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特集

ホラーを知り尽くした作家・三津田信三が仕掛けた新たな恐怖に迫る。『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』『七人怪談』刊行インタビュー

ホラーファン、ミステリファンの両方から絶大な支持を受ける作家・三津田信三さん。6月6日に発売された新作『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』(KADOKAWA)は、怪異譚に秘められた真相に刀城言耶の助手たちが迫るという民俗学ホラーミステリ。他の三津田作品とのリンクも楽しめる新シリーズです。さらに6月21日には三津田さんが編著者を務める『七人怪談』(KADOKAWA)も刊行されました。澤村伊智さん、加門七海さんら総勢7人が「自分が最も怖いと思う怪談」を書き下ろしたアンソロジーです。背筋も凍る2冊について、三津田さんにインタビューしました。

取材・文=朝宮運河 撮影=川口宗道



『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』『七人怪談』刊行記念
三津田信三インタビュー


――『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』は、昭和30年代を舞台にしたホラーミステリです。昭和30年代といえば三津田さんの人気作「刀城言耶」シリーズの舞台。新シリーズ誕生の経緯を教えていただけますか。

 実は他社の某文庫レーベルのために考えていたのが、この「怪民研」のシリーズでした。「刀城言耶」シリーズの姉妹編という位置づけで、シリーズ本編よりもややライトで、キャラクターが立っているもの。しかも読んだ人が「刀城言耶」シリーズに興味を持ってくれるような作品として考えていました。結局そのレーベルでは書かなかったのですが、今回KADOKAWAから新しいキャラクターものの依頼を受けて、あれが使えるじゃないかと思ったわけです。


――物語の主な舞台になるのは、刀城言耶が講師を務める大学の怪異民俗学研究室、通称「怪民研」。刀城言耶の蔵書や蒐集品がぎっしりと納められたこの部屋で、名探偵の助手たちが怪異譚の謎解きに挑む……というのが、全五話に共通した設定です。いわゆる“安楽椅子探偵”のパターンを踏襲していますね。


 冒頭で怪異譚が紹介されて、それから謎解きが行なわれる、という王道の構成になっています。「刀城言耶」シリーズと区別するためでもあるし、探偵役の天弓馬人がインドアな性格という理由もあります。そもそも短編ミステリには安楽椅子探偵のパターンが適していて、アクティブなイメージが結構あるシャーロック・ホームズでも、下宿で依頼人の話を聞いただけで解決する作品があります。


――研究室の留守を任されている若い作家の天弓馬人は、極度の怖がり。毎回、大学生の瞳星愛が持ち込んでくる怪異譚が怖くてたまらず、なんとか合理的な解釈を付けようとします。怖いから推理をする、という動機が面白いですね。

 こういう性格の人ってたまにいませんか? こっちは雑談の延長で怪談をしているだけなのに、「そんなことは絶対ありえない」とムキになって否定する。あれは徹底的な合理主義者か、さもなければ実は怖がりだと思います(笑)。天弓馬人もそのタイプ。瞳星愛はそんな馬人に複雑な感情を抱いていて、推理を披露して悦に入っている彼を好ましく思う気持ちもあるのに、なぜか毎回ほぼ恐怖の淵に突き落とすようなことを口にする(笑)。この二人はキャラクターものとして、まずまずうまく書けたかなと思います。


――第一話「歩く亡者」で瞳星愛が語るのは、瀬戸内の漁村で死んだはずの男が歩いていた、という怪異譚。逢魔が時、向こうから少しずつ近づいてくる亡者とすれ違うシーンなど、かなり恐ろしいですね。

 怪奇的な場面を書く時は、その作品がミステリでもあることは忘れて、怖さの描写に集中していると思います。ホラーとミステリの融合といわれる「刀城言耶」シリーズにしても、前半でホラーの雰囲気を濃密に作り上げるようにしています。そうしておけば怪異に合理的な解決が付けられても、おそらく怖さは零にならないからです。「歩く亡者」では最後に愛が告げる後日談が気に入っています。書いていてふと思いついた光景ですが、あれは想像するといやな絵ですよね(笑)。


――漁村の人間関係を背景にした表題作、山で暮らす人々が怪異に遭遇する第三話「腹を割く狐鬼と縮む蟇家」。丹念に描写された地方の生活が、怪異譚にいっそうのリアリティを与えています。

 そうした背景があると、いっそう小説の面白さが引き立ちます。「刀城言耶」シリーズの第一作『厭魅の如き憑くもの』(講談社文庫)を書いた時は、憑き物信仰について取材しただけでなく、村の人たちがどうやって生活しているのか、そこまで詳しく設定しました。小説の中では結局ほぼ使いませんでしたけど。たまに“書き割り”のような村が出てくるホラーやミステリがありますが、作品として薄っぺらくなるので、そこは手を抜かずにきちんと書くべきだと思います。


