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これぞホラー小説の「フェス」だ! 恐怖と戦慄の豪華書き下ろしアンソロジー—— 編著:三津田信三『七人怪談』レビュー【評者:宇田川拓也】

屈指の名手たちが「自分が最も怖いと思う怪談」を綴る。戦慄の怪談小説集。

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七人怪談

編著 三津田信三
著者 加門七海 著者 菊地秀行 著者 澤村伊智 著者 霜島ケイ
著者 名梁和泉 著者 福澤徹三



書評:宇田川拓也(ときわ書房本店 文芸書・文庫担当)

 夏になると各地で様々なアーティストやバンドが参加する大規模な音楽ライブイベント、いわゆる「フェス」が開催されるが、文芸だって負けてはいない。三津田信三 編著『七人怪談』は、背筋が凍るホラーや異界に触れるような怪奇小説に目がない読者なら、全国から大勢の人間が詰め掛けるフェスにも匹敵するほど胸躍る、じつにスペシャルで豪華な書き下ろしアンソロジーだ。
 当代随一のホラーミステリ作家である三津田信三が、恐怖と戦慄の物語を書かせたらトップクラスの作家六人に「自分が最も怖いと思う怪談を書いて下さい」と原稿を依頼。そこに編著者自身も加わった計七人の作家による新作を一冊にまとめたから『七人怪談』、というわけである。こうした書き下ろしの企画では、毎回異なるテーマを掲げ、すでに五十巻以上続いているホラーアンソロジー、井上雅彦 監修〈異形コレクション〉シリーズが有名だが、『七人怪談』が興味深いのは、執筆者の人選だけでなく、さらにその作家に相応しい「お題」が個別に用意されている点にある。
 掲載順にざっと触れていくと、『ぼぎわんが、来る』から始まる霊能者〈比嘉姉妹〉シリーズを大看板とする澤村伊智へのオーダーは、ズバリ〈霊能者怪談〉。「サヤさん」は、かつて雑誌に掲載された“マツシタサヤ”なる女性霊能者を巡る読者投稿を皮切りに、複数の記事や書籍の記述から、底の知れない都市伝説を垣間見るような得もいわれぬ味わいと存在感が立ち上がってくる。
呪術や民俗学に造詣の深い作家にして自身の心霊体験も豊富な加門七海には、これまたズバリ〈実話系怪談〉を。古い神社を訪れた際に撮った川の写真が発端となる「貝田川」は、身近なオカルトルポと良からぬなにかが不気味に忍び寄る恐怖譚が融合した内容で、もっとも怖いタイプの“実話”がなにかを教えてくれる。
 第二十二回日本ホラー小説大賞で優秀賞となったデビュー長編『二階の王』を筆頭に、日常のすぐそばに拡がる異世界描写で評価の高い名梁和泉には、〈異界系怪談〉をオーダー。「燃頭のいた町」は、少年時代を振り返るノスタルジックな団地の風景に、焼身自殺者の怨念が怪物化した“ねん”のイメージと居場所のない男の寂寥感が恐ろしくも切ない。
 キャリア四十年を超えるグランドマスター・菊地秀行というと、〈魔界都市ブルース〉や〈吸血鬼ハンターD〉といった看板シリーズを真っ先に思い浮かべる向きも多いと思うが、三津田信三はホラー時代劇〈幽剣抄〉シリーズをことのほか高く評価しており、その流れから今回は〈時代劇怪談〉を。「旅の武士」は、北への道を黙々と進む謎の武士と、その道行きでつぎつぎと起こる不条理な死を描いた怪異譚で、真相の輪郭は明らかにされるものの割り切ることのできない謎めいた結末の余韻が長く尾を引く。
 収録作中もっともボリュームのある霜島ケイ「魔々ママ」は、〈民俗学怪談〉というお題に応えた一編。毒親傾向の母と折り合いの悪い咲希が移り住んだ、亡くなった祖母が暮らしていた田舎の古い家屋。あちこちで不可解な音が生じるこの家を管理する者に財産を譲るという祖母の遺志、その真意とは何なのか。タイトルの響きから察せられるとおり、母という存在と家系や家族に縛られ苦しめられた女性たちについての物語であり、恐怖と開放感が重なる絶妙なラストに息を呑む。
 アウトローから社会派まで作風自在な小説家にして実話怪談ジャンルでも揺るぎない評価を獲得している福澤徹三には、〈会社系怪談〉という変化球的なオーダー。「会社奇譚」は、著者が作家活動以前、会社勤めをしていた頃に経験し、見聞きした怪異を振り返る内容で、説明できない現象の連鎖と結果、そしてラスト一行にぞわりとする。
 収録作の掉尾を飾る三津田信三「何も無い家」は、『禍家』や『どこの家にも怖いものはいる』をはじめ、家や建物にまつわる恐怖譚をいくつもものしていることから、お題は〈建物系怪談〉。作家の知り合いから聞いた体験談を紹介する形で話が進められるのだが、
創作とリアルの境目がおぼろになり、障りが起こりかねない危険な領域に読み手を引き込む筆致を得意とする著者らしい、触れてはいけないものに触れてしまった拭いがたい不安が読後もじわじわと胸の内に拡がり続ける。
 こうして全体を通して見てみると、「怖い」といっても味わいや余韻などが様々に異なり、ただ震え上がるというニュアンスだけでは掬い切れない奥深いものであることに改めて気付かされる。加えて、三津田信三の確かな目に裏打ちされた指揮者としての力量にも大いに舌を巻いた。デビュー前は編集者だった経歴を思えば、それほど驚くには値しないのかもしれないが、各作家に用意された「お題」の的を射たセンスはやはり見事というしかない。アンソロジーとして愉しめることはもとより、キャリアを問わず、いまホラー・怪奇小説シーンで見逃してはならない書き手を知るための指針としても重宝する一冊である。

作品紹介



七人怪談
編著 三津田信三
著者 加門七海 著者 菊地秀行 著者 澤村伊智 著者 霜島ケイ
著者 名梁和泉 著者 福澤徹三
発売日:2023年06月21日

屈指の名手たちが「自分が最も怖いと思う怪談」を綴る。戦慄の怪談小説集。
「これは、わたしが小学校の、高学年だった頃の話です」――少女が雑誌に投稿した、ある家族を襲った不気味な怪異の記録。悪化していく一方の父の怪我、何者かに乗っ取られ不気味な笑い声をあげる妹。そして親類たちの死。霊能者“マツシタサヤ”によって怪異は鎮められ、記録は締めくくられる。だが、この投稿を皮切りに、マツシタサヤを巡る不可解な記録が世に溢れはじめ……(澤村伊智「サヤさん」)。
 同窓会をきっかけに、故郷の実家に泊まることになった「私」。すでに実家には誰も住んでおらず、何も無い家に過ぎないはずなのに、「私」以外の何者かの気配が段々と濃くなっていく。鳥籠の中で邪悪な笑みをたたえた阿弥陀如来像、座敷の蒲団の中で蠢くモノ、そして――。忌まわしい記憶とともに、何かが迫ってくる(三津田信三「何も無い家」)。
ホラー界の巨星、三津田信三が、屈指のホラー小説の名手六人それぞれに相応しいテーマで「自分が最も怖いと思う怪談を」と依頼して編まれた戦慄のアンソロジー。

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