KADOKAWA Group
menu
menu

特集

制限された部活動、黙食……失われた学生生活でも前向きに生きる中高生たちを描く――映画「この夏の星を見る」桜田ひよりインタビュー

わずか数年前、我々の“当たり前”や“日常”を奪った緊急事態宣言。10代男女の視点でコロナ禍の学生生活を描写した「この夏の星を見る」は、テレビやニュースの情報だけでは得られなかった“生きづらさ”や、若者特有の感情をリアルに映し出す――。
今回は、本作で主人公の高校生を演じた桜田ひよりにインタビュー。当時、実際に現役の学生だった彼女だからこそ語れる、本作への想いに触れた。

文/横谷和明

映画「この夏の星を見る」
桜田ひよりインタビュー



辻村深月原作の『この夏の星を見る』(角川文庫/KADOKAWA刊)は、新型コロナウイルスの蔓延によって緊急事態宣言が発令され、登校や部活動が次々と制限されていくなかで、大人以上に複雑な思いを抱えた中高生たちの青春を描いた作品。このたび実写映画化され、監督は劇場長編映画デビューとなる山元環、主演は桜田ひよりが務めている。
部活動を制限された中高生たちが挑んだのは、オンラインを駆使して日本各地で同時に天体観測を行う競技「スターキャッチコンテスト」。茨城、東京、長崎・五島列島の学生が始めたこの活動は、やがて全国に広まり、ある感動を呼び起こすことになる――。
桜田が本作で演じたのは、茨城県に住む高校生・溪本亜紗(たにもと・あさ)。先の見えないコロナ禍で不安や悩みを抱えつつも、周囲を明るく照らす元気で前向きな天文部の女の子をエネルギッシュに演じている。桜田本人も当時は高校生だっただけに、「役の心情に共感する部分が多く、思い入れの深い作品になった」と明かす。



辻村先生の作品は想像力を広げてくれる

――桜田さんは、辻村先生の小説を昔から読んでいたとお聞きしました。
「10代の頃に『かがみの孤城』や『傲慢と善良』を読みました。辻村先生の作品は一文、一文の没入感がすごくて、自分の頭の中に登場人物の表情や話し方、その光景などが浮かんでくるんです。自分の想像力を広げてもらった感覚がありましたね」

――今作の原作小説を読んだ感想はいかがでしたか。
「やはり同じように自分の頭の中で物語がどんどん膨らんでいく感覚が楽しくて。登場人物それぞれのコロナに対する思いが描かれているのですが、たとえば学校に行きたくないからコロナ禍で良かったと思う子もいたということを知り、人の様々な想いを感じました」

――辻村先生との交流は?
「現場で一度お会いしましたし、完成した映画を同じタイミングで観させていただきました。辻村先生から『亜紗ちゃんが桜田さんで良かった』とおっしゃっていただけたんです。自分が今まで撮影で培ってきたものが実を結んだ気がして嬉しかったです」

――桜田さんが演じた亜紗は、明るく真っ直ぐで太陽みたいな人物に感じました。
「脚本を読んだとき、亜紗ちゃんは芯が強くて、みんなを動かす原動力になれるような女の子だと思いました。自分の学生時代にこういう子がクラスに一人いたら楽しかっただろうなと感じたので、そういう女の子像を役に投影しました。でも人間って、人前では見せないネガティブな感情を誰しもが持っていると私は思っているんです。なので前向きな感情だけではなく、亜紗ちゃんが一人でいるときや悲しい出来事が起こったときに見せる、心の芯から湧き出るような感情を意識して演じました」



相手からもらうボールを1ミリも逃さないように

――コロナ禍ということで、マスク姿のシーンが多かったですが、顔の半分が隠れてしまっているぶん、感情を表現するのは難しかったのでは?
「自分だけでなく相手の表情も半分しか見えないので、声のトーンやしゃべり方、目線の動きや仕草から相手の心情を探ろうとする気持ちが強かったです。相手からもらうボールを1ミリも逃がさないようにしていた感覚はありました。自分が言葉を発するときも、マスクの存在を忘れるくらいエネルギーの熱量を高く持つことを心がけていました。映画を観てくださる方たちが、マスクに違和感を感じないようになってくれたらいいなと思いながら演じていました」

――ちなみに、桜田さん自身はコロナ禍をどのように過ごしていたのでしょうか。
「当時は高校生でしたが、やはりできないことのほうが多くて。私はこの作品に出てくる生徒たちのように、物事の視点を変えてみたり機転を利かせるみたいなことをしなかったので、ダラダラ過ごしてしまうときもありました。
 実は、コロナ禍に入ったときにある作品の撮影が始まっていたのですが、1カ月もしないうちに自粛期間に入ってしまって……。次の撮影まで2カ月近く間が空いてしまったので、その役を忘れないだろうか……という不安もありました。自粛期間が明けてからもフェイスシールド越しのお芝居だったり、本番だけでマスクを外して演じるという状況だったので、演者側もスタッフさん側も困惑していた時期だったなとあらためて思います」



心がけたのは、迫力とキレのある動き

――劇中で開催される競技「スターキャッチコンテスト」の練習はどのくらい積まれたのでしょうか。
「今作では、実在する大会とは少しルールが変わっていて、スポーツのような競技性の強い内容になっています。山元監督から、『迫力とキレのある動きで望遠鏡を操ってほしい』と言われました。そこで、望遠鏡の角度や回転の仕方をいかにカッコ良く見せられるかに重点を置いて練習しました」

――望遠鏡の操作は難しい?
「望遠鏡でキャッチする星の位置は毎回変わるのですが、それこそほぼ真上のときもあったので望遠鏡の操作は大変でした。撮影自体も昼間だったので……」

――そうだったんですか!
「“Day for Night”という昼間に撮影した映像を夜のシーンに見せるという手法なのですが、実際は昼間の空で星を探すというお芝居だったので、想像力との戦いでした。競技に参加する生徒役全員で一つの星を想像しないといけなくて。たとえば、キャッチする星に対して、ワクワクしている“温度感”もみんなで揃える必要があったんです。そこは意識して合わせるように頑張りました」

――オンライン上でのチームプレイだったんですね。望遠鏡で星を眺めた感想は?