――個人的には第五話「佇む口食女」で描かれる、野焼き(屋外での火葬)の場面が印象的でした。今日では見られなくなった風景に、興味をかき立てられます。

 海外ミステリを読む楽しみの一つに、自分の知らない異文化との触れ合いがあります。アガサ・クリスティ作品だと、イギリスの階級社会について学べたりするわけです。「刀城言耶」シリーズや「怪民研」シリーズも、今の読者から見れば異文化との遭遇になります。娯楽小説の面白さの半分くらいは、これじゃないかな。「佇む口食女」は松の樹に登っている男が死人に襲われる場面が好きです。『まんが日本昔ばなし』みたいで面白いでしょ。このシーンは昔から頭にあって、いつか書いてみたいと思っていました。


――全五話中、特に気に入っている作品は。

 うまくまとまっているのは第一話「歩く亡者」かな。類型的なトリックであっても、新しいものと組み合わせることでまだまだ面白くなる、ということを示せた気がします。第三話「腹を裂く狐鬼と縮む蟇家」の次第に縮んでいく蟇家の話も気に入っています。やっぱり僕は家系のホラーが好きなんでしょうね。


――三津田さんはいつもプロットを作らず、書きながら物語を考えているそうですね。今回もそういう書き方をされたのですか。

 はい、いつも通りです。出版社にプロットを出せと言われたことがないのは、編集者も分かっているからでしょうか(笑)。ただ今回はミステリなので、中心のアイデアは準備していました。第四話「目貼りされる座敷婆」なんて、高校時代に書いた「座敷童の怪」というミステリが原型です。高校の妖怪研究会のメンバーが座敷童の出る宿に泊まって、殺人事件に遭遇するという話ですから、今回書いた作品とほぼ一緒。トリックも犯人も当時考えたままです。違うのは見せ方ですね。当時はお馬鹿なトリックをそのまま書いていましたが、今はそれを面白く見せるコツが分かっていますから、完成度は全然違うと思います。


――「怪民研」はシリーズとして書き続けられる予定だとか。今後、刀城言耶が登場することもあり得るのでしょうか。

 いや、それはないです。この手の姉妹編の鉄則として、有名なキャラクターには安易に頼らない。これを心懸けるべきだと思います。仮に刀城言耶を出すにしても、あるエピソードにちょっとだけゲスト出演するとか、そういう形になるでしょう。とりあえず次は長編を予定しています。


――6月21日に発売された『七人怪談』は三津田さんが編著者を務めたホラーアンソロジーです。澤村伊智、加門七海、名梁和泉、菊地秀行、霜島ケイ、福澤徹三(掲載順)という6名のホラー作家が、三津田さんが選んだテーマの短編を書き下ろす、というスペシャルな企画ですが、そもそもの成り立ちは?


 絶対それを聞かれると思ったので、古い記憶を引っ張り出してきました(笑)。ご存じのように僕は2000年代の初めに作家とフリー編集者を兼業していたのですが、そのとき『ホラー・ジャパネスクを語る』(東雅夫編/双葉社)というインタビュー集を企画しました。これはホラーの書き手6人に編者がインタビューする本で、その連動企画として『ホラー・ジャパネスクを書く』というアンソロジーも考えていました。結局それを具体化する前に、僕が専業作家になったので、企画は自然消滅したわけです。でも、ずーっと頭の片隅にあったらしくて、めぐりめぐって『七人怪談』という別の形で復活しました。収録作家のラインナップはだいぶ変わっていますが、『七人怪談』のルーツは編集者時代の思いつきと言えます。ちなみに本書、KADOKAWAの企画会議で一度ボツになっています(笑)。それが敗者復活したのは熱心な担当編集者のおかげです。


――三津田さんが選んだテーマは、澤村伊智さんが霊能者怪談、加門七海さんが実話系怪談、名梁和泉さんが異界系怪談、菊地秀行さんが時代劇怪談、霜島ケイさんが民俗学怪談、福澤徹三さんが会社系怪談。なるほど、というセレクションです。

 テーマについては作家さんのお名前と一緒に浮かんできました。この人にはこんな作品を書いてほしい、という読者としての願望ですね。これはある意味、大変失礼なことだと思います。大ヒットしているシリーズものを依頼せずに、「別のテーマでお願いします」といっているわけですから。でも絶対、このテーマで書いてもらったら面白いものになる、という確信はありました。どうして世の中の編集者はこのテーマで依頼しないのだろう、間違いなく面白いのに、と常々思っていました。


――届いた原稿をお読みになって、どんな感想をお持ちになりましたか。

 書き下ろしアンソロジーって難しいんですよ。蓋を開けてみるまで、どんな作品が届くか分からない。ただ今回はどれも素晴らしかった。大成功だと思います。ここまで質の高い作品が揃った書き下ろしアンソロジーは、かなり珍しいでしょう。編著者として大きな手応えを感じています。


――たとえば菊地秀行さんの「旅の武士」は、正体不明の侍にまつわる不条理な味わいの怪談小説です。三津田さんは以前から、菊地さんの武士怪談の愛読者だとおっしゃっていましたね。

 菊地さんといえば一般的には伝奇アクションの方ですが、僕は断然「幽剣抄」のシリーズが好きで、僕が編者を務めた『怪異十三』(原書房)というアンソロジーにも「茂助に関わる談合」という武士怪談を収録しました。今回の「旅の武士」もすごい。特に前半の不条理感が尋常ではない。こちらの意図を汲んで、それに応えるような作品を書いてくださったことに感激しました。


