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レビュー

連鎖する死のミッシング・リンクを探る〈特殊設定ミステリ〉——新名智『きみはサイコロを振らない』レビュー【評者:法月綸太郎】

呪いの発動条件とその回避方法は?
大胆な伏線に新鋭のミステリセンスが光る!
『きみはサイコロを振らない』レビュー

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きみはサイコロを振らない

著者:新名 智



書評:法月綸太郎

 人生なんて、しょせんはゲームだ――中学時代の友人・能勢雪広が狗竜川で死んだ日からずっとその言葉に囚われていた志崎晴は、高二の秋、無口な同級生・霧江莉久と都市伝説を研究する大学院生・雨森葉月に頼まれ、「遊ぶと死ぬ」呪いのゲーム探しを手伝うことになる。急死したゲーマー男性が遺した大量のソフトをプレイするも、怪しいゲームは見つからない。ところがそれ以来、晴の視界だけに〈黒い影〉が出現して……。
 新名智『きみはサイコロを振らない』は、狗竜川水系を移動する「怪談」の発生源を探るデビュー作『虚魚』(第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作)、失われた「物語」と双子の記憶が交錯する第二作『あさとほ』でホラー小説界に新風を吹き込んだ気鋭の第三弾。デビュー時からミステリセンスのよさを買われていた作者だが、物語の主軸に「ゲーム」を据えた本書はこれまで以上にミステリ度が高まっているようだ。
 作者によれば、怪談や都市伝説にはルールが決まっているものが多く、ホラーとゲームは相性がいいという。その相性のよさはミステリの謎解きにも通じるだろう。ゆえにゲームとルールの関係性に注目した本書は、呪いの発動条件=連鎖する死のミッシング・リンクを探る〈特殊設定ミステリ〉として読むことができる。
 晴が呪いの正体を探るプロセスは、ゲームを通じて親しくなった雪広とその死にまつわる記憶のたどり直しでもある。雪広との会話をリプレイする中で、ゲームに関するさまざまな蘊蓄やトピック――盤上の駒が何の駒か決まっていない「量子将棋」、新パックの発売やルール改定で変わるカードゲームの「環境」等々――が語られ、そこから二人の関係性の推移が見えてくる。作中でプレイされるゲームへの闇鍋的コメントも面白い。タイトルが伏せられているせいで、内容紹介が都市伝説やホラー映画の一行あらすじみたいな電波系テキストに近づいてしまうからだ。
 作者はこうした異化効果を怪談コレクターのように披露しながら、なにくわぬ顔で思弁的な哲学SFの領域へ踏み込んでいく(筆者はポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの作風を連想した)。すべてが偶然、ランダムであることに人間は耐えられない。だから偶然に意味を与える「物語」を必要とする――それが『虚魚』『あさとほ』を貫く主題だったが、本書ではまた別の角度からこの主題に取り組み、試行錯誤をへて「偶然は神様のもの」という(アインシュタインが激怒しそうな)結論にたどり着く。デビュー作以来の〈狗竜川サーガ〉は、そうした思考実験と怪異を混ぜ合わせる坩堝として、一作ごとに潜在的なパワーをため込んでいるらしい。
 ところでフランスの社会学者ロジェ・カイヨワは、1958年の著書『遊びと人間』の中で人間の「遊び」を四つに分類した。①アゴーン(競争:スポーツや碁・将棋など)、②アレア(偶然:ギャンブルや占いなど)、③ミミクリー(模倣:ままごとや演劇など)、④イリンクス(めまい:ブランコやジェットコースターなど)。今の目で見るとカイヨワの分類は漏れも多いが、本書を読み解く上で少なからず参考になる。名前に晴・雪・霧・雨を含むメインの四人の造型は、「遊び」の四分類を踏まえているふしがあるからだ。もちろん、四つの項の相互関係は物語の進行に沿って変化していくし、呪いが示す奇妙なふるまいもそうなのだが。
 過去に傷を負った若者たちが、世界=宇宙の深淵と向き合うことでそれぞれの傷の深さを知り、支え合いながらダメージを修復していく。まっすぐでないその歩みが青春×ホラー×ミステリという三つ巴のジャンルミックスに投影されているのが、本書の際立った特徴だろう。それと忘れてはならないのが、雪広の闇(冷気)属性を無効化する莉久の存在である。スマホのメッセージアプリでしか会話しない彼女のある突発的言動が呼び水となって、呪いの発動条件とその回避方法が判明するくだりは、ミステリ専業の作家でも悔しがるような巧みさだ。そして、その解決を導く伏線が物語の要所要所にあからさまな形で示されていたことを知り、読者はあらためてため息を漏らすにちがいない。伸び盛りの作者が新たなステップを上がった作品で、ゲームが好きな人はもちろん、怖いのはちょっと苦手で……と今まで敬遠していた人にも一読をお勧めする。

作品紹介



きみはサイコロを振らない
著者 新名 智
定価: 1,815円 (本体1,650円+税)
発売日:2023年05月18日


「呪いのゲーム」はどこにある? 新鋭による青春ホラーミステリの感動作
――人生なんて、しょせんはゲームだ。
中学時代の友人の死が忘れられず、そんな信条で日々を淡々と過ごす高校生の志崎晴(しざきはる)。
「遊ぶと死ぬ」ゲームを探しているという同級生・莉久(りく)に頼まれ、彼女と、呪いの研究をしている大学院生・葉月(はづき)と共に、不審な死を遂げたゲーマー男性の遺品を調べることに。
大量に残されたゲームをひとつずつ遊んで検証する三人。するといつのまにか晴の日常に突然〈黒い影〉が現れるように――。
〈晴くんって、実はもう呪われてない?〉
呪いのゲームはどこにあるのか? その正体と晴の呪いを解く方法は――。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322211001529/
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