
【インタビュー】作家・坂木司が選ぶ 私のおすすめミステリ 第10回
作家が選ぶ 私のおすすめミステリ

手に汗握る衝撃的な展開やドキドキの伏線回収など、数多くの人気作品が生まれる“ミステリ”ジャンル。そんな作品を生み出している作家の皆さんは、かつてどんな作品に出合い、そしてどのように自身の物語を生み出しているのだろうか?
今回は2025年2月25日に『楽園ジューシー』が文庫化された作家・坂木司さんに、おすすめのミステリ作品を伺いました!
現役作家が語るおすすめミステリという、カドブンならではの貴重なインタビューです!
――坂木さんおすすめのミステリ作品と、それぞれおすすめの理由も教えてください!
1:『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン:著 直良和美:訳(創元推理文庫)
私はあまり本を所蔵したり読み返すタイプではないのですが、どうしても手元に置いておきたくなった本もあります。ミステリだと『ピアノ・ソナタ』がそれに当たります。シリーズ物の二作目ですが、折にふれ手に取るのはこの一冊だけ。そして今となっては、この本を思い出すだけで初秋の冷たい空気と流れるピアノの音、寂しげなあの人の横顔が蘇るのです。美しく哀しく、人のどうしようもなさが詰まった素晴らしい作品だと思います。
2:『六の宮の姫君』北村薫(創元推理文庫)
また、『六の宮の姫君』には、「こういうミステリもありなんだ!」と背中を押してもらった気がするので、やはり大切に持っています。
――素敵な作品をご紹介いただきありがとうございます!
坂木さんが作家になることを決めたきっかけ、またミステリ作品を書くようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
小さい頃は漫画家になりたいと思っていましたが、高校くらいでやはり絵の才能がないと感じ、大学で友人に勧められてお話を書きはじめました。それがミステリというジャンルになっていったのは、北村薫さんの影響が大きいと思います。それまでにも島田荘司さんや有栖川有栖さんをはじめとするミステリ作品を楽しく読んではいたのですが、それをさらに文学的にして、読みやすくしてくれたのが『空飛ぶ馬』や『六の宮の姫君』といった北村作品でした。
――北村さんの作品との出合いから、坂木さんのミステリ小説が始まったんですね!
ミステリ作品を執筆されるうえで、こだわりや意識されている点はございますか。
ミステリを書くうえで、というより作品を書くうえで気にしているのは「その人がどんな人か」です。行動が謎に結びつくタイプのお話が多いので、それがそのキャラクターにとって自然な行動であるか、というのはお話を読むうえでのささくれをなめしていくようなものだと思っています。読んでいる間、引っかかりを感じずにするすると読んでいただければ嬉しいなと。
――キャラクターのきめ細やかな描写が行動の納得感に繋がり、坂木さん作品の魅力的な登場人物に繋がっているんですね。
今回文庫化された『楽園ジューシー』について、着想のきっかけと読みどころをお伺いできましたら幸いです。
きっかけは二つあります。一つ目は前作が存在していたこと。二つ目は、前作よりずいぶんと世界の有り様が変わったことです。ネット以前とネット以後と言ってもいいかもしれません。人種や性別、年齢など個人ではどうすることもできないことに対して言及するのはよくないといった声が出てきて喜ばしい半面、バックラッシュのような意見を持った政治家も現れました。そんな諸々への思いを、チャンプルー的に詰めこんだのがこの本です。ザッくんと一緒に、世界をおろおろうろうろしていただけたら嬉しいです。
――「残念なパーマの、残念なハーフ。人呼んでザンパ」。という不名誉なあだ名とともにつらい少年時代を過ごしたザッくんが、沖縄での出会いを通じて変化していく本作。
家庭の悩み、常識の違い……さまざまなモヤモヤを抱える人に読んでほしい、心に温かい沖縄の風が吹くような物語ですね。皆さんもぜひ手に取ってみてください!
『楽園ジューシー』あらすじ
書 名:楽園ジューシー
著 者:坂木 司
発売日:2025年02月25日
南国青春ミステリ。あのホテルにまた会える!
ザッくんは5カ国ミックスの大学1年生。中高時代「ザンパ」(残念なパーマ)と呼ばれ、残念なミックスだと自認している。居場所がない日々の中、親友のゴーさん、アマタツとの約束「いつか三人で沖縄へ行こう」が拠り所だ。ある日、沖縄の「ホテルジューシー」でバイトすることに。待ち受けるは美味しい沖縄料理に掴みどころのないオーナー代理、超個性的な宿泊客。ザッくんの新しい旅が始まる。
解説・恒川光太郎
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