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特集

ダブル新刊刊行記念 三津田信三×織守きょうや特別対談〈前編〉

名探偵・刀城言耶の助手が女子大生とともに怪異の謎に挑む『歩く亡者ぼうもん 怪民研に於ける記録と推理』を6月6日に上梓した三津田信三さんと、いわくつき物件を舞台にさまざまな人のドラマが交錯する連作集『彼女はそこにいる』(6月30日発売)で初のホラーミステリに挑んだ織守きょうやさん。ホラーとミステリ、ふたつのジャンルで活躍するお二人が創作について語り合いました。対談の模様を〈前編〉〈後編〉にわけてお届けします。

取材・文=朝宮運河 写真=橋本龍二

三津田信三×織守きょうや特別対談〈前編〉


ホラーミステリの作り方


三津田信三さん(以下・三津田):『彼女はそこにいる』は初めてのホラーミステリ作品だとうかがいました。

織守きょうやさん(以下・織守):これまでホラーはホラー、ミステリはミステリと、割と区別してきたので、こういうタイプの作品を書いたのは初めてです。とはいえホラーミステリと一口に言ってもいろいろあって、正確に定義するのは難しいんですけど。

三津田ホラーとミステリの両方の要素を含んでいたら、ホラーミステリと呼んで構わないと思います。

織守怪異と思われていた現象を合理的に解明する話とか、怪異は怪異として存在するんだけど、それが発生する背景やシステムを探るタイプの話とか、いくつかのパターンがあると思いますが、いずれにしても三津田先生の作品はほとんどがホラーミステリですよね。

三津田そうですね。拙作で純粋なミステリ、純粋なホラーと呼べるものは短編にいくつかあるくらいかもしれません。両方好きなため、たとえばホラーを書いているはずなのに、気がつくと謎解き用の伏線を仕込んでいる(笑)。僕は書きながら考えるタイプなので、どうしても好きなものが出てきやすい。

織守先生がプロットを作らずに執筆されていると知って、「どうしてこれが書けるの!?」と驚きました。「刀城言耶」シリーズの長編なんてとても緻密で、複雑ですよね。

三津田だからこそです。あれだけ複雑な話を、事前にすべて構成できる人がいたら天才でしょう。さすがにメインのトリックや動機くらいは決めておきますが、それ以外の展開は書きながら考える。それが可能なのは読書量と映画鑑賞量のおかげでしょうか。いわゆる基礎体力ですね。


織守:わたしは比較的きっちり決めて書く方なので、そういうお話を聞くと信じられません。まあ、プロットを作る派と作らない派、それぞれお互いに「どうやって書いてるか分からない」と思っていそうですね。

三津田:ひとつテクニックを教えましょうか。原稿を本にする過程で、校閲から作中の矛盾点など、いろいろ指摘が入りますよね。普通はそこを修正するわけですが、僕はあえて残して、それを伏線にできるように、本文の方を変えるんです。これは効果的ですよ。

織守:なるほど、書いているご本人ですら気づかない伏線ですもんね。

三津田:一般読者にはよほどのことがない限り見抜かれない。織守さんはアイデアをすべて編集者に伝えるタイプですか。

織守:場合によりますが、メインのアイデアは共有していることが多いですね。そのアイデアで果たして勝負できるのか、客観的な意見がほしい時があるので。

三津田:なるほど、その気持ちも分かるんですが、僕は絶対に言いません。編集者が第一の読者だと思っているから、予備知識なしに読んで、驚いてもらいたい。たまに家内にも聞かれるけど、まず話しません(笑)。

1話だけでも楽しめて、2話、3話と展開するにつれて読み味が変わる



三津田:話を戻すと『彼女はそこにいる』はどういう経緯で執筆されたのですか。

織守:3つのパートからなる連作なんですが、第1話は『静岡新聞』に連載したものなんです。子どもと親御さんに向けてホラーを書いてください、というご依頼で喜んでお引き受けしたら、後になって「朝刊に載るので、読者がいやな気持ちになる話は避けてください」とオーダーが入って……。

三津田:ええっ、仕方ないでしょ、ホラーなんだから。

織守:それで第1話はできるだけ爽やかな、前向きな気持ちになれるような作品を目指しました。幸いKADOKAWAさんが、連載を始める前から「続きを書いて一冊にしませんか」と言ってくださっていたので、2話以降は大人向きに好き勝手にやらせていただいて(笑)、1話の出来事を別の視点から書くという構成になっています。

三津田:構成が非常にいいなと思いました。読んでいてロバート・ブロック『サイコ』を連想したのですが、お読みになったことはありますか?

