。金糸の刺繍ですよ。手がこんでますねえ、いいなあ」
 打掛は薄桃色の唐草文様の地紋が織り出された正絹しようけんで、縁起のいい竹と松が刺繍され、金糸で小花が散らされている。小袖は当世風の染めわけ。武家の、それも格の高い女のための衣だ。うっとりと溜息をつく蛟の横で、於龍は足から力が抜け座りこんだ。
「龍姫さま?」
「これは、嫁入り用の衣だ」
 上洛は、京へ於龍を嫁に出すことが目的の一つなのだ、とようやく気づいた。出航前、本庄実乃が「京で健やかに」とまるで越後に帰国しないかのような口ぶりだったのも、納得がいく。家中みな承知だったのだ。
 藍の小袖のたもとを握りしめ、於龍は打掛を凝視した。母が自分を男に仕立てて使おうとしたのとおなじくこんどは女に仕立てられ、京との足がかりづくりに使われる。
「やだ、御顔が真っ青ですよ。酔いましたか」
 のぞきこんでくる蛟の顔がぼやけている。己の体を両腕で抱き、於龍は掠れ声で言った。
「これが……いいんだ。これじゃなきゃ嫌だ」
 腹がちくちくと痛んできた。母に飲まされた怪しい薬を飲まなくなって半年、月経が戻ってきたらしい。蛟の溜息が聞こえる。
「真に龍姫さまがそう思ってるなら、蛟はもう言いません。けどね。『角のない牛』と言われ朝から晩まで働き、子を産んでせ衰えて死ぬ女が、うきの大半だということを御忘れなく」
 百姓の女には百姓の女のしんがあろう。だが自分の苦しさもまた、ある。苦しさはで比べるものではない、と言いたかったが血の気が引いて言えなかった。
「畜生」
 嫁ぐなど絶対にいやだ、と腹の鈍痛に脂汗を浮かべ、於龍は思う。子を産み、むちで殴る母にはなりたくない。そうなってしまわぬ自信がない。
 女ゆえに元服もできない。於龍はもはや子供でもなく、かといって大人でもなかった。
 ――波にさらわれたい。船が沈めばいい。
 揺れる艫屋形で体を抱きしめ、於龍は一人うずくまる。「あれ姫さまに月のものが……大変」と慌てる侍女の声を遠くに聞いた。飽きたのか、蛟の気配はちかくにはもうなかった。

 一日、三国湊で嵐をやり過ごし、出航。敦賀湊へ入船後、すぐに陸路の峠越えとなった。
 古くは愛発あらちごえといわれる七里半の難所があったが、女の於龍がいるため、より標高の低いふかさか峠を越える道がとられた。用意された輿こしは拒否し、於龍は馬に乗った。蛟は「とんだいちがいこきだわ」とあきれた。
 抜けるような秋晴れ、栃やほおの葉が陽に照り落ちる。荷車を押す「よーいせ、よい」という牛飼いのかけ声、馬のいななき。念仏を唱えゆく遍歴僧、やりを担いだ足軽、琵琶を背負った遊び。あらゆるものが京を目指していた。
 二十間(約三十六メートル)ほどさき、長尾の行列の先頭で、房飾りのついた白い傘袋が揺れている。あのもとに景虎がいるが、上り坂でも白い行者きんがちらりと見えるだけだ。
「長尾弾正少弼どのの御成である、道を開けよ」
 先触れの声に、白い真新しい行衣ぎようえをかけた五人ばかりの修験者が、道の端に寄る。四人は髭をたくわえた大人だが、みな髭が整って、修験者にしては色も白い。毛並みの美しい河原毛の馬をいているのが目を引いた。額の白い星模様に覚えがあるような気がした。
 修験者さいごの一人は十七、八の青年だった。朱漆塗のさやの太刀を佩いている。整えた眉の下の大きな目が、於龍が通り過ぎるときまたたいた。
 蛟が小走りでやってきて、馬上の於龍へ伸びあがる。ほかに見知った年ごろの者もおらず退屈なのか、裏切りなど気にとめていないのか、しょっちゅう話しかけてくるのがわずらわしい。けれど月経の痛みや体のだるさが紛れるのも確かだった。
「ねえ龍姫さま、さっきの美男見ました? いい身分の武家さまが変装していたりして」
 青年の修験者のことだろう。美男かどうかは見る人によると思うが、たしかに山野を修行場とする荒者あらものにしてはこざっぱりとしていた。
しゆが身をやつすなど、けいの読みすぎでは? 馬が上品じようぼんなほうが気になったが」
「んもう、張りあいがない」
 そのとき、後方で「無礼者」と怒声があがった。振り返れば、さきほどの修験者を追い越そうとした魚売りの女の一人が木の根に足を取られて転び、背負った桐箱を道にぶちまけていた。銀色、桜色さまざまな魚が転がり、潮の濃い匂いがたつ。桐箱の一つが例の青年修験者にぶつかりでもしたのだろう、ほかの男たちが転んだ女をった。
 知らずのうちに、於龍は腹を押さえていた。懐には袋に入れた女雛「少納言の君」をひっそりと隠し持っている。
 それに気づかず、蛟が眉をひそめた。
「蛟はうすのろが嫌いです、いい気味だ」
 魚売りの親方がすっ飛んできて、転んだ女にべんを振りあげる。
「売り物を駄目にしたうえに、人様に迷惑かけやがってこのっ」
 於龍の口が動いた。
「やめよ」

(気になる続きは本書でお楽しみください)

作品紹介



書 名:龍と謙信
著 者:武川 佑
発売日:2025年07月02日

大藪春彦賞受賞後第一作、謙信の妻を描く、初の歴史小説!
上杉謙信と、その妻・於龍
「奇妙(クィア)」なふたりは
憎悪も、愛情も、超えてゆく!

「抗え、戦え、歩みを止めるな。
かつても今も在り続ける魂の叫びに寄り添う物語」
澤田瞳子、推薦


父から越後守護代を奪った長尾景虎(後の上杉謙信)への復讐のため、母から“女”を捨てさせられた於龍。彼女は景虎を激しく憎むが、当人はどこ吹く風で、於龍のことを「面白(おもしょ)い奴」と気に入ってしまう。長尾の重臣たちが二人の婚姻を越後支配のために利用する一方で、甲斐の武田晴信(後の信玄)は隣国侵攻の調略を始めようとしていた――。史料を丹念に読み解き最新研究を踏まえ、生涯独身と言われてきた上杉謙信と、その妻の半生を鮮やかに描く。

謙信の妻・於龍は、どんな女性だったのか?

そしてなぜ、歴史の陰に消えたのか?

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322409000975/
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