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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.78

【第238回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第238回】柚月裕子『誓いの証言』

 大橋はなにかに耐えるようにきつく目を閉じて黙っていたが、やがて覚悟を決めたように目を開けた。顔をあげ、前方を見つめながら、佐方の質問に答える。
「現実は不慮の事故です。原じいが自分で丁場に行って、不注意で足を滑らせて岩場から落ちて命を落としたのは事実です。でも私は、単なる事故とは思えませんでした。いまも、その気持ちは同じです」
「異議あり」
 再び岩谷が声をあげた。こんどは声だけでなく、顔にも苛立ちが表れている。
「もう一度言います。本件には関係のないことです。弁護人は戯れに時間を浪費しているだけです」
 乙部は佐方に訊く。
「弁護人は先ほど、この事件の真相は原告の過去に深いかかわりがある、そう言いました。それは間違いないのですね」
 佐方は乙部をまっすぐに見つめた。
「はい、大橋さんがいまから話すことに、この事件の真相があります」
 乙部は再度、岩谷の訴えを退けた。
「異議を棄却します」
 岩谷は尋問を進めると判断した乙部ではなく、佐方を睨みつけながら椅子に座った。
「弁護人、尋問を続けてください」
 佐方は改めて乙部に一礼し、大橋に向き直った。
「尋問を進めます。原さんの事故死を大橋さんは、そう思えない。その理由を教えてください」
 大橋はゆっくりと答える。
「原じいは亡くなる四年ほど前に、ある理由で丁場を離れました。でも、蕃永石の職人は続けられるはずだったんです。でもそれができなくなりました」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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