【第239回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第239回】柚月裕子『誓いの証言』
大橋は、原じいが職人を続けられなくなった経緯を説明した。蕃永石のこれからをめぐって、当時、丁場を取り仕切っていた代表者と意見が分かれたこと。蕃永石の将来を考えて、丁場を去ったこと。独立しても蕃永石は丁場から仕入れ、職人を続けられるはずだったこと。だが、蕃永石の組合をやめさせられて石が手に入らなくなったこと。その結果、独立するために背負った借金だけが残り、生きがいを失くして酒浸りになってしまったことを伝える。
「そして、ある大雨の夜、丁場に行って転落して死んでしまったんです」
大橋が話し終える。
法廷内は、異様な空気に包まれていた。いま大橋の口から語られた原滋の人生には、同情せずにはいられない。だが、いま久保の罪を問うているこの場で、原滋のことをどのように受け止めたらいいのか戸惑っている、そんな感じだ。
佐方は原滋の人生に、切り込んでいく。
「原滋さんに、家族はいらしたんですか」
「はい、いました」
「いた。過去形ということは、もういないのですか」
大橋は頷いた。
「原じいの奥さんは、息子を産んだあと早くに亡くなり、その息子も結婚して子供をひとり持ったあと、車の事故で奥さんとともに亡くなりました」
「原滋さんの奥さんと、息子さん夫婦はすでに亡くなっているんですね。では、息子さんの子供――原滋さんのお孫さんは、ご両親を亡くされたあとどうしたんですか」
「原じいが育てていました」
「親を亡くした孫――不憫で可愛くて仕方がなかったでしょうね。きっと、そのお孫さんも懐いていたでしょう」
(つづく)
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