【第179回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第179回】柚月裕子『誓いの証言』
大橋だけは、香典を届ける役として、勝也から参列を許された。大橋が組合の理事だったこともあるが、丁場のなかでは原じいと一番親しかった者だからというのも、大橋が行くことになった理由だった。
大橋は寺に着くと、参列者席の一番端に座った。大橋に気づいた、原じいと同じ町内会の人が前に座るよう促したが、大橋は丁重に断った。原じいは自分を裏切ったやつになど、手を合わせられたくないだろう。そう思ったこともあるが、もうひとつ、晶に合わせる顔がなかったからだ。
あの豪雨の日、倒れている原じいのそばで晶は大橋たちに向かって叫んだ。
――おじいちゃんが死んだのは、お前たちのせいだ!
――人殺し! おじいちゃんを返せ!
晶の悲痛な叫びは、大橋の耳にこびりつき離れなかった。晶から憎しみが籠もった目で睨まれるのが怖かった。
しかし、いつまで経っても晶は来ない。
誰かが寺に入ってくるたびに、晶だろうか、と思い恐々そちらを見るが違った。そして晶は、とうとう葬儀が終わっても姿を現さなかった。
晶が原じいの葬儀に出ないなどあり得ない。晶になにかあったのだろうか。
大橋は葬儀が終わると、外へ出ないで住職のもとへ向かった。
住職は本堂の奥で、ひとりの女性と立ち話をしていた。参列者の席の一番前に座っていた文子――原じいの息子、圭一の姉だった。
文子に会ったのは、圭一の葬儀の時以来だから、十年近く前になる。大橋は、文子が住職との話を終えて外へ出てくるのを、境内で待った。
やがて文子が本堂から出てきた。大橋はそばへ行き、文子へ声をかけた。
(つづく)
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