――霜島ケイさんの「魔々(ルビ:ママ)」は、祖母の遺した家でさまざまな怪異が起こるという作品。三津田さんの作風とも共通するような、物件もの×民俗学怪談でした。

まさに霜島さんが書かれているネタを、僕も自分の故郷で聞くか、あるいは本で読んだ覚えがあります。つまりご近所である信仰をしているという話で、いつか書きたいと思っていたら、霜島さんに先を越されてしまった(笑)。おそらく霜島さんも何かの資料をもとにして、あの作品を書かれたのではないでしょうか。


――参加作家の皆さんには、「自分が最も怖いと思う怪談を書いて下さい」とオーダーされたそうですが、「最も怖い」というのは相当高いハードルですよね。


 しかもそのプレッシャーは、そのまま僕自身にも返ってくる(笑)。そこまで言っておいて三津田信三が書いたのはこれか、と思われる可能性があるわけですから。ホラー作家も作風は十人十色だけど、ホラーなら怖くなければ駄目だと思う。怖いものを書くのは本当に難しくて、僕も毎回うまくいっているとは言えませんが、真剣に怖いものを書こうとする姿勢は、自ずと作品に滲み出てきます。今回、これだけ面白い作品が集まったのは、「最も怖い」という高いハードルがあったおかげだと思います。


――三津田さんご自身の収録作は、建物系怪談をテーマにした「何も無い家」。惨劇の舞台となったらしい一軒家を舞台にした、禍々しい雰囲気の漂う怪奇小説です。

 あの作品は何のアイデアもなく、舞台設定だけを決めて書きはじめました。何ら核となるアイデアが頭にないのに、それでも怖い話が書けるのか? という別のテーマを自分に課しました。『みみそぎ』(KADOKAWA)でも同じような書き方をしましたが、今回はそれを短編で試みたわけです。『みみそぎ』と「何も無い家」の2作で、ホラーの行き着くところに達してしまったかな、という感じはあります。ここまで行ったら、この先は何を書けばいいのか。まあ、そのうちまた何か思いついて、新しいホラーを書くでしょうけど。やっぱりホラーが好きですからね。


――『七人怪談』はホラーを知り尽くした三津田さんならではの企画です。第二弾、第三弾も期待しています!

 まだまだお願いしたい方はいますし、自分でも続けられたらと思っています。大変だから毎年は無理でも(笑)、数年後にまた出せたらと。新たなホラー作家に出会う場として役立ててもらえると嬉しいです。

プロフィール

三津田 信三(みつだ・しんぞう)
2001年『ホラー作家の棲む家』でデビュー。ホラーとミステリを融合させた独特の作風で人気を得る。10年『水魑の如き沈むもの』で第10回本格ミステリ大賞を受賞。主な作品に『十三の呪』にはじまる「死相学探偵」シリーズ、『厭魅の如き憑くもの』にはじまる「刀城言耶」シリーズ、映画化もされ話題を呼んだ『のぞきめ』、『禍家』『凶宅』『魔邸』からなる〈家三部作〉、『黒面の狐』『わざと忌み家を建てて棲む』『忌物堂鬼談』など多数。

書籍紹介



歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理
著者 三津田 信三
発売日:2023年06月06日

亡者は海より這い上がり、首無女が迫り来る――。
瀬戸内にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらと歩く亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」に纏わる忌まわしい出来事について話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民俗学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながらとても怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのか――(「第一話 歩く亡者」)。ホラー×ミステリの名手による戦慄の新シリーズ始動!

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七人怪談
編著:三津田信三 著者:加門七海、菊地秀行、澤村伊智、霜島ケイ、名梁和泉、福澤徹三
発売日:2023年06月21日

屈指の名手たちが「自分が最も怖いと思う怪談」を綴る。戦慄の怪談小説集。
「これは、わたしが小学校の、高学年だった頃の話です」――少女が雑誌に投稿した、ある家族を襲った不気味な怪異の記録。悪化していく一方の父の怪我、何者かに乗っ取られ不気味な笑い声をあげる妹。そして親類たちの死。霊能者“マツシタサヤ”によって怪異は鎮められ、記録は締めくくられる。だが、この投稿を皮切りに、マツシタサヤを巡る不可解な記録が世に溢れはじめ……(澤村伊智「サヤさん」)。
 同窓会をきっかけに、故郷の実家に泊まることになった「私」。すでに実家には誰も住んでおらず、何も無い家に過ぎないはずなのに、「私」以外の何者かの気配が段々と濃くなっていく。鳥籠の中で邪悪な笑みをたたえた阿弥陀如来像、座敷の蒲団の中で蠢くモノ、そして――。忌まわしい記憶とともに、何かが迫ってくる(三津田信三「何も無い家」)。
ホラー界の巨星、三津田信三が、屈指のホラー小説の名手六人それぞれに相応しいテーマで「自分が最も怖いと思う怪談を」と依頼して編まれた戦慄のアンソロジー。

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