亡者は海より這い上がり、首無女が迫り来る――。
『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』レビュー
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『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』
著者:三津田信三
書評:阿津川辰海
三津田信三のホラーミステリーが、高校生の頃からずっと好きだ。そんな私にとって、『歩く
本作の舞台は
といっても、この短編集で探偵役を務めるのは刀城ではない。「怪民研」に入り浸っている謎の若い作家・
第一話「歩く亡者」は、語り手である愛自身が遭遇した、水死者の霊である「亡者」の謎を描く。事件が起きたのは
第二話「近寄る首無女」は、ジョン・ディクスン・カーを敬愛する
第三話「腹を裂く
第四話からは、シリーズとの関連を作ることよりも、連作短編集としての趣向作りが際立っていく。第四話「目貼りされる
第五話「佇む
天弓馬人がホラーミステリーの探偵として特異なのは「怖がり」である点で、これは、怪異譚の蒐集を何よりの楽しみとし、面白い話を聞きつければ興奮する刀城言耶と対照的である。天弓は、怪異に合理的な解決をつけて安心するべく、推理を捻りださなければならないのだ。そう、彼にとって推理とは、怪異と合理の間で揺れ動く、ある種のシーソーゲームなのである。この設定が、ホラーミステリーの連作に、どこかユーモラスな雰囲気を持ち込んでいる。
上述した「シーソーゲーム」については、表現は異なるが、三津田も第二話「近寄る首無女」でカーに言及しながら掘り下げている。そうすると、本短編集は、そのユーモラスな雰囲気も含めて、カーにリスペクトを捧げた連作短編集と言えるのではないか。各編の豪快なトリックにも著者の心意気が現れているように思える。
以上五編、細かく見てきたように、三津田の過去作を想起させる要素が盛りだくさんだが、むしろこれを入門編に、「ここで言及された事件は、どんなものなんだろう?」と過去作を辿っていく冒険も、また楽しいはずだ。そういう意味で、本書は入門編にもうってつけと言えるのではないか。事実、私も〈刀城言耶〉シリーズの全作品を本棚から引っ張り出してきてしまった。参った、原稿があるのに。
作品紹介
歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理
著者 三津田 信三
定価: 2,090円 (本体1,900円+税)
発売日:2023年06月06日
亡者は海より這い上がり、首無女が迫り来る――。
瀬戸内にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらと歩く亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」についての忌まわしい出来事について話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民俗学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながらとても怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのか――(「第一話 歩く亡者」)。ホラー×ミステリの名手による戦慄の新シリーズ始動!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322111001161/
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