「今回、初めて望遠鏡を覗かせてもらったんですけど、撮影中に土星をキャッチすることができて。本当に輪っかがあるんだ!ってすごくワクワクしました(笑)。また機会があったら、ぜひ覗いてみたいです」

――亜紗は、コンテストの説明やオンライン実況中継を担当していますが、本気で競技を楽しんでいる姿が画面から伝わってきました。
「ありがとうございます。まず誰よりも一番ワクワクしている子でいようと自分で決めていたんです。でもそれはこのシーンだけではなく、作品全体を含めて常に思っていました。それを踏まえたうえで、自分がどうやって楽しく実況できるか、このワクワク感をみんなにどう伝えらえるかと考えながら、撮影に臨んでいましたね」



視点の変え方次第で、見える景色が変わる

――完成した映画を観た感想はいかがでしたか。
「10代の子たちのキラキラした青春が描かれていて綺麗だなと感じました。コロナ禍という一つの出来事で、こんなにも感情が浮き彫りになって相手に届きにくくなったり、逆に届きすぎてしまうこともあるんだなって。そういった10代ならではの剥き出しな感じがすごく美しいなって思いました。生きていくなかで先の見えない壁にぶつかってしまって思うように前に進めないときもありますけど、ちょっとした視点の変え方でこんなにも先のゴールが輝いて見えることがあるんだって、この作品を通して強く感じました」

――ちなみに、桜田さんは、壁にぶつかったときにどう対処していますか。
「私は基本的に自問自答することが多いです。自分の心と頭も使って、自分自身と対話しながら物事を解決していくタイプですね。あまり人には相談することはないです」

――一人で解決しようとすると、しんどくなるときもありませんか。
「もちろんあります。そういうときはどこか癒される場所に行ったり、あとは……ワンちゃんを飼っているので、一緒に戯れているとリフレッシュできます(笑)」

――自分のなかでうまくメンタルをコントロールされているんですね。今作は「2020年、あの時を生きた君たちへ。」というキャッチコピーがありますが、やはり学生時代にコロナ禍を経験した人たちに今作を観てほしいですか。
「その年代の方々に一番観てほしいですが、そういった子どもたちを見守ってきた親御さんや学校の先生たちにも観ていただきたいです。黙食のシーンをはじめ、学校生活がどれだけコロナ禍で変わってしまったのかを大人の視点でもあらためて感じていただければと。あのときを忘れてはいけないし、あのときの私たちの感情が嘘ではなかったんだなっていうことを再確認できる映画だと思っています」

プロフィール

桜田ひより
2002年生まれ、千葉県出身。08年より芸能活動を開始。17年、ドラマ「咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A」で初主演。18年の映画版でも主演を務める。近年の出演作は、映画「バジーノイズ」(24年)、「大きな玉ねぎの下で」(25年)など。

映画情報



映画「この夏の星を見る」
原作:辻村深月『この夏の星を見る』(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:山元 環
脚本:森野マッシュ
出演:桜田ひより 他
配給:東映

全国公開中
https://www.konohoshi-movie.jp/
(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

Story
亜紗(桜田)は、茨城県に住む天文部員の高校生。コロナ禍で制限された学校生活を送るなかで、ある日彼女は、天体観測の競技「スターキャッチコンテスト」をオンラインで開催することを決める。東京、長崎・五島列島の生徒たちもそれぞれの地でコンテストに参加し、オンライン上で絆を深めていくーー。

書誌情報



書 名:この夏の星を見る 上・下
著 者:辻村深月
発売日:2025年06月17日

この物語は、あなたの宝物になる。
亜紗は茨城県立砂浦第三高校の二年生。顧問の綿引先生のもと、天文部で活動している。コロナ禍で部活動が次々と制限され、楽しみにしていた合宿も中止になる中、望遠鏡で星を捉えるスピードを競う「スターキャッチコンテスト」も今年は開催できないだろうと悩んでいた。真宙(まひろ)は渋谷区立ひばり森中学の一年生。27人しかいない新入生のうち、唯一の男子であることにショックを受け、「長引け、コロナ」と日々念じている。円華(まどか)は長崎県五島列島の旅館の娘。高校三年生で、吹奏楽部。旅館に他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれ、やりきれない思いを抱えている時に、クラスメイトに天文台に誘われる――。

上巻詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322502000850/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら

下巻詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322502000849/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら


紹介した書籍

関連書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年7月号

6月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年8月号

7月4日 発売

怪と幽

最新号
Vol.019

4月28日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

うちらはマブダチseason3 大人になってもマブダチって最強やん!編

著者 やまもとりえ

2

この声が届くまで

上田竜也

3

営繕かるかや怪異譚 その肆

著者 小野不由美

4

かみさまキツネとサラリーマン

著者 ヤシン

5

谷根千ミステリ散歩 密室の中に猫がいる

著者 東川篤哉

6

眠れぬ夜はケーキを焼いて4

著者 午後

2025年7月7日 - 2025年7月13日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

TOP