織守:原作は未読ですが、十代の頃にヒッチコック監督の映画は観ました。

三津田:『サイコ』のすごいところは、それほど長い小説じゃないのに、犯罪小説、サイコサスペンス、怪談、ミステリとジャンルが次々と変化することなんです。読者はその巧みな構成に翻弄されるんだけど、『彼女はそこにいる』もそれに近いテイストを感じました。

織守:ありがとうございます。1話だけ読んでも独立したホラーとして楽しめて、2話、3話と展開するにつれて読み味が変わっていく、という効果は意識していました。


三津田:それから何がいいって――ネタバレになるのでぼかしますが――ある登場人物の動機です。これはちょっと思いつかない発想で、非常に感心しました。あれだけでホラーミステリの長編一本が、余裕で書けるアイデアでしょう。

織守:彼のあの行動は、それを向けた相手がああいう人でなければ意味がないものなんです。その行動が説得力を持って見えるように、「この人は特殊な、歪んだことを考える人物なんだ」と読者が納得できるようにキャラクターを造型しました。歪んだ思考を持った相手に対してだからこそ、あの行動が効果的になるという……歪んだ思考を持った人物をそれらしく書くのは、少々苦労しましたね。

三津田:いわくつきの家に住む倉木という男と、三話の語り手になる彼の関係もよかった。僕には無理だけど、書きようによってはBLになりそうな二人ですよね。

織守:そこは意識的に書いています。キャラクター同士の関係性を誉めていただくことが多いので、この二人の関係性を丁寧に描けば、“織守きょうやの小説らしさ”を感じてもらえるかなと思ったんです。

三津田:羨ましい! 僕はキャラクターの関係性なんて誉められたことがない。そもそも作者自身がキャラクターにまったく思い入れがない。

織守:ホラーは主要人物でもあっさり死んだり、失踪したりしますから(笑)。わたしは素晴らしい先駆者がたくさんいらっしゃる中で、新しいものを書かなければという思いから、キャラクターの関係性を強調しているところがあります。『響野怪談』という作品では、実話怪談風の短編集を同じキャラクターを使って書く、という試みをしてみました。

三津田:その本は実話系の怪談なんですか。

織守:一部実話をもとにしているエピソードもあります。怖いので実話怪談作家さんのように積極的な取材はしませんが。悩ましいのはキャラクターものにすると、「この人は死なないだろうな」という安心感が出てしまうことですよね。編集部からもハッピーエンドを求められがちですし。

三津田:僕も一度くらいはハッピーエンドを書いてみようかな。みんなが幸せになって、ニコニコ満面の笑みを浮かべて終わるような話。

織守:逆に怖いですよ! 絶対読者は「三津田先生の作品でこれはありえない」って深読みをすると思います。「この幸せな結末も実は全部主人公の妄想なんじゃないか」とか……(笑)。三津田先生の作品は不安な気持ちになって終わることが多いですが、主人公が生き残って成長する、という結末の作品もありますよね。「家」三部作の『魔邸』などがそうです。

三津田:ああ、そうかもしれません。怪異は終わっていない、という書き方をしているんだけど、この主人公ならきっと乗り越えられるだろう、という予感も残している。読者もそんな風に読み取っているみたいです。

〈後編〉に続く

プロフィール

三津田信三(みつだ・しんぞう)

2001 年『ホラー作家の棲む家』でデビュー。ホラーとミステリを融合させた独特の作風で人気を得る。10 年『水魑の如き沈むもの』で第 10 回本格ミステリ大賞を受賞。主な作品に『十三の呪』にはじまる「死相学探偵」シリーズ、 『厭魅の如き憑くもの』にはじまる「刀城言耶」シリーズ、『禍家』『凶宅』『魔邸』からなる「家三部作」、『どこの家にも怖いものはいる』にはじまる「幽霊屋敷」シリーズ、『黒面の狐』にはじまる「物理波矢多」シリーズ、『のぞきめ』『みみそぎ』『怪談のテープ起こし』『犯罪乱歩幻想』『逢魔宿り』『子狐たちの災園』など多数。



歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理
著者 三津田 信三
定価: 2,090円 (本体1,900円+税)
発売日:2023年06月06日

亡者は海より這い上がり、首無女が迫り来る――。
瀬戸内にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらと歩く亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」についての忌まわしい出来事について話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民俗学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながらとても怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのか――(「第一話 歩く亡者」)。ホラー×ミステリの名手による戦慄の新シリーズ始動!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322111001161/
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織守きょうや(おりがみ きょうや)

1980 年イギリス・ロンドン生まれ。2013 年『霊感検定』で第 14 回講談社 BOX 新人賞 Powers を受賞しデビュー。15 年『記憶屋』で第 22 回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞し、同作は映画化もされた。他の著作に『響野怪談』『花束は毒』『学園の魔王様と村人Aの事件簿』『英国の幽霊城ミステリー』などがある。



彼女はそこにいる
著者 織守きょうや
定価: 1,980円 (本体1,800円+税)
発売日:2023年06月30日

「人が居つかない家、というものは存在する」恐怖が3度襲うホラーミステリ

第1話「あの子はついてない」
母と共に庭付きの一軒家へ引っ越してきた中学生の茜里。妹の面倒を見ながら、新しい学校に馴染んでゆく茜里だが、家の中で奇妙なことが起こり始める。知らない髪の毛が落ちている。TVが勝手に消える。花壇に顔の形の染みが出来る。ささやかだが気になる出来事の連続に戸惑う茜里。ある夜カーテンを開けると、庭に見知らぬ男性の姿が――。
第2話「その家には何もない」
不動産仲介会社に勤める朝見は、大学の先輩でフリーライターの高田に「曰わく付きの物件」を紹介して欲しいと頼まれる。次々に貸借人が入れ替わる家の話をしたところ、「内覧したい」という高田に押し切られて現地へ向かうことに。そこは最近まで中学生の娘と母親が暮らしていた庭付きの一軒家だった。
第3話「そこにはいない」
その家にはなぜ人が居つかないのか? 新たな住人をきっかけに、過去の「ある事件」が浮かび上がる